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第26話 揺らぐ医会
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第26話 揺らぐ医会
異変に最初に気づいたのは、現場ではなかった。
医会本部――白い石造りの建物の最上階、重厚な会議室である。
「……数字が、おかしい」
一人の医師が、提出された報告書を睨みつけるように呟いた。
医会に所属する複数の医療機関から上がってきた月次報告。その中に、見過ごせない偏りが生じていた。
「回復期間が、短すぎる」
「再来院率も下がっている」
「薬の使用量が減っている……?」
ざわり、と室内が揺れる。
本来ならあり得ない。
効率を優先し、画一的な処方を行ってきた医会の方式では、こうした改善は想定されていなかった。
「原因は、どこだ」
低い声で問われ、事務官が一枚の紙を差し出す。
「……新設された医療機関と、国営薬局の連携です」
空気が、一瞬で凍りついた。
「新医療機関?」
「聞いていないぞ」
「医会の承認は、取っているのか?」
事務官は、首を横に振った。
「設立主体は、ゲート公爵家。
監督は、王宮直轄です」
その名が出た瞬間、数名の医師が顔をしかめた。
「――ミーシャ・ゲートか」
「医療体制を批判して、婚約破棄された女だな」
「厄介なことになった……」
議論は、すぐに方向を変える。
「処方内容が、違うのでは?」
「詳細すぎる処方箋など、現場の負担が増すだけだ」
「だが、その“負担”が結果を出している」
誰かが、苦々しく言った。
反論できない。
数字が、証明してしまっている。
「医師の裁量が、脅かされる」
「薬師に主導権を渡す気か?」
「違う」
年配の医師が、机を叩いた。
「これは、医会の権威そのものへの挑戦だ」
医会が定めてきた“標準”が、否定されている。
効率を優先し、症状を一括で処理する方式が、時代遅れだと示されている。
「放置すれば、他の医療機関も追随する」
「処方箋の書き方を、変えろと言われかねん」
「……それだけは、認められん」
結論は、早かった。
「新医療機関の調査を行う」
「国営薬局の動きも、洗い直せ」
「必要なら、圧をかける」
“圧”という言葉が、ためらいなく使われる。
医会は、これまでそうしてきた。
制度の名の下に、従わせてきた。
だが――
同じ頃、国営薬局では、いつも通りの業務が続いていた。
新医療機関から届く処方箋は増え、調剤は滞りなく進んでいる。
患者の不満は減り、窓口での怒号も聞こえなくなった。
局長は、報告書を閉じながら、小さく息を吐いた。
「……来るな」
数字が動けば、必ず反発がある。
それは、覚悟していた。
だが今回は、違う。
背後には、ゲート公爵家がいる。
そして、王宮が。
「医会が動けば、表に出る」
局長は、そう判断していた。
一方、ゲート公爵邸では、ミーシャ・ゲートが静かに知らせを受け取っていた。
「医会内部が、ざわついています」
「想定内です」
彼女の声は、冷静だった。
「数字が出た以上、無視はできない」
医会は、危機感を抱いている。
それはつまり――
「改革が、効いている証拠です」
ミーシャは、窓の外に目を向ける。
嵐は、これからだ。
だが、風向きはすでに変わり始めている。
医会が揺らいだ、その瞬間を――
彼女は、確かに感じ取っていた。
異変に最初に気づいたのは、現場ではなかった。
医会本部――白い石造りの建物の最上階、重厚な会議室である。
「……数字が、おかしい」
一人の医師が、提出された報告書を睨みつけるように呟いた。
医会に所属する複数の医療機関から上がってきた月次報告。その中に、見過ごせない偏りが生じていた。
「回復期間が、短すぎる」
「再来院率も下がっている」
「薬の使用量が減っている……?」
ざわり、と室内が揺れる。
本来ならあり得ない。
効率を優先し、画一的な処方を行ってきた医会の方式では、こうした改善は想定されていなかった。
「原因は、どこだ」
低い声で問われ、事務官が一枚の紙を差し出す。
「……新設された医療機関と、国営薬局の連携です」
空気が、一瞬で凍りついた。
「新医療機関?」
「聞いていないぞ」
「医会の承認は、取っているのか?」
事務官は、首を横に振った。
「設立主体は、ゲート公爵家。
監督は、王宮直轄です」
その名が出た瞬間、数名の医師が顔をしかめた。
「――ミーシャ・ゲートか」
「医療体制を批判して、婚約破棄された女だな」
「厄介なことになった……」
議論は、すぐに方向を変える。
「処方内容が、違うのでは?」
「詳細すぎる処方箋など、現場の負担が増すだけだ」
「だが、その“負担”が結果を出している」
誰かが、苦々しく言った。
反論できない。
数字が、証明してしまっている。
「医師の裁量が、脅かされる」
「薬師に主導権を渡す気か?」
「違う」
年配の医師が、机を叩いた。
「これは、医会の権威そのものへの挑戦だ」
医会が定めてきた“標準”が、否定されている。
効率を優先し、症状を一括で処理する方式が、時代遅れだと示されている。
「放置すれば、他の医療機関も追随する」
「処方箋の書き方を、変えろと言われかねん」
「……それだけは、認められん」
結論は、早かった。
「新医療機関の調査を行う」
「国営薬局の動きも、洗い直せ」
「必要なら、圧をかける」
“圧”という言葉が、ためらいなく使われる。
医会は、これまでそうしてきた。
制度の名の下に、従わせてきた。
だが――
同じ頃、国営薬局では、いつも通りの業務が続いていた。
新医療機関から届く処方箋は増え、調剤は滞りなく進んでいる。
患者の不満は減り、窓口での怒号も聞こえなくなった。
局長は、報告書を閉じながら、小さく息を吐いた。
「……来るな」
数字が動けば、必ず反発がある。
それは、覚悟していた。
だが今回は、違う。
背後には、ゲート公爵家がいる。
そして、王宮が。
「医会が動けば、表に出る」
局長は、そう判断していた。
一方、ゲート公爵邸では、ミーシャ・ゲートが静かに知らせを受け取っていた。
「医会内部が、ざわついています」
「想定内です」
彼女の声は、冷静だった。
「数字が出た以上、無視はできない」
医会は、危機感を抱いている。
それはつまり――
「改革が、効いている証拠です」
ミーシャは、窓の外に目を向ける。
嵐は、これからだ。
だが、風向きはすでに変わり始めている。
医会が揺らいだ、その瞬間を――
彼女は、確かに感じ取っていた。
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