異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ

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衛生革命第七章 モデル地区での実証実験

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衛生革命第七章 モデル地区での実証実験



 王宮での承認から数日後、エリアナは再び王都の貧民街に足を運んでいた。
 狭い路地には悪臭が立ち込め、汚水が溝を黒く染めている。裸足の子供たちが泥水の中を走り回り、その背後で咳き込む老人の姿。

「……やっぱり、このままじゃ駄目ね」

 エリアナは胸を押さえ、深く息を吐いた。

「でも、まずはここから。小さな地区で成果を示せば、誰も文句は言えないわ」

 そう呟くと、後ろからマルクス親方が大股で歩み寄ってきた。

「嬢ちゃん、本当にこの地区で始めるのか? 金にもならんし、住民も疑り深いぞ」

「だからこそよ。ここで成功すれば、王都全体が動き出すはず」

 エリアナの言葉に、親方は苦笑しつつも肩をすくめた。


---

 やがて、広場に住民が集められた。粗末な服を着た男たち、腕を組む女たち、そして不安げに見つめる子供たち。

「なんで俺たちの街から始めるんだ?」
「どうせ実験台にするつもりだろ」
「下水道? そんなもの、きれいにしたって腹は膨れない」

 不信と怒りの声が飛び交う。

 エリアナは一歩前へ出て、しっかりと頭を下げた。

「皆さん、私は公爵家の娘エリアナです。ですが、今日ここに来たのは身分ではなく、一人の人間として──あなた方と同じ、この街で生きる人としてです」

 ざわめきが収まる。

「私はこれまで、多くの病と闘ってきました。ペニシリン、キレート療法……でも、どんな治療をしても、また新しい病がやってきた。その理由は、街そのものにあるんです」

 彼女は泥水に浸った足元を指差す。

「汚れた水と食べ物が、病を呼んでいる。下水道を整えれば、子供たちが病に倒れることもなくなるのです」


---

 その時、一人の女が声をあげた。
 ソフィアと名乗る住民代表だ。

「本当に……病気が減るのですか? 私の弟は、汚れた水で赤痢にかかり、もう歩けません。そんな弟を救えるのですか?」

 エリアナは真剣な眼差しで頷いた。

「必ず、です。時間はかかりますが、必ず変えられます」

 ソフィアはしばらく黙ってから、強く拳を握った。

「……分かりました。ならば私たちも協力します」

 その一言が引き金となり、周囲の住民たちも次々と声を上げる。

「なら俺も手を貸す」
「娘に病で苦しんでほしくない」
「よし、一緒にやろう!」

 広場に力強い声が響いた。


---

 翌日から、工事が始まった。
 石を割る音、土を掘る音、汗をぬぐう声が路地に満ちる。

「よし、もっと深く掘れ!」
「管を通す溝を真っ直ぐにしろ!」

 マルクス親方の指導のもと、住民総出の工事が進む。
 エリアナは手に設計図を持ちながら、時折泥に足を取られつつも現場を歩き回った。

「勾配は大丈夫? 千分の三の傾斜が理想よ!」
「嬢ちゃん、またわけの分からんことを!」

 親方が笑いながらも、測量棒を調整する。

 ソフィアは工事に参加できない老人や子供たちをまとめ、炊き出しや資材運搬を指揮していた。

「水を運んで! 子供たちは道具を洗って!」
「はーい!」

 街全体が少しずつ一つになっていく。


---

 しかし、困難も多かった。
 地下からは濁った水が溢れ出し、作業はしばしば中断した。

「うわっ! 水だ!」
「これじゃ掘れないぞ!」

 エリアナは慌てずに指示を飛ばす。

「排水ポンプを設置しましょう! あ、ない? じゃあ手押しポンプで代用を!」

 泥にまみれた住民たちが必死に水を汲み出す。
 夜になっても作業は続き、ランプの明かりが揺れながら路地を照らした。


---

 数週間後。
 最初の下水管が敷設され、流し込まれた水が勢いよく流れていった。

「おお……流れた!」
「溜まらない! 臭くない!」

 歓声が上がる。
 子供たちは目を輝かせ、老人は涙を浮かべていた。

「嬢ちゃん、本当にやり遂げちまったな……」
 マルクス親方が感慨深げに呟く。

「いえ、私一人じゃできませんでした。皆さんの力があったからこそです」

 エリアナは泥だらけの頬をぬぐい、誇らしげに微笑んだ。


---

 その夜、工事現場の片隅で簡素な宴が開かれた。
 ソフィアが作ったパンとスープ、そして住民たちが持ち寄ったわずかな食材。

「エリアナ様に乾杯!」
「下水道に乾杯!」

 笑い声が響く中、エリアナは少し離れて空を見上げた。
 星々が輝く夜空の下、街の空気が少しだけ澄んでいる気がした。

(きっと、これが始まり……)

 胸に灯った希望を抱きしめ、彼女はそっと目を閉じた。


---
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