異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

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衛生革命第六章　財政問題と政治的対立

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衛生革命第六章　財政問題と政治的対立

　王宮の会議室に、またもや重苦しい空気が漂っていた。
　机の上にはエリアナが描いた「王都上下水道統合計画」の設計図。だが、その精密な図面よりも、人々の関心はただ一つに集まっていた。

「──費用だ。こんな巨大工事をすれば、国家予算はひとたまりもない！」

　財務大臣ヴィクターが机を叩いて叫んだ。

「導水路に暗渠、配水池、処理場……何千、何万もの労働者を動員せねばならん。軍備費を削れというのか？　税をさらに重くするというのか？」

　議場に集まった貴族たちも一斉に騒ぎ立てる。

「ただの汚物処理に金をかけるなど下品な！」
「軍備こそ国家の命脈。下水道など贅沢の極み！」
「病に弱い者は淘汰されればよい！」

　その言葉に、エリアナはぐっと拳を握りしめた。

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「……下品？　贅沢？」

　彼女の声が震えた。だが次の瞬間、まっすぐに貴族たちを射抜くような瞳で見返す。

「あなた方は本当に何も分かっていません！」

　会議室が静まり返る。

「病気で倒れた民は働けません。労働力が失われ、生産性は下がり、税収も減ります。医師や薬師に払う金は膨れ上がり、国家の財政を圧迫し続ける！」

　彼女は卓上の羊皮紙を広げ、数字を書き込んだ。

「例えば──疫病で一万人が病に伏せれば、その家族を含め数万人が生活困難に陥る。その損失額は数十万金貨。しかも毎年です！」

　貴族たちが息を呑む。

「下水道と上水道を整備すれば、感染症は劇的に減ります。数十年のスパンで見れば、必ず元は取れるのです！」

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　宰相が感心したように頷く。

「長期的な経済効果、か……」

　だが、財務大臣ヴィクターはなおも反論を続けた。

「そんな夢物語を信じろと？　証拠はあるのか！」

　エリアナはきっぱり言い切った。

「証拠ならあります。すでに貧民街のモデル地区で、感染症が激減しました！」

　マルクス親方が立ち上がる。

「嬢ちゃんの言う通りだ。俺の甥っ子も下痢で死にかけてたが、水道ができてからはすっかり元気になった。工事に参加した住民も、病に倒れることが減った！」

　彼の力強い証言に、議場はどよめいた。

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　しかし別の貴族が鼻で笑う。

「貧民街が健康になってどうなる。むしろ奴らは元気に増えて厄介だ」

　その言葉に、エリアナの血が沸いた。

「……あなたは人の命を何だと思っているのですか？」

　彼女の声は低く、だが怒りをはらんでいた。

「民あっての国です。あなた方が高級な食事をし、快適な屋敷に住めるのは、誰が耕し、誰が建て、誰が働いているからですか？」

　貴族の顔色が変わる。

「病に苦しむ庶民を見捨てるということは、結局あなた方自身の首を絞めることなのです！」

　強い言葉に、場は押し黙った。

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　その時、国王アルフレッド三世が重々しい声で口を開いた。

「……私はエリアナ嬢の意見に理があると思う」

　全員が一斉に頭を垂れる。

「度重なる疫病で、わが王国の財政は確かに疲弊している。だが、今こそ根本から変える時だ。軍備も大事だが、民を守ることもまた王の務め。下水道は無駄ではない」

　国王の言葉に、議場がざわめいた。

　財務大臣ヴィクターは額に汗を浮かべ、やがて歯ぎしりをしながら言った。

「……ですが、予算の調整は必要です。全市一斉に工事するのは無謀。まずは段階的に、重点地区から始めるべきでしょう」

　国王は頷いた。

「よかろう。それで進めよ。──エリアナ嬢、そなたが監督せよ」

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　会議後。
　エリアナは一人、窓辺で深いため息をついた。

「はぁ……また大役を押し付けられたわ」

　ルカスが寄り添う。

「でも、王はあなたを信じておられる。それだけの実績を出してきたではないか」

「私、医者でも技師でもなく……ただのオタクだったのに」

　エリアナは苦笑した。

「シムシティの知識で国家予算を語る日が来るなんて、誰が想像したかしら」

　ルカスは優しい眼差しで答える。

「民の命を守ろうとする心があれば十分だ」

　エリアナは彼を見上げ、少しだけ頬を赤らめた。

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　数日後。
　財務省から正式に通達が出された。

──「上下水道整備計画、予算承認。ただし段階的実施とする」

　街の人々がその知らせに沸き立った。

「本当に下水道ができるのか！」
「清潔な水が手に入るんだって！」

　笑顔を見て、エリアナは静かに決意を固めた。

（長い戦いになるわ。でも必ずやり遂げる。病気に怯えない未来のために──）

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