異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ

文字の大きさ
29 / 62

衛生革命編第八章 技術的困難と解決

しおりを挟む
衛生革命編第八章 技術的困難と解決


 モデル地区での下水道建設は順調に進んでいた。
 だが、工事というものは決して予定通りにいくものではない。

 ある日のこと──。

「エリアナ様ーっ! 地下から水が溢れ出して止まりません!」

 作業員の悲鳴に駆けつけたエリアナは、泥水に膝まで浸かっている現場を見て顔をしかめた。
 掘り進めた地下溝の底から、どくどくと濁った水が湧き出している。

「……やっぱり出たわね、地下水。シムシティでもよくあったトラブルよ」

 頭を抱えるエリアナに、マルクス親方が駆け寄る。

「嬢ちゃん、こりゃあダメだ! いくら掘っても水に飲まれちまう!」

「いいえ、方法はあります。『ウェルポイント工法』を使いましょう」

「ウェル……何だって?」

 エリアナは泥にスカートを汚しながらも、真剣な表情で説明を始めた。

「要するに、周囲に小さな井戸を並べて掘って、そこから水を汲み上げ続けるんです。そうすれば掘削現場に地下水が入ってこない」

「井戸を並べて……水を抜き続けるだと?」

「そうです! 皆さん、さっそく小井戸を掘ってポンプを設置してください!」

 作業員たちは半信半疑ながらも指示通り動き出した。やがて複数のポンプが稼働し、泥水は次第に引いていった。

「おお……本当に水が止まった!」
「これなら作業を続けられる!」

 現場に歓声が広がり、親方も感心したように顎を撫でる。

「嬢ちゃん……いや、エリアナ様。アンタは本当に土木技師じゃないのか?」

「だから言ってるでしょう。私はただのオタクです!」


---

 しかし、問題は地下水だけではなかった。
 次に待ち受けていたのは、軟弱な地盤だ。

「見てください、管を据えた途端に沈んでしまうんです!」
「これじゃあ勾配がめちゃくちゃになっちまう!」

 土が柔らかく、重たい石管がずぶずぶと沈み込んでしまう。

 エリアナは一瞬考え込み──そしてぱっと顔を上げた。

「……そうだ、石灰を使いましょう!」

「石灰?」

「そう、地盤に石灰を混ぜて固めるのよ! いわゆる『地盤改良』です」

 彼女は地面に棒で図を描きながら説明を続ける。

「石灰を加えると土が化学反応を起こして硬くなる。これで沈み込みを防げます」

「そんな魔法みたいな話が……」

 親方が半信半疑で石灰を撒かせると──数日後、地盤は見事に締まり、石管がしっかりと据え付けられるようになった。

「本当に固まった……!」
「嬢ちゃんの言った通りだ!」

 職人たちが歓声をあげる。


---

 だが、工事を進める上で最も重要なのは「勾配」だった。
 エリアナは毎日のように測量棒と水準器を抱えて現場を走り回っていた。

「こっちは傾斜が急すぎます! これじゃあ流速が上がりすぎて管が摩耗します!」
「嬢ちゃん、遅すぎても駄目なんだろ?」
「そうです! 遅すぎると汚物が堆積して詰まります。千分の二から五、この範囲で調整してください!」

 現場は数字と計算の嵐となった。

 職人たちは頭を抱えながらも、少しずつエリアナの理屈を理解し始める。

「水は高いところから低いところに流れる……ただそれだけなのに、奥が深えな」
「嬢ちゃんが言ってるのは、理にかなってる」

 やがて彼らは自主的に計算を始めるようになり、工事の精度は飛躍的に向上していった。


---

 ある夜。
 ソフィアが差し入れのパンを持って現場を訪れた。

「エリアナ様、本当にありがとうございます。みんな、病気の少ない街を夢見て頑張っています」

 エリアナは泥に汚れた手を見つめ、少し照れたように笑った。

「いえ、私なんて……ただ、ゲームで学んだ知識を応用しているだけですから」

「ゲーム?」

「あっ……その……ええと、遊びながら街を作る遊戯があるんです」

 ソフィアは首を傾げながらも、優しく笑った。

「どんな形であれ、あなたの知識が人々を救っているのです。立派なことですよ」

 その言葉に、エリアナの胸はじんわりと温かくなった。


---

 数週間後。
 地下水は制御され、軟弱地盤も安定し、勾配も完璧に調整された。

 流し込まれた水は淀みなく、静かに地下を走り抜けていく。

「……これなら、病気の温床にはならないわね」

 エリアナは満足そうに呟いた。
 泥にまみれた職人たち、笑顔を見せる住民たち、その中心で彼女は静かに胸を張った。

(そう……これが、本当の意味での『衛生革命』の第一歩)

 星空の下、エリアナは泥だらけの手を握りしめ、次なる挑戦を見据えていた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

虐げられ聖女の力を奪われた令嬢はチート能力【錬成】で無自覚元気に逆襲する~婚約破棄されましたがパパや竜王陛下に溺愛されて幸せです~

てんてんどんどん
恋愛
『あなたは可愛いデイジアちゃんの為に生贄になるの。  貴方はいらないのよ。ソフィア』  少女ソフィアは母の手によって【セスナの炎】という呪術で身を焼かれた。  婚約した幼馴染は姉デイジアに奪われ、闇の魔術で聖女の力をも奪われたソフィア。  酷い火傷を負ったソフィアは神殿の小さな小屋に隔離されてしまう。  そんな中、竜人の王ルヴァイスがリザイア家の中から結婚相手を選ぶと訪れて――  誰もが聖女の力をもつ姉デイジアを選ぶと思っていたのに、竜王陛下に選ばれたのは 全身火傷のひどい跡があり、喋れることも出来ないソフィアだった。  竜王陛下に「愛してるよソフィア」と溺愛されて!?  これは聖女の力を奪われた少女のシンデレラストーリー  聖女の力を奪われても元気いっぱい世界のために頑張る少女と、その頑張りのせいで、存在意義をなくしどん底に落とされ無自覚に逆襲される姉と母の物語 ※よくある姉妹格差逆転もの ※虐げられてからのみんなに溺愛されて聖女より強い力を手に入れて私tueeeのよくあるテンプレ ※超ご都合主義深く考えたらきっと負け ※全部で11万文字 完結まで書けています

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

処理中です...