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衛生革命編 第十二章 処理場建設と環境対策
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王都の大規模下水道工事が進む中、エリアナの心には一つの懸念があった。
(……確かに汚水を地下に流す仕組みは完成しつつある。でも、このまま川に垂れ流してしまったら、下流に住む人々に被害が出るわ)
ある日、工事会議でエリアナは真剣な表情で口を開いた。
「皆さま、下水道は大いに役立つでしょう。しかし、汚水を処理せずに川へ流せば――下流の村で新たな感染症が発生します」
「なっ……」
「たしかに……」
技師たちや貴族たちがざわつく。
「では、どうすればよいのですか?」と財務大臣ヴィクターが眉をひそめた。
「答えは簡単です。『処理場』を作るのです」
「処理場……?」
「ええ。汚水を一度集め、沈殿やろ過を行い、できるだけきれいにしてから川へ戻すのです」
呆気にとられる一同を前に、エリアナはさらさらと図を描き始めた。
◇ ◇ ◇
大きな羊皮紙には、池のような施設がいくつも連なった図が描かれていく。
「第一槽で大きなごみや砂を沈殿させます。次に砂ろ過槽を通し、最後に日光や植物の力でさらに水を清浄化する……」
「なるほど……段階を踏んで水をきれいにするわけか」
「これならば、川に戻しても悪影響は少ない」
職人たちが感心して頷く。
「さらに、沈殿した汚泥は無駄ではありません」
「無駄ではない?」
「ええ。発酵させて堆肥にすれば、農業で肥料として再利用できます」
その言葉にマルクス親方が目を丸くした。
「汚物が……肥料に?」
「そうです。自然の循環を利用するのです」
場の空気が一変した。
◇ ◇ ◇
処理場建設は、王都郊外の川辺に決定した。
広大な土地を整地し、いくつもの池を掘り、石の壁で仕切る。
「石積みは隙間をなくすように。水が漏れれば意味がありません」
「ろ過槽には川砂を何層にも敷き詰めてください」
エリアナは現場を回りながら、細かく指示を飛ばしていく。
(ポンプや機械がなくても……自然の力を最大限に利用すれば、立派な処理システムは作れるわ)
だが、問題は山積みだった。
ある日、現場監督が青ざめた顔で報告に来た。
「エリアナ様、大変です! 沈殿槽の底から水が湧き出し、工事が進みません!」
「地下水……!」
エリアナは現場に駆けつけ、泥水があふれる沈殿槽を見下ろした。
「これは……湧水量が予想以上ね。仕方ない、ウェルポイント工法を試しましょう」
「ウェル……?」
「周囲に小さな井戸を何本も掘り、そこから水を汲み上げて排水するのです」
彼女の指示で作業が進むと、たしかに湧水は次第に減っていった。
「すげぇ……嬢ちゃん、なんでそんな方法を知ってるんだ……」
「え、えっと……書物で読んだことがありまして」
(ほんとは前世でYouTubeの土木動画を見ただけなんて言えないわよね……)
◇ ◇ ◇
数か月後。
ついに処理場が完成した。
石造りの大槽に汚水が流れ込み、ゆっくりと濁りが沈んでいく。
次の槽では砂の層を通って透明度を増し、最後に広い池で太陽の光を浴びながら自然浄化されていく。
「見よ! 最初は黒かった水が……」
「ほら、ほとんど澄んでいる!」
見学に来ていた貴族や市民たちが、口々に驚きの声を上げた。
「これなら魚も戻ってきますな」
「農地に流す水としても使える……」
ガブリエル医師長が感慨深く呟いた。
「これほどの仕組みを考案するとは……まさに衛生革命だ」
◇ ◇ ◇
さらに、堆肥化施設では処理した汚泥が山のように積まれていた。
「これを発酵させれば、肥料になります」
「本当に作物が育つのか?」
農民代表が半信半疑で尋ねる。
「試してみましょう」
エリアナは小麦畑の一角に堆肥を撒かせた。
数週間後、そこだけ芽吹きが早く、茎が太く育っていた。
「ほ、本当だ……!」
「汚物が農の宝に……」
歓声があがり、農民たちは涙を流して喜んだ。
◇ ◇ ◇
その夜。
処理場を見下ろす高台に立ち、エリアナは静かに呟いた。
「……これで、本当に川は人々を育む恵みの水になる」
横で護衛のルカスがうなずく。
「嬢ちゃんは、この国を病から救っただけじゃない。豊かさまで与えたんだ」
遠くからは、処理場の水音が絶え間なく響いていた。
それはまるで、新たな時代の鼓動のようだった。
こうして王都に初めての「下水処理場」が誕生した。
それは単なる施設ではなく、環境と人々の暮らしを守る「衛生革命の象徴」となったのである。
(……確かに汚水を地下に流す仕組みは完成しつつある。でも、このまま川に垂れ流してしまったら、下流に住む人々に被害が出るわ)
ある日、工事会議でエリアナは真剣な表情で口を開いた。
「皆さま、下水道は大いに役立つでしょう。しかし、汚水を処理せずに川へ流せば――下流の村で新たな感染症が発生します」
「なっ……」
「たしかに……」
技師たちや貴族たちがざわつく。
「では、どうすればよいのですか?」と財務大臣ヴィクターが眉をひそめた。
「答えは簡単です。『処理場』を作るのです」
「処理場……?」
「ええ。汚水を一度集め、沈殿やろ過を行い、できるだけきれいにしてから川へ戻すのです」
呆気にとられる一同を前に、エリアナはさらさらと図を描き始めた。
◇ ◇ ◇
大きな羊皮紙には、池のような施設がいくつも連なった図が描かれていく。
「第一槽で大きなごみや砂を沈殿させます。次に砂ろ過槽を通し、最後に日光や植物の力でさらに水を清浄化する……」
「なるほど……段階を踏んで水をきれいにするわけか」
「これならば、川に戻しても悪影響は少ない」
職人たちが感心して頷く。
「さらに、沈殿した汚泥は無駄ではありません」
「無駄ではない?」
「ええ。発酵させて堆肥にすれば、農業で肥料として再利用できます」
その言葉にマルクス親方が目を丸くした。
「汚物が……肥料に?」
「そうです。自然の循環を利用するのです」
場の空気が一変した。
◇ ◇ ◇
処理場建設は、王都郊外の川辺に決定した。
広大な土地を整地し、いくつもの池を掘り、石の壁で仕切る。
「石積みは隙間をなくすように。水が漏れれば意味がありません」
「ろ過槽には川砂を何層にも敷き詰めてください」
エリアナは現場を回りながら、細かく指示を飛ばしていく。
(ポンプや機械がなくても……自然の力を最大限に利用すれば、立派な処理システムは作れるわ)
だが、問題は山積みだった。
ある日、現場監督が青ざめた顔で報告に来た。
「エリアナ様、大変です! 沈殿槽の底から水が湧き出し、工事が進みません!」
「地下水……!」
エリアナは現場に駆けつけ、泥水があふれる沈殿槽を見下ろした。
「これは……湧水量が予想以上ね。仕方ない、ウェルポイント工法を試しましょう」
「ウェル……?」
「周囲に小さな井戸を何本も掘り、そこから水を汲み上げて排水するのです」
彼女の指示で作業が進むと、たしかに湧水は次第に減っていった。
「すげぇ……嬢ちゃん、なんでそんな方法を知ってるんだ……」
「え、えっと……書物で読んだことがありまして」
(ほんとは前世でYouTubeの土木動画を見ただけなんて言えないわよね……)
◇ ◇ ◇
数か月後。
ついに処理場が完成した。
石造りの大槽に汚水が流れ込み、ゆっくりと濁りが沈んでいく。
次の槽では砂の層を通って透明度を増し、最後に広い池で太陽の光を浴びながら自然浄化されていく。
「見よ! 最初は黒かった水が……」
「ほら、ほとんど澄んでいる!」
見学に来ていた貴族や市民たちが、口々に驚きの声を上げた。
「これなら魚も戻ってきますな」
「農地に流す水としても使える……」
ガブリエル医師長が感慨深く呟いた。
「これほどの仕組みを考案するとは……まさに衛生革命だ」
◇ ◇ ◇
さらに、堆肥化施設では処理した汚泥が山のように積まれていた。
「これを発酵させれば、肥料になります」
「本当に作物が育つのか?」
農民代表が半信半疑で尋ねる。
「試してみましょう」
エリアナは小麦畑の一角に堆肥を撒かせた。
数週間後、そこだけ芽吹きが早く、茎が太く育っていた。
「ほ、本当だ……!」
「汚物が農の宝に……」
歓声があがり、農民たちは涙を流して喜んだ。
◇ ◇ ◇
その夜。
処理場を見下ろす高台に立ち、エリアナは静かに呟いた。
「……これで、本当に川は人々を育む恵みの水になる」
横で護衛のルカスがうなずく。
「嬢ちゃんは、この国を病から救っただけじゃない。豊かさまで与えたんだ」
遠くからは、処理場の水音が絶え間なく響いていた。
それはまるで、新たな時代の鼓動のようだった。
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