異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ

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衛生革命編 第十章 モデル地区の大成功

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 数か月が過ぎた。
 エリアナが手掛けたモデル地区の下水道は、すでに日常生活に根づいていた。

「最近、子供たちが病気で寝込むことが減ったな」
「お腹を壊して倒れる人もいなくなった」
「葬式の数が……目に見えて減った」

 人々は噂し合い、喜びを隠せなかった。
 かつて病で家族を失い、諦めに染まっていた顔が、今は笑顔で輝いている。

 ソフィアがエリアナに報告を持ってきた。

「エリアナ様、こちらの記録をご覧ください」

 差し出された帳簿には、地区ごとの死亡率や発病件数が記されていた。

「……一年で感染症発生率が九割も減少?」

 エリアナは目を見開いた。

「はい。特に赤痢やコレラ様の症状がほぼ消えました。乳児の生存率も大幅に改善しています」

「すごい……! ここまで劇的に効果が出るなんて……」

 エリアナの声には、喜びと安堵が入り混じっていた。


---

 ◇ ◇ ◇

 その噂はすぐに王都全体へと広がった。

「どうやら、あの貧民街は病気が激減しているらしいぞ」
「エリアナ様の下水道のおかげだと……」
「信じられるか? あの地区の方が、我々貴族街よりも健康的だなんて!」

 鼻で笑っていた貴族たちが、今では羨望の眼差しを向けていた。

「我が屋敷にも下水道を敷設していただきたい」
「金ならいくらでも払おう!」

 掌を返すような要求が次々に寄せられる。


---

 やがて、王城でもこの話題が議題に上がった。
 重々しい会議の場、財務大臣ヴィクターが立ち上がる。

「これは国家にとって無視できぬ成果です。疫病の流行が止まれば、軍備以上に国の力を保てるでしょう」

 衛生を軽んじていた彼の声には、もはや迷いがなかった。

「陛下、全王都に下水道を整備するべきと考えます」

 場内がざわめく。

「ふむ……」

 国王アルフレッド三世は深く頷き、そして宣言した。

「全王都に下水道を敷設せよ。これは国家の威信を懸けた事業とする!」

 その場にいた全員が息を呑んだ。


---

 数日後。
 謁見の間に呼ばれたエリアナは、膝を折って頭を垂れた。

「エリアナ・フォン・アルトハイムよ。そなたの働きによって、民は病から解放されつつある。これは偉業である」

「恐れ入ります、陛下。私はただ、正しい知識をお伝えしただけです」

 国王はゆっくりと立ち上がり、彼女に歩み寄った。

「謙遜するな。そなたの功績は国の未来を変える。よってここに命ずる。――エリアナを、王国の『衛生工学顧問』に任ずる」

 広間にどよめきが走った。

「女性が工学顧問に?」
「前代未聞だ……」

 だが誰も異を唱えられなかった。モデル地区の成功は、すべてが事実として示されていたからだ。

 エリアナは深々と頭を下げる。

「身に余る光栄です。しかし、これはまだ始まりに過ぎません。王都全体を清潔にし、人々を病から守るために……力を尽くす所存です」

 その声は澄み渡り、揺るぎない決意を感じさせた。


---

 ◇ ◇ ◇

 謁見を終えたエリアナのもとへ、ソフィアとマルクス親方が駆け寄ってきた。

「エリアナ様、ついに国家事業になりましたね!」
「まさか、あの小さな貧民街の工事が、王都全体を動かすことになるとはな……」

 マルクスは感慨深げに顎髭を撫でた。

「でも、本当にここからが大変ですわ。全市規模の工事……数千人規模の労働者、膨大な資材、膨大な予算。少しでも間違えれば……」

 エリアナの言葉に二人の表情が引き締まる。

「それでも、やるしかない。みんなの命がかかっているんですもの」

 彼女は胸に手を当て、ぐっと顔を上げた。

「必ず成功させます。百年後も誇れる、世界一清潔な都市にするために!」


---

 王都に吹く風は、もう以前の淀んだ臭気ではなかった。
 変革の息吹と希望の香りが、人々の胸に確かに広がっていた。

(まだ始まりにすぎない……でも、この道を進めば必ず未来は変えられる)

 エリアナは胸の奥でそう呟き、次なる挑戦を見据えるのだった。



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