婚約破棄された芋女ですが、北で砂糖を作ったら王国が甘くなりました

ふわふわ

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第二十三話 甘味の先にあるもの

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第二十三話 甘味の先にあるもの

 王都に北甘味出張店が開いてから、ひと月が過ぎた。

 報告書は山のように届く。

 売上、来客層、湿度管理の記録、粉の安定性、乳の保存日数。

 私はそれらを一つ一つ読み込む。

 甘味は感覚の世界だが、成功は数字で見る。

 王都の店は“高級甘味店”として軌道に乗った。

 価格は北の三倍。

 それでも列ができる。

 なぜか。

 希少だからだ。

 北では日常。

 王都では憧れ。

 環境が違えば、立ち位置も変わる。

 私は窓辺に立つ。

 北の空は今日も乾いている。

 粉は安定し、乳は冷える。

 改めて思う。

 ここは奇跡の土地だった。

 寒さは不利ではない。

 資源だった。

 だが、甘味の成功は新たな波を呼ぶ。

 父が静かに告げる。

「南方砂糖商会が動き出した」

「圧力ですか?」

「いや、値下げだ」

 私は目を細める。

 価格競争。

 予想はしていた。

 南国産砂糖を大量放出し、相場を下げる。

 北のてんさい糖を潰すつもりだ。

 短期的な赤字を覚悟してでも、独占を守る。

 私は帳簿を開く。

 北の生産コスト。

 農民への支払い。

 精製費。

 輸送費。

 南国産より、まだ安い。

 だが価格を下げすぎれば、農民が苦しむ。

 私は決断する。

「価格は維持します」

「対抗しないのか?」

 父が問う。

「品質で勝ちます」

 北の白砂糖は安定している。

 純度が高い。

 結晶が均一。

 そして何より、地元産。

 私は市場に出す。

 “北産白砂糖、品質保証書付き”。

 王立研究院の検査印。

 透明なガラス瓶。

 見せる。

 隠さない。

 数週間後、結果は明らかだった。

 南国産は確かに安い。

 だが品質にばらつきがある。

 湿気で固まる。

 灰分が残る。

 貴族は北産を選ぶ。

 中産階級は価格で南国産を選ぶ。

 市場は二分された。

 独占は崩れた。

 それだけで十分。

 北は潰れない。

 甘味茶房では新作が生まれていた。

 白砂糖を使った軽いスポンジに、てんさいシロップを染み込ませた菓子。

 職人が興奮して言う。

「王都にはない味です」

「当然ですわ」

 私は笑う。

 王都は模倣できる。

 だが北の空気までは持っていけない。

 この乾いた風。

 この冷えた夜。

 甘味を守る環境。

 その夜、私は一人で研究棟に向かう。

 再結晶槽の前に立つ。

 白い結晶がゆっくり育つ。

 光を受けて輝く。

 婚約破棄の日を思い出す。

 私は価値がないと言われた。

 芋女。

 寒村の娘。

 だが今、王都は北を見ている。

 甘味は、私を救った。

 いや、私が甘味を掴んだのだ。

 数日後、王太子が北を訪れるという知らせが届く。

 公式訪問。

 表向きは視察。

 だが本当の目的は分かる。

 確認だ。

 北がどこまで来たのか。

 私は茶房の窓を拭く。

 王太子が見るのは、ふわふわのパンケーキだけではない。

 笑う民。

 整った街路。

 潤った市場。

 甘味がもたらした繁栄。

 父が静かに言う。

「覚悟はあるか」

「もちろん」

 甘味は武器ではない。

 だが力だ。

 そして今、その力は北にある。

 私は窓の外を見る。

 夕日が白い砂糖のように輝いている。

 北のお菓子の国。

 その名は、もう誰にも奪えない。

 そして明日。

 王太子が、甘味の都を歩く。

 白砂糖の輝きが、彼の目にどう映るのか。

 それを見届ける準備は、できていた。
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