婚約破棄された芋女ですが、北で砂糖を作ったら王国が甘くなりました

ふわふわ

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第二十二話 甘味の王都計画

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第二十二話 甘味の王都計画

 北の空は澄んでいる。

 乾いた空気は粉を守り、冷えた風は乳を守る。

 だからこそ、北は甘味に向いている。

 だが王都は違う。

 湿気が重く、空気は柔らかい。

 粉はすぐ湿る。

 乳はすぐ傷む。

 王都にスイーツが根付かない理由は、技術不足ではない。

 環境の差。

 それがすべてだった。

 王太子からの書簡には、こうあった。

 ――北の技術を王都へ。

 私は窓辺で考える。

 再現は可能。

 だが同じにはならない。

 王都で甘味を成立させるには、北とは違う戦略が必要だ。

 私は研究棟に向かう。

 白い粉――魔法の粉は、乾燥した空気で安定している。

 王都では湿気対策が必要。

 密閉容器。

 乾燥剤。

 焼成直前混合。

 工程を短縮する必要がある。

「お嬢様」

 助手が報告する。

「王立研究院から技師が到着しました」

 来たか。

 王都は学ぶ姿勢を見せている。

 それは悪くない。

 技師は若い男だった。

 目が真剣だ。

「北の成功は、偶然ではありませんね」

「当然ですわ」

 私は笑う。

「偶然で領地は豊かになりません」

 私は黒板に図を書く。

 寒冷地の利点。

 低湿度。

 保存性。

 てんさいの糖度。

 再結晶工程。

 技師は熱心にメモを取る。

「王都では湿度が高い」

「だから乾燥室を作るのです」

「乾燥室……」

「密閉構造で、炭火と石灰を利用する」

 石灰は湿気を吸う。

 乾燥剤として利用できる。

 私は続ける。

「王都向きの小型工房を設計します」

 北は環境が味方。

 王都は設備で補う。

 コストは上がる。

 だから王都では“高級店”として展開する。

 日常甘味は北。

 贅沢甘味は王都。

 棲み分けだ。

 技師は息をのむ。

「北は、本当に甘味の中心ですね」

「ええ」

 私は頷く。

「ですが、王都が栄えない方がいいとは思っていません」

 北の繁栄は孤立ではない。

 王国全体が豊かになれば、北も安定する。

 夕刻、父が訪れる。

「王都に甘味店を出す気か」

「出します」

「敵に塩を送るようなものだぞ」

「いいえ」

 私は首を振る。

「市場を広げるのです」

 甘味は拡大するほど利益が増える。

 王都で成功すれば、北の砂糖需要も伸びる。

 敵ではなく、顧客にする。

 数週間後。

 王都に“北甘味出張店”が開かれた。

 場所は王立研究院敷地内。

 実験的な小規模店舗。

 私は立ち会わない。

 技師たちに任せる。

 だが初日の報告は、熱を帯びていた。

「王都の貴族が列を作りました」

「粉は湿気対策で安定しています」

「乳は氷室を活用しました」

 王都には氷室がある。

 冬に切り出した氷を保存する施設。

 それを甘味用に転用。

 コストは高い。

 だが王都では“贅沢”が売り。

 北では日常。

 王都では特別。

 役割は違う。

 数日後、王太子から再び書簡が届く。

 丁寧な礼状。

 そして、かつての婚約について触れられている。

 ――再考の余地はないか。

 私は苦笑する。

 甘味で関係を取り戻すつもりか。

 だが私は変わった。

 あの日、婚約破棄された少女ではない。

 甘味の経済を握る公爵令嬢だ。

 返書は簡潔にした。

 ――北は北の道を行きます。

 王都は王都の道を。

 夜、茶房の灯りが温かい。

 北は変わった。

 甘味がある街は、空気まで柔らかい。

 子供が笑い、

 商人が笑い、

 農民が笑う。

 私はカウンターに手を置く。

 てんさい糖は、絶望から生まれた。

 カフェは不可能だと笑われた。

 だが今、王都でさえ甘味を学んでいる。

 私は小さく呟く。

「甘味は、国境も常識も溶かしますわ」

 北のお菓子の国。

 その名は、もう揺るがない。

 そして白砂糖は、静かに王国を再設計し続けていた。
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