婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

文字の大きさ
13 / 39

第13話 選ぶのは私――その一言が、全部をひっくり返す

しおりを挟む
第13話 選ぶのは私――その一言が、全部をひっくり返す

 

 マルベーリャの返事を待つ数日間、
 王宮は妙に静かだった。

 誰も急かさない。
 誰も結論を口にしない。
 それだけで、この国にとっては異常事態だ。

 私は自室で書類を整理しながら、ふと思う。

「……これ、私が一番落ち着いてるな」

 聖女という立場のわりに、
 いま一番平常運転なのが私なのは、どうなんだろう。

 そんなことを考えていると、控えめなノックが響いた。

「シャマル様。
 マルベーリャ様がお見えです」

「どうぞ」

 扉の向こうから現れたマルベーリャは、
 初めて会ったときよりも、少し背筋が伸びていた。

「……時間、もらっていいですか」

「もちろん」

 私はソファを指さす。

「立ち話、向いてない話でしょ」

 二人きり。
 王太子も、ウィットンも、国王もいない。

 だからこそ、
 これは“本音の場”だ。

「考えました」

 マルベーリャは、まっすぐ前を見て言った。

「たくさん、考えました」

「うん」

 私は急かさない。

「結論から言うと……」

 一瞬、言葉を選ぶように間を置いてから、彼女は続けた。

「養女の話、
 受けます」

 私は、驚かなかった。
 でも、軽くも受け取らない。

「理由、聞いていい?」

「はい」

 マルベーリャは頷く。

「私は、殿下のそばにいたい。
 でも、それ以上に――」

 彼女は、少しだけ拳を握った。

「“何も選ばせてもらえない立場”に、
 戻りたくないんです」

 その言葉は、重かった。

「平民だから。
 弱いから。
 何も持ってないから」

 彼女は、淡々と続ける。

「そう言われて、
 我慢する人生にはしたくない」

 私は、静かに頷いた。

「だから、
 力を持つなら――
 自分で選びたい」

 彼女は、はっきりと私を見た。

「利用されるためじゃなく、
 自分の意思で」

 ……なるほど。

「条件は?」

 私は、あえて淡々と聞いた。

「ウィットン家の養女になるなら」

 マルベーリャは、すでに考えていたらしい。

「・社交は“学ぶ場”として受けること
 ・殿下との関係は、私の意思を最優先
 ・将来、もし別の道を選んでも、
  誰にも責められないこと」

 私は、思わず笑った。

「強気だね」

「……ダメですか?」

「いいや」

 私は、はっきり言った。

「すごくいい」

 マルベーリャは、きょとんとする。

「え?」

「それ、
 “守られる立場”じゃなくて、
 “交渉する立場”の条件だから」

 彼女は、少し驚いたあと、
 ゆっくりと息を吐いた。

「……よかった」

「一つだけ、追加していい?」

 私が言うと、彼女は頷く。

「困ったら、
 一人で抱え込まないこと」

「あなたは、
 もう“平民の娘”じゃない」

 マルベーリャは、少し照れたように笑った。

「……シャマル様って、
 本当に聖女なんですか?」

「知らない」

 私は即答する。

「でもね」

 少しだけ声を落とす。

「“選ぶ権利”を守るのは、
 聖女の仕事より大事だと思ってる」

 その日の夕方。
 マルベーリャの意思は、正式に王宮へ伝えられた。

 国王は、短く言ったらしい。

「……本人が選んだなら、よい」

 王太子は、
 深く、深く、安堵した顔をしていたという。

 歯車は、もう戻らない。

 誰かの都合で回る世界から、
 自分で選んで進む世界へ。

 私は窓の外を見ながら、
 小さく呟いた。

「さて……」

「これでようやく、
 サブスク生活の“安定期”が見えてきたかな」

 聖女の仕事も、
 国の仕組みも、
 人の人生も。

 一度ちゃんと“選ばせる”と、
 案外、うまく回り始めるものらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

私を追い出したければどうぞご自由に

睡蓮
恋愛
伯爵としての立場を有しているグルームは、自身の婚約者として同じく貴族令嬢であるメレーナの事を迎え入れた。しかし、グルームはその関係を築いていながらソフィアという女性に夢中になってしまい、メレーナに適当な理由を突き付けてその婚約を破棄してしまう。自分は貴族の中でも高い地位を持っているため、誰も自分に逆らうことはできない。これで自分の計画通りになったと言うグルームであったが、メレーナの後ろには貴族会の統括であるカサルがおり、二人は実の親子のような深い絆で結ばれているという事に気づかなかった。本気を出したカサルの前にグルームは一方的に立場を失っていくこととなり、婚約破棄を後悔した時にはすべてが手遅れなのだった…。

「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ

ゆっこ
恋愛
 その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。 「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」  声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。  いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。  けれど――。 (……ふふ。そう来ましたのね)  私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。  大広間の視線が一斉に私へと向けられる。  王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

処理中です...