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節約さいこー
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「ふん! ふんふんふんっ!」
庭から兄様カイルの掛け声が響く。朝っぱらから脳筋の全開運転だ。
靴に穴が空いているから稽古を断る、という鉄壁の作戦を失った私は、結局こうして庭に立たされている。
渋々木剣を振っていた私の耳に、いやな音が飛び込んできた。
――ボキッ。
「うわっ、折れた! リナーッ!!」
見ると兄様の木剣が真ん中からぱっくり割れている。まったく、どれだけ力任せに振り回してるんだか。
「……はいはい」
呼ばれるままに木剣を受け取り、私は指先から魔力を流し込んだ。光がすっと走り、割れた木の繊維がぴたりと噛み合う。あっという間に、折れた剣は元通り。
「おぉー、すげぇ! マジで助かる! お前、魔法使いか!?」
「……うん、たぶんそう、魔法使いですよ。というか、大きい声で言わないで下さい……」
ぼやきつつも、心の奥ではちょっと誇らしい。兄様が「助かった」と笑うのを見て、胸の奥がほんのり温かくなる。
でも――それ以上に魅力的なことがある。
「これ、全部“買い換えなくていい”ってことだよね……。最高……」
節約の喜びに拳を握りしめる。私のリペア魔法は、きっと一家の家計を救う。いや、すでに救っている。
だが、その日、さらに思いもよらぬ依頼が舞い込んだ。
「……いや、私も暇じゃないんですけど……」
庭を抜け、屋敷に戻るとゴフじいさんに手招きされた。行き先は――風呂場。
この屋敷に住み始めて以来、一度も使ったことがない場所だ。石造りの浴槽はひび割れ、壁は煤で黒ずみ、蛇口らしきものは錆びついている。お風呂場というより廃墟である。
普段はマール婆さんが大鍋で湯を沸かし、それを洗面器に分けて体を拭く。入浴と呼ぶには、あまりにみすぼらしい習慣だ。
「できる範囲で良いですから」
ゴフじいさんは、にこやかに浴槽を指差した。
「……だから、私も暇じゃないんですけど……」
と言いつつも、私はひび割れに手を当てた。魔力を流すと、ひびがすうっと消えていく。錆びついた蛇口は艶を取り戻し、石床は光を映すほど滑らかに。壁の煤が落ちて、灰色だった空間が白く清浄な姿に変わっていく。
気づけば、廃墟は屋敷に似つかわしくない立派な浴場に生まれ変わっていた。
「……やればできるもんだ」
思わずつぶやいた。
「これで皆さま、ゆっくり湯に浸かれますなぁ」
ゴフじいさんの笑顔につられ、私もつい口元を緩めてしまう。
それからというもの、私は屋敷中を修繕させられる羽目になった。
抜け落ちた床板は、魔力を流すたびに木目が蘇り、歩くときのぎしぎし音が消える。穴の空いた天井は、雨漏りどころか光まで柔らかく反射するようになった。煤でくすんでいた窓ガラスは透明度を取り戻し、外の景色が驚くほど鮮やかに見える。
修繕のたびに、屋敷はかつての輝きを取り戻していく。いや、もしかしたら最初より良くなっているかもしれない。
「リナ、お前、天才だな!」
兄様は目を輝かせ、剣の稽古よりも修繕作業に夢中だ。
「……天才というより、便利屋ですよね」
私は肩をすくめながらも、内心では悪い気分じゃなかった。
大鍋にお湯を沸かすだけの生活から一転、石造りの浴槽に張られた湯気立つお湯。湯に足を浸けた瞬間、体中がほぐれていくようで、私は思わず声を漏らした。
「……あったか……幸せ……」
マール婆さんもほっとしたように肩を下ろし、父様は「夢みたいだな」と涙ぐんでいる。兄様は大はしゃぎで泳ごうとしてゴフじいさんに怒鳴られていた。
笑い声が湯気の中に響き渡り、寒く貧しい屋敷に、ほんのひとときの豊かさが宿る。
私は浴槽の縁に寄りかかり、湯に浸かりながら思った。
――人の役に立つって、やっぱり悪くない。
そして何より。
「これで薪も石鹸も、節約できるかも……最高……」
小市民的な満足感を胸に、私は湯気の中でそっと拳を握った。
庭から兄様カイルの掛け声が響く。朝っぱらから脳筋の全開運転だ。
靴に穴が空いているから稽古を断る、という鉄壁の作戦を失った私は、結局こうして庭に立たされている。
渋々木剣を振っていた私の耳に、いやな音が飛び込んできた。
――ボキッ。
「うわっ、折れた! リナーッ!!」
見ると兄様の木剣が真ん中からぱっくり割れている。まったく、どれだけ力任せに振り回してるんだか。
「……はいはい」
呼ばれるままに木剣を受け取り、私は指先から魔力を流し込んだ。光がすっと走り、割れた木の繊維がぴたりと噛み合う。あっという間に、折れた剣は元通り。
「おぉー、すげぇ! マジで助かる! お前、魔法使いか!?」
「……うん、たぶんそう、魔法使いですよ。というか、大きい声で言わないで下さい……」
ぼやきつつも、心の奥ではちょっと誇らしい。兄様が「助かった」と笑うのを見て、胸の奥がほんのり温かくなる。
でも――それ以上に魅力的なことがある。
「これ、全部“買い換えなくていい”ってことだよね……。最高……」
節約の喜びに拳を握りしめる。私のリペア魔法は、きっと一家の家計を救う。いや、すでに救っている。
だが、その日、さらに思いもよらぬ依頼が舞い込んだ。
「……いや、私も暇じゃないんですけど……」
庭を抜け、屋敷に戻るとゴフじいさんに手招きされた。行き先は――風呂場。
この屋敷に住み始めて以来、一度も使ったことがない場所だ。石造りの浴槽はひび割れ、壁は煤で黒ずみ、蛇口らしきものは錆びついている。お風呂場というより廃墟である。
普段はマール婆さんが大鍋で湯を沸かし、それを洗面器に分けて体を拭く。入浴と呼ぶには、あまりにみすぼらしい習慣だ。
「できる範囲で良いですから」
ゴフじいさんは、にこやかに浴槽を指差した。
「……だから、私も暇じゃないんですけど……」
と言いつつも、私はひび割れに手を当てた。魔力を流すと、ひびがすうっと消えていく。錆びついた蛇口は艶を取り戻し、石床は光を映すほど滑らかに。壁の煤が落ちて、灰色だった空間が白く清浄な姿に変わっていく。
気づけば、廃墟は屋敷に似つかわしくない立派な浴場に生まれ変わっていた。
「……やればできるもんだ」
思わずつぶやいた。
「これで皆さま、ゆっくり湯に浸かれますなぁ」
ゴフじいさんの笑顔につられ、私もつい口元を緩めてしまう。
それからというもの、私は屋敷中を修繕させられる羽目になった。
抜け落ちた床板は、魔力を流すたびに木目が蘇り、歩くときのぎしぎし音が消える。穴の空いた天井は、雨漏りどころか光まで柔らかく反射するようになった。煤でくすんでいた窓ガラスは透明度を取り戻し、外の景色が驚くほど鮮やかに見える。
修繕のたびに、屋敷はかつての輝きを取り戻していく。いや、もしかしたら最初より良くなっているかもしれない。
「リナ、お前、天才だな!」
兄様は目を輝かせ、剣の稽古よりも修繕作業に夢中だ。
「……天才というより、便利屋ですよね」
私は肩をすくめながらも、内心では悪い気分じゃなかった。
大鍋にお湯を沸かすだけの生活から一転、石造りの浴槽に張られた湯気立つお湯。湯に足を浸けた瞬間、体中がほぐれていくようで、私は思わず声を漏らした。
「……あったか……幸せ……」
マール婆さんもほっとしたように肩を下ろし、父様は「夢みたいだな」と涙ぐんでいる。兄様は大はしゃぎで泳ごうとしてゴフじいさんに怒鳴られていた。
笑い声が湯気の中に響き渡り、寒く貧しい屋敷に、ほんのひとときの豊かさが宿る。
私は浴槽の縁に寄りかかり、湯に浸かりながら思った。
――人の役に立つって、やっぱり悪くない。
そして何より。
「これで薪も石鹸も、節約できるかも……最高……」
小市民的な満足感を胸に、私は湯気の中でそっと拳を握った。
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