幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ

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魔法がひょっこり

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「寒い。布団、神」

薄い毛布にくるまって布団のぬくもりをむさぼる私はリナ・アルステッド、5歳。田舎の貧乏貴族の長女だ。
赤みのある紅茶色のくるくる髪に緑色の瞳はなかなかかわいいと自分では思う。髪色と瞳の色は家族おそろい、というかこのカール侯爵領ではわりとみんなおそろい。

家族は脳筋まっしぐらの兄カイル10歳と、お人好しと書いて「騙されやすい」と読む父ヘンリー。
肩書きだけは騎士爵様らしいが、我が家の生活ぶりを見れば誰もそんなことは信じまい。
母は既にいない。母代わりを務めるのはマール婆さん。実はこのマール婆さん、父様の母代わりでもあるんじゃないかと思えなくもない。
そして、屋敷を取り仕切る執事……と言えば聞こえはいいが、何でも屋のゴフじいさん。

ここはカール侯爵領のはずれ、セデル村。名前こそ立派だが、実態は超ど田舎である。
父様は侯爵の善意(いや、体よく押しつけられただけかもしれないが)で、この寒村の管理を任されていた。

しかし寒冷地に建てられた屋敷は、やたらと広いくせに断熱性ゼロ。
すき間風が壁や窓から吹き込み、貴族らしからぬ凍えた生活を余儀なくされている。そんなわけで、私は今朝も静かに決意していた。

「今日は一歩も外に出ないぞ」

ところが、私のささやかな希望はドカドカと響く足音に踏みにじられる。

「リナー! 起きろよ、稽古しようぜ!」

脳筋兄様カイル、ノックの概念を知らない男。
勢いよく部屋の扉を開けて飛び込んできた。

「やだです。靴に穴が空いているから稽古しません。それからノックをしてください」

ここ数日、私はこの鉄壁の言い訳で稽古を拒否し続けていた。だが兄様はしつこい。きっと友達がいないに違いない。

「まだそんなぼろいの履いてんのかよ。兄ちゃんの古いやつ使えよ」

「やだです。大きくて歩きづらいもん」

「ちぇっ、しょうがねぇな」

没落貴族らしからぬ言葉遣いを残し、兄様はしぶしぶ部屋を出ていった。しめしめ。

静寂が戻ると、私はベッドの脇に転がっていた靴を手に取る。小さな革靴のかかとはぱっくり口を開け、擦り切れた布地から草くずがのぞいていた。
稽古拒否の口実には便利だが、実際のところこのままでは歩きにも支障が出る。

「でも、新しい靴なんて……買えないよなぁ」

ため息をつきながら、私はふと思い出す。
隣町で見かけた、ひらひらのドレスを着た少女。彼女の足元にあったのは、陽光をはね返すように光るピカピカの靴だった。
あんな靴が欲しい――そこまで贅沢は言わない。でもせめて、兄様のお古ではない新品が履けたら……。

そんな願いを胸に、ぼんやりと裂け目に指を伸ばしたその瞬間だった。

ふわり、と指先からあたたかい光が生まれ、靴を包み込む。

「……え?」

ミシ、と小さな音がして、破れた部分が自ら塞がりはじめる。擦り切れた布地が織り直されるように繋がり、穴はたちまち消え失せた。

「……ええぇ?」

私は目を疑い、思わず靴を回して確かめる。裂け目は影も形もない。新品同様――いや、むしろ磨き立てのように見える。

「……あ。魔法?」

口からこぼれたのは、それだけだった。

魔法といえば王都の学院で学ぶ才ある者だけのもの。庶民どころか貧乏貴族にすら無縁の、遠い世界の力。それが、今、私の指先から出た。

しばし呆然とした後、次に込み上げてきたのは感動ではなく……。

「……神だ。これは神の力だ。もう靴を買わなくていい」

節約への喜びだった。

試しに靴を履き、ぴょんと飛んでみる。穴は完全に塞がっていて、足裏を草くずが突くこともない。守られている安心感に思わず声が漏れた。

「すご……便利すぎ……これがあれば、いろいろ買わなくてすむ……」

心が小市民的な方向へ突っ走る。新品の服、壊れた椅子、穴の開いた屋根。全部これで直せるのではないか?

けれど同時に、一つの事実を見落としていた。

――靴が直ったということは、もう「靴が壊れているから稽古できない」という言い訳が使えない。

この新しい現実に気づかぬまま、その日、私は布団に戻ることを許されなかった。
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