『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚

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第14話:噂を越えて揺れる想い

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第14話:噂を越えて揺れる想い

理香との対立が胸に刺さったまま、結衣は日々の忙しさに身を任せていた。
大きなプロジェクトの成功は社内で大きな話題となり、成功の中心として名を挙げられた結衣は、秘書課での存在感を急速に増していた。

だが――その評価には、必ず影がつきまとう。

「相沢さん、この前のプロジェクト、本当にすごかったよね。社長も珍しく褒めてたって聞いたよ。」
「うん……でもあれって、仕事だけじゃなくて“そういう関係”だからなんじゃない?」

廊下、エレベーター前、給湯室――
結衣の背後で交わされる声は、どこか棘を含んでいた。

「社長のお気に入り」
そのレッテルが、まるで結衣の頭上に貼られているようだった。

聞くつもりがなくても、耳に入る。
聞きたくなくても、心に残る。

胸の奥で小さな痛みが重なり、日ごとに溜まっていく。


---

■ 社長室での思いがけない誘い

夕方、スケジュール調整のために社長室へ入ると、蓮はいつになく柔らかな目を向けた。

「相沢。」

「は、はい。こちら本日の――」

言い終える前に、蓮が言葉を挟んだ。

「今日は少し早めに仕事を終えるつもりだ。
予定がなければ……軽く食事に行かないか?」

「え……?」

あまりに突然すぎて、思考が一瞬真っ白になった。

「む、無理ではありません……大丈夫です。」

「そうか。」

蓮は淡く微笑むと、すぐにいつもの表情に戻り、書類へ視線を落とした。
だが、結衣の胸の鼓動はその後もしばらく収まらなかった。


---

■ フレンチレストランにて

仕事を終えた二人は、オフィス近くの落ち着いたフレンチへと向かった。

キャンドルの柔らかな光、静かな音楽、ワインの香り。
社内の喧騒とは別世界のような空間に、結衣は自然と背筋が伸びた。

「こんなところ、初めてです……」

「気に入らなければ別の店に変えるが。」

「い、いえ! とても素敵です。」

蓮はふっと笑った。

ワインが注がれ、メインが運ばれ、ひとしきり料理を楽しんだ後――
蓮が真剣な眼差しで結衣を見つめた。

「相沢。最近の噂……知っているな?」

その一言で、結衣の心臓は大きく跳ねた。

「噂……というと……」

「お前と俺の関係についてのものだ。」

結衣は、思わず視線を落とした。

「……聞こえてしまうことは、あります。」

蓮は静かに続けた。

「気にしなくていい。
周囲がどう言おうと、俺はお前の“仕事”を評価しているだけだ。」

その言葉は確かに救いだった。
だが同時に、胸が少しだけ締め付けられる。

――“仕事として”の信頼。

それ以上の感情は、蓮にはないということなのだろうか。

「でも……皆さんがどう思っているのかが気になってしまって……」

思わず漏れた弱音に、蓮は一瞬だけ目を細めた。

「周りの声に惑わされるな。
お前の価値は、誰かの噂で揺らぐものではない。」

凛とした声。
その奥に、わずかな温かさが宿っているのが分かった。

胸に、じんわりと熱が広がる。


---

■ 夜風の中で――蓮のジャケット

店を出ると、夜風が二人の間をすり抜けた。
春先の冷たさが頬を撫でる。

「……さむっ」

思わず肩をすくめた瞬間、蓮がすっと自分のジャケットを脱ぎ、結衣にかけた。

「風が冷たい。着ていろ。」

驚きで顔を上げた結衣の目に映ったのは、いつもより少し柔らかい蓮の表情。

「し、社長が寒くなってしまいますよ!」

「俺は平気だ。
お前が風邪を引く方が困る。」

その何気ない一言が、まるで告白のように胸を震わせた。

――この人のそばにいたい。

初めて強く、はっきりとそう思ってしまった。


---

■ 翌日の葛藤

翌朝。
秘書課で仕事をしながらも、昨夜の出来事が脳裏に浮かんで消えなかった。

蓮の優しさ、ジャケットの温もり、言葉の一つ一つ。

思い出すだけで胸が熱くなる。

だが同時に――

『結衣がいなければ、きっと社長は私を見てくれる』

理香の言葉が、心に鋭く突き刺さる。

私が社長のそばにいることで、誰かが傷つくのだろうか。

その疑問が、結衣の心を揺らし続けていた。


---

■ 社長室の呼び出しと、蓮の“気づき”

終業後。

「相沢、少し話がある。」
蓮に呼ばれ、社長室へ入ると、彼はデスク横で書類を整理していた。

結衣が入ったのを確認すると、蓮は真っすぐに言った。

「……最近、お前が悩んでいるのは分かる。」

「っ……!」

思わず息を呑んだ。
どうして気づかれたのか――。

「相沢。」

蓮は結衣の前に立ち、静かに言葉を続けた。

「お前には、これからもそばで働いてもらいたい。
だからこそ――余計な不安や噂で心をすり減らす必要はない。」

その真剣な声に、胸の奥がじんと熱くなった。

自分はこんなにも、この人の言葉一つで揺れてしまう。

「……はい。ありがとうございます。」

そう答えた時、結衣は悟った。

――蓮への想いを、もう誤魔化せない。

その夜、結衣の心に灯った小さな恋は、確かな炎へと変わり始めていた。

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