『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚

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第15話:守られる存在としての気づき

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第15話:守られる存在としての気づき

西園寺蓮と二人で食事をしたあの夜から、数日が過ぎた。
しかし、蓮の言葉も、ふと見せた優しい仕草も――結衣の胸の奥で静かに熱を持ち続けていた。

「お前の価値を下げるものは何もない」

その一言が、今の彼女にとってどれほどの支えになっているか。
けれど同時に、その言葉を思い返すたび、胸がじんわりと締めつけられる。

蓮への想いは、もはや曖昧なものではなかった。
ただ、理香との軋轢や噂の存在が、その気持ちに影を落としていることも事実だった。


---

■ 午後の会議――不意の矛先

その日も結衣は忙しく働いていた。
午前の資料整理、午後の会議準備、スケジュール調整……
仕事に集中することで、余計な不安を忘れられる時間があった。

だが、それは突然破られる。

会議室でプロジェクト報告が進む中、ふいに部長の視線が鋭くなった。

「社長、この資料のここの表現、誤解を招きかねません。
これは……秘書課の確認不足でしょうか?」

空気が、ピタリと止まった。

結衣の背筋が冷たくなる。
部長の視線が結衣へと向く。

「相沢さん、この点について何か説明できますか?」

会議室の全視線が一斉に彼女へ向けられた。
喉がきゅっと締まり、言葉が出ない。

「え……その、確認はしたのですが……」

声が震える。
自分がミスしたのかもしれない――その不安が脳を支配した。

その瞬間。

蓮が、穏やかだがよく通る声で口を開いた。

「その部分の最終確認をしたのは私だ。秘書課に非はない。」

空気が揺れる。
部長が目を丸くした。

「し、社長。しかし――」

「このミスが仮に問題であったとしても、それは“私の判断”だ。
秘書を責める意図があるのなら、筋違いだ。」

明瞭な言葉。
淡々とした口調なのに、会議室の空気を一瞬で圧倒する強さがあった。

結衣は息を呑んだ。

――蓮が、自分を守ってくれた。

その一点だけで胸が熱く、視界がわずかに滲んだ。


---

■ 「全てを自分のせいにするな」

会議後、結衣は蓮のもとへ向かった。

「社長……先ほどは本当にありがとうございました。でも、
あれは私がもっと注意していれば……」

蓮はデスクから顔を上げる。
その視線は、叱責ではなく“気遣い”を含んでいた。

「相沢。お前は責任を背負いすぎる。」

言葉に優しさが滲んでいた。

「仕事は完璧だった。仮に不備があったとしても、それを最終的に判断するのは私だ。
すべてをお前のせいにする必要はない。」

静かで穏やかだが、揺るぎない声。

結衣はその場で泣きそうになった。
蓮の言葉は胸の痛みを溶かし、同時に深く染み込んでいく。


---

■ 仕事終わりの誘い――夜の公園へ

その日の終業後。

「相沢、少し外に出よう。」

突然の誘いに驚きつつ、結衣は蓮に従った。
向かった先は、会社近くの落ち着いた公園。

夜風が木々を揺らし、街灯が静かに二人を照らす。

蓮はベンチに腰を下ろし、隣を指した。

「座れ。」

結衣は緊張しながら腰を下ろす。

蓮は少し空を見上げた後、静かに口を開いた。

「相沢。最近、悩んでいるだろう。」

「っ……どうして、分かるんですか?」

蓮は微かに笑った。

「仕事では隠しているつもりだろうが……
お前は表情に出やすい。」

「……」

まるで、ずっと自分を見てくれていたような言葉だった。

「噂や、同期との問題……気にするなとは言わない。
だが、それで自分の価値を疑うのは違う。」

夜風がそっと吹き抜ける中、蓮の声だけが真っ直ぐに届く。

「俺にとって、お前は必要な存在だ。
迷惑どころか……お前がいるから仕事が成り立っている。」

その言葉を聞いた瞬間、結衣の胸の奥が熱くなり、視界が滲んだ。

「私……社長の役に立てているんでしょうか?」

結衣のか細い問いに、蓮は迷いなく答えた。

「十分すぎるほどだ。」

涙が一粒、頬を伝った。
蓮は驚いたように目を瞬かせたが、責めたりはしなかった。ただ、そっと視線を落としただけ。

その優しさに、また胸が締めつけられる。


---

■ 眠れない夜――恋の自覚

その夜。
布団に入っても、蓮の声と表情が頭から離れなかった。

「お前は必要だ。」
「迷惑ではない。」
「よくやっている。」

そのどれもが、今の結衣には宝物のようだった。

枕を抱きしめながら、そっと呟く。

「私……社長のそばにいたい。」

もう誤魔化せる気持ちではない。
胸の奥で静かに灯っていた想いは、確かな恋へ姿を変え始めていた。

そしてその想いが、彼女の未来を――
大きく変えていくことになる。

結衣はまだ知らない。

蓮もまた、ゆっくりと――だが確かに、彼女に心を寄せ始めていたことを。


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