ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

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第3章:勇者のパパ疑惑!?伝説の師匠と魔の育児研修

第21話:師匠 vs 社畜ウサギ

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 ビジネスにおいて、圧倒的なシェアを持つ大企業(強者)に対し、リソースの足りない中小企業(弱者)が挑む場合、正面突破は愚策だ。
 必要なのは、「ニッチ戦略」と「リソースの最適化」、そして多少の「盤外戦術」である。

 勇者の屋敷、裏庭の訓練場。
 夕日が長く影を落とす中、俺は伝説の元勇者ガランドと対峙していた。

「ルールは単純だ」

 ガランドが丸太のような腕で木剣を構える。ただの木剣が、彼の手にあると攻城兵器に見える。

「わしに一撃でも入れればお前の勝ち。逆に、わしの剣がお前の体に触れれば負け。……ハンデとして、アレクセイとの共闘を許可してやる」

 ガランドは鼻を鳴らし、傍らに控えるアレクセイを一瞥した。

「ただし、アレクセイ。お前は自分の意志で動くな。黒ウサギの『命令』があった時のみ動け。……こいつがお前をどう『運用』するのか、見せてもらうぞ」

 なるほど。これは個人の戦闘力試験ではない。
 俺が「勇者の右腕(司令塔)」として機能するかどうかの、実技試験(プレゼン)だ。

「承知いたしました」

 俺はスーツの袖(人化モード)を捲り上げ、アレクセイに背中を預けた。

「ボス、準備はいいですか?」
「ああ。俺の体はお前のものだ。好きに使え」
「言い方が誤解を招きますが……まあいいでしょう。行きますよ!」

 俺の合図と共に、試験開始のゴングが鳴った。


 ◇◇◇

「ふんッ!!」

 開幕直後、ガランドが地面を踏み砕いて突進してきた。
 速い。巨体に見合わない、弾丸のような初速。
 ただの踏み込みだけで衝撃波が発生し、俺の髪が逆立つ。

(正面から受ければ即死!)

 俺は叫んだ。

「ボス! 正面防御(タンク)、角度15度でパリー!」
「応!」

 俺の指示より早く、アレクセイが反応する。
 ガランドの剛剣に対し、アレクセイは大剣を斜めに構えて滑り込ませた。

 ガキンッ!!

 凄まじい金属音(木剣同士だが)が響き、衝撃が斜め後方へと受け流される。

「ほう、いい反応だ」

 ガランドが感心する間もなく、俺はアレクセイの影から飛び出した。

「反撃(カウンター)! 右脇腹!」

 俺が影魔法で生成したダガーを投擲する。
 同時にアレクセイが剣を薙ぎ払う。

「甘い!」

 ガランドは上半身を反らしてアレクセイの剣を躱し、俺のダガーを裏拳で叩き落とした。
 そして、流れるような動作で回転し、俺の首元へ剣を走らせる。

「まずは司令塔から潰すのが定石よ!」
「ひぃッ!? ボス、撤退(バックステップ)! 俺を抱えて跳べ!」

 俺の悲鳴に近い指示。
 アレクセイは瞬時に俺の腰を掴み、後方へ大きく跳躍した。

 ブンッ!!

 鼻先数センチを、致死性の風圧が通り過ぎる。

(あぶねぇ……! マジで殺す気だこのジジイ!)

 着地した俺たちは、再び距離を取って構えた。
 ガランドは余裕の笑みを浮かべている。

「どうした? 逃げ回ってばかりでは勝てんぞ」
「ええ、分かっていますとも」

 俺は冷や汗を拭い、ニヤリと笑った。
 今の攻防で分かった。
 ガランド師匠は、アレクセイの動き(師匠直伝の型)を熟知している。だからアレクセイ単体の攻撃は読まれてしまう。
 だが、俺という「異物」が混ざることで、そのリズムを崩せるはずだ。

「プランBに移行します。ボス、俺を投げてください」
「……何?」
「俺を弾丸として射出してください。師匠の顔面に」
「正気か? 迎撃されて死ぬぞ」
「大丈夫です。タイミングは俺が作ります」

 俺は小声で指示を出し、再びガランドに向き直った。

「参ります、ガランド様。……少々、お行儀が悪くなりますがご容赦を」

 俺は指を鳴らした。

 パチン。

 その瞬間、ガランドの足元の地面が、ボコォッ!と陥没した。

「ぬっ!?」

 落とし穴だ。
 ガランドがバランスを崩す。
 しかし、歴戦の勇者である彼は、落下する瞬間に足場の縁を蹴り、空中に飛び出して回避した。

「小賢しい罠を!」
「まだです!」

 空中に逃げたガランドに向かって、俺は懐から「あるもの」を取り出して投げつけた。
 それは、真っ白でネバネバした塊。

 ビチャッ!!

「なんじゃこれは!?」

 ガランドの顔面に、粘着質の物体が張り付く。
 視界が塞がれる。

 これは『キラー・スパイダーの粘糸』を加工して作った、特製の「強力とりもちネット」だ。
 本来の用途は、屋敷中を暴れまわるリュウ(ドラゴン)を無傷で捕獲するために、俺が夜なべして開発した育児グッズである。

「ぬうぅんッ!」

 ガランドは気合一発、顔面のネットを引き剥がそうとする。
 その一瞬の隙。

「今です! ボス、射出(ファイア)!」
「行けぇぇぇッ、ノワール!!」

 アレクセイが俺の足裏に手を添え、全力で空中に放り投げた。
 人間大砲の発射だ。
 凄まじい加速Gで視界が歪む。
 俺は空中のガランドに向かって一直線に飛翔する。

(もらった!)

 俺は手にした短剣(もちろん刃は潰してある)を突き出した。
 ガランドはまだネットに手間取っている。
 いける!

 だが。

「……甘いわ!!」

 ガランドは、視界が塞がれた状態のまま、気配だけで俺の位置を察知した。
 彼はネットごと顔を横に向け、裏拳を俺の土手っ腹に叩き込もうと繰り出した。

(速いッ!? 視界封じても関係ないのかよ!)

 空中の俺には回避行動が取れない。
 このままでは直撃し、内臓破裂コースだ。
 万事休す。

 ――その時、俺の脳裏に、昨夜の育児デスマーチの記憶が蘇った。
 リュウの不規則な動き。予測不能なブレス。
 それに比べれば、歴戦の達人の攻撃は、あまりにも「洗練されすぎていて読みやすい」。

「――『影渡り(シャドウ・チェンジ)』!」

 俺は空中でスキルを発動した。
 ただし、移動先は地面の影ではない。
 夕日に照らされて伸びた、ガランド自身の背中の影だ。

 フッ。

 ガランドの拳が空を切る。
 俺の姿が空中で消失する。

「なっ……!?」

 驚愕するガランド。
 次の瞬間、俺はガランドの背中に張り付くように実体化した。
 いわゆる、おんぶの状態だ。

「失礼します!」

 俺はガランドの首に腕を回し、短剣の切っ先を喉元に突きつけた。
 そして、耳元で囁く。

「……チェックメイトです、ガランド様」

 ガランドが着地する。
 俺は背中にしがみついたまま離れない。
 首筋には、冷たい金属の感触。

 静寂が訪れた。
 庭の隅で見ていたリュウが、パチパチと手を叩く音だけが響く。

「キャッキャ! マッマつよい!」

 ガランドは動きを止め、深く息を吐いた。
 そして、顔に張り付いたとりもちネットをようやく剥ぎ取り、背中の俺を睨み……いや、呆れたように見た。

「……アレクセイを囮にし、落とし穴と玩具(育児グッズ)で体勢を崩し、最後はわしの影を利用するか」
「はい。使えるものは親(上司)でも影でも使え、がモットーですので」

 俺は短剣を引き、地面に降りて頭を下げた。

「正面から挑んで勝てるはずがありません。私は弱者です。だからこそ、誰よりも『勝利への最短ルート』を泥臭く計算します」

 俺はアレクセイを手招きし、隣に並ばせた。

「アレクセイ様は最強の矛であり、盾です。ですが、彼は真っ直ぐすぎます。搦め手や、盤外からの攻撃には脆い」

 魅了魔法や、精神攻撃、あるいは政治的な罠。
 勇者一人では対処しきれない脅威は山ほどある。

「だから、私がいます。彼の死角を管理し、泥をかぶり、彼が剣を振るうためのお膳立てをする。……それが、『勇者のマネージャー』としての私の戦い方です」

 俺は言い切った。
 心臓はまだバクバクしているが、声だけはハッタリを効かせて堂々と。

 ガランドは、俺とアレクセイを交互に見た。
 アレクセイは、「そうだ、これが俺のノワールだ」と言わんばかりに胸を張っている。

「……ふん」

 ガランドは木剣を放り投げた。
 そして、ワシワシと自分の頭を掻いた。

「面白い。確かに、ただ守られるだけのペットではないようだな」

 その声には、先ほどまでの殺気はなく、代わりに微かな「承認」の響きがあった。

「お前の戦い方は邪道だ。勇者の戦いではない。……だが」

 ガランドは俺の前に歩み寄り、その巨大な手で、俺の頭をガシッと掴んだ。
 握りつぶされる!? と身構えたが、彼は乱暴に俺の頭を撫で回しただけだった。

「アレクセイにはない『狡猾さ』だ。……悪くない」

 合格、とは言われなかった。
 だが、その不器用な態度は、少なくとも「即刻排除」の対象からは外れたことを意味していた。

「ありがとうございます、ガランド様」
「勘違いするな。まだ認めたわけではない。……それに」

 ガランドはニヤリと笑い、俺の服についた泥を指差した。

「そのスーツ、ボロボロだぞ。育児疲れか?」
「うぐッ……」

 痛いところを突かれた。
 落とし穴を掘ったり、とりもちを作ったりで、俺の疲労は限界突破している。

「マッマ~!」

 そこへ、空気を読まないリュウが突撃してきた。
 俺の足にしがみつき、よじ登ってくる。

「おなかすいた! ごはん!」
「はいはい……今作るからね……」

 俺がよろめくと、ガランドが「貸せ」と言ってリュウをひょいと持ち上げた。

「飯ならわしが作ってやる。……昔、アレクセイにもよく食わせてやった『特製筋肉シチュー』だ」
「え、いいんですか?」
「監査の一環だと言っただろう。食育もチェック項目だ」

 ガランドはリュウを肩車し、機嫌よく屋敷の方へと歩き出した。
 その背中は、伝説の勇者というより、孫を甘やかすお爺ちゃんそのものだった。

「……師匠、リュウには甘いな」
「そうですね。孫ができたみたいで嬉しいんでしょうか」

 俺とアレクセイは顔を見合わせ、安堵の息を吐いた。
 とりあえず、最大の危機は去った……ように見えた。

 だが。
 俺たちは油断していた。
 この屋敷の外に、もう一つの「悪意」が迫っていることを。

 屋敷の外、森の木陰。
 望遠の魔道具でこちらの様子を伺う、複数の影があった。

「……ターゲット確認。エンシェント・ドラゴンの幼体だ」
「伝説のガランド導師がいるぞ。厄介だな」
「構わん。奴らに隙ができた瞬間にいただく。……あの幼体は、億単位の金になるからな」

 闇ギルド『黒い牙』の密猟者たち。
 彼らの魔の手が、平和になりかけた「勇者の育児日記」を引き裂こうとしていた。

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