【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g

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第6話:お前が、いなくなるのが怖い(セス視点)

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 春の陽が斜めに差し込む午後。
 小さな村の坂道を、何気なく歩いていた足が止まった。

 ここだ——この場所。
 まだ子どもだった頃、何も考えずに坂を駆け下りて、足を滑らせたあの日。
 石畳に膝をぶつけて、転がるように倒れた自分のそばに、誰より早く駆け寄ってくれたのが、リセルだった。

「セス、大丈夫……!?」

 そのときの声は、今も耳に残ってる。
 泣きそうな顔で、でも必死に手を伸ばしてくれた彼の小さな手。
 その温もりを、俺は忘れたことがない。

 あのときから、ずっと——
 リセルは、いつも俺の前にいて、俺の隣にいて、俺のことを見ていてくれた。

 だからなのかもしれない。
 最近のあいつの距離が、どうしようもなく怖い。
 隣に居るはずなのに遠ざかっていく気がして。
 何かを失いかけてるような、胸のざわつきが止まらない。

 ——リセルは、幼馴染だ。俺にとって一番近くて、なのに今一番遠く感じる存在。

 最近、王都から来た王子が村に滞在していて、何かとリセルに構ってくる。
 最初はただの好奇心かと思っていたけど……あの王子の視線に、ふとした真剣さが混じる瞬間を見てしまった。


 ◇◇◇


 縫製部屋の窓から、リセルの横顔が見えた。
 相変わらず、手元に集中している。あいつのこういうところ、ずっと変わらない。
 気づけば、足が勝手に動いていた。

「よ……よう、リセル」

「セス? びっくりした……どうしたの?」

「いや、なんか……手伝おうかと思って」

 自分でも、何を言ってるんだろうと思う。
 針仕事なんてしたことないくせに。
 だけど、今はどうしてもこいつの隣にいたかった。それだけだった。

「えっ? 本気で言ってる? セスが?」

「言ったからには手伝うよ、ほら、これ刺しゃいいんだろ……いてっ!」

「だから言ったのに! もう、セスは……ほんといつも無茶しすぎ」

 ぷくっと頬をふくらませて、手を止めたリセル。
 久しぶりにちゃんと目が合った。
 その嬉しさに、思わず笑ってしまった。

「たまには、こういうのも悪くないかなって思っただけ。……お前の隣、悪くないからさ」

「……セス」

 何か言いかけたリセルの声が、ほんの少し震えていた。
 その意味は、俺にはわからなかった。

 けれど、たぶん——
 この時の空気は、ほんの少しだけ、あたたかくて優しかった気がする。



 夕方。市場の近くを歩いていたときだった。
 人混みの向こうで、王子とリセルが話しているのが見えた。

 王子は何か冗談を言ったのか、リセルが少し困った顔をしながらも楽しそうに笑っていた。
 あんな顔、最近俺には見せたことがない気がする。

(……なんで、他のやつの前だとあんなに自然に笑えるんだよ)

 胸の奥が、きゅう、と痛んだ。
 理由もなく、呼吸が浅くなる。視界が少しにじんで、知らぬ間に拳を握っていた。


 たぶん、それが「嫉妬」だって気づいたのは——
 リセルの肩に、王子が無邪気に手を置いた瞬間だった。
 
 思わず、足が止まる。

 リセルはその手を払いのけるでもなく、少し眉を下げて笑っていた。
 ごく自然な、まるでそれが当たり前のような仕草に見えて、頭の奥がカッと熱くなった。

 そのとき、不意に数歩だけ近づいてしまっていたらしい。
 気づけば、人ごみのなか、誰にも聞こえないような声で、口をついて出ていた。

「……やめろよ。勝手に触んなよ」

 誰に言ったのかもわからない、ほとんど呟きだった。
 けれど、心のなかではもっとずっと大きな声で叫んでいた。

(リセルは……おれの、だろ)

 その「おれの」が、何を意味するのか、自分でもよくわからなかった。
 けれど、それを奪われる気がして、たまらなく怖かった。

 過去の時間が、静かに引き裂かれていくような錯覚。


 そして、決定的だったのは——

 王子が去り際に、リセルにそっと一輪の花を渡していたこと。

「君の目の色に似ていたからね」とかいうキザったらしい言葉で、恥じらうように笑って。

 リセルは戸惑いながらも、断らなかった。
 花を受け取って、その場に置くでもなく、服の端にそっと挿していた。

 その姿が、胸に焼きついた。

(なんで……? そんなの、笑って受け取るなよ。お前は、そんな……)

 リセルが、いなくなるかもしれない。
 そんな予感に、胸が焼けるような思いだった。

(待てよ……なんで俺は、こんなに焦って……)

 答えなんて、もうとうにわかっていたくせに。
 言葉にするのが、怖かった。

 だけど、はっきりしているのはひとつ。

 ——このままじゃ、リセルを取られる。

 初めて、心の底からそう思った。

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