【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g

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第7話:王子の言葉、俺の本音

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 昼下がりの陽が、草に覆われた石畳を柔らかく照らしていた。
 村の外れにある、小さな礼拝堂の庭。
 古い建物ながら手入れは行き届いており、季節の花が風に揺れている。

 普段は誰も訪れないこの場所に呼び出されたとき、最初は何かの間違いだと思った。
 王子——ライナルト殿下が、自分に「話がある」と言ってきたのだ。

 ……俺はただの平民だ。貴族でもなければ、騎士でもない。ただ、セスの隣にいるモブ。それだけの存在。

 それなのに、王子は出会った頃から、なぜか俺にまで声をかけてきた。目が合えば優しく微笑んできて、セスと距離の近い俺への牽制なのかなと思った。
 だけど、それが別の意味を持っていたなんて、考えもしなかった。


 そして、今——。

 王子が花の咲く道の中央に立ち、真っ直ぐこちらを見つめている。凛としたその姿に、冗談の影は一片もない。

「僕は……君を、好きになってしまったんだ」
 
 心臓が、ドクンと跳ねた。

「最初は気のせいだと思った。でも……君の服について話す楽しそうな笑顔や、セスを切なげに見つめる瞳を見ていたら、気づいたんだ。——ああ、僕は君に惹かれているんだって」

 優しく、でも確かな言葉。

 そんなはず、ない。——いや、あってはならない。

 俺は……ゲームの中で、こんなイベントを知らない。
 ライナルト殿下は主人公であるセスの“攻略対象”だ。
 セスが愛されて幸せになる、そのために存在すると言っても過言ではないキャラクターだ。

 モブである俺に、こんな告白をする展開なんて、あるはずないのに。

「……どうして、俺なんかに」

 声がかすれた。

「“なんか”じゃない。君は魅力的だよ。誰かのために心を砕いて、誰かの痛みを黙って背負う。……そんなことができる人に、惹かれない方が、おかしいよ」

 そう言って笑った王子の顔は、まるで春の終わりみたいに寂しげだった。

「……そんな君に想われている彼が、本当に羨ましいよ」

 その一言が、胸に突き刺さる。

 俺は、何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。
 セスの物語を、彼の幸せを、壊すようなことを——。

 その不安が、喉を締めつける。

「……俺には、どうしたらいいのか……」

 それ以上は言えなかった。
 言葉にすれば、どこかが崩れてしまいそうで。


 

 庭を離れ、裏門へと続く小道を歩いていたときだった。

「リセルッ!」

 声が響いた。

 振り向くより先に、セスが走ってくるのが見えた。
 息を切らして、焦ったような顔で——でも、その瞳には怒りも苛立ちもなかった。

「……何してたんだ、お前……王子と、ふたりで」

 声が震えていた。怒っているようで、でも違う。

「えっと、それは——」

「……いや、もういい! そんなことより……!」

 叫ぶような声。
 荒れていて、でも……どこか、今にも壊れそうだった。

「俺、お前がいないと嫌なんだ。隣にいないのが怖い。姿が見えないと、心臓が痛くなる。……いつの間にかどこか行ってしまう気がして、怖いんだよ……!」

 言葉の一つ一つが、胸に響いた。

 ——こんなにも、俺を大事に想ってくれているのに。
 それなのに、俺は。

「……セス」

「お前が……好きだって気づいたんだ。お前がそばにいない未来なんて、考えたくもない」

 その一言に、息が詰まった。

 俺だって、セスが好きだ。誰よりも。

 だけど、それを口にすれば、セスの“未来”が、セスの“幸せ”が——俺のせいで歪んでしまう気がして。

 怖かった。



 夜。

 草原の丘の上にある、大きな一本木。その根元に、セスが座っていた。月の光に照らされて、どこか寂しげな背中。

 子供の頃、よくここで星を見たっけ。笑って、泣いて、時には喧嘩して——でも、いつも一緒にいた。

「……来てくれたんだな」

「……うん」

 隣に座る。少しあった距離が、自然と縮まっていく。

 風が草を揺らす音だけが、二人の間を満たした。

「セス」

「ん?」

「俺もね。ずっと怖かったんだ。……セスが、誰かに取られると思って。セスはきっと、これからもっと沢山の素敵な人たちに出会うからさ。俺なんか、すぐに忘れられるって思って。だから、せめて——」

 言葉が震える。

「離れたとしても、セスの幸せを願いたい。それだけだったんだ。……だから、今だけでも一緒にいられるのが幸せで。大事にしたくて。この気持ちを伝えるのが怖かった。当たり前に一緒にいられる今の関係が壊れたら、もう二度とそばに行くこともできないと思って……」

 喉の奥が詰まりそうだった。
 それでも、絞り出すように続ける。

「けど……それでも、もう隠せない。セスが好きだよ。どれだけ隣にいても足りないくらい、ずっと。……幸せになってほしいんだ。俺じゃなくてもいいから、どうか、幸せでいてって——」

 息が詰まる。
 この想いは、もはや願いに近かった。

「だからね。……俺を想ってくれたことはとても嬉しかったんだけど、その気持ちは忘れてほしい。俺じゃ、セスを幸せにできないから……」

 風が吹いた。草が音を立て、夜の静寂をかき消す。

 セスは、しばらく黙っていた。けれど、その沈黙は、すぐに破られた。


「——ふざけんなよ」

 低く、絞るような声。

「忘れろだの、幸せにできないだの……誰がそんなの決めたんだよ」

 振り返ると、セスがこちらを睨んでいた。
 怒っている。いや、それは怒りじゃない。
 涙を堪えたような、必死な表情だった。

「……俺の幸せを、勝手に決めつけんな。お前にとっては“俺のため”かもしれないけど……俺にとっては、リセルのいない未来なんて、ちっとも幸せじゃねえんだよ!」

 その一言が、俺の胸を撃ち抜いた。
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