大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

文字の大きさ
41 / 78

41《大泊瀬皇子の復讐》

しおりを挟む
眉輪まよわ穴穂大王あなほのおおきみを暗殺し葛城円かつらぎのつぶらの元にやってきてから2日が経過した。今は丁度夕方から夜に差しかかろうとしている。

葛城円の住居にいる者達は、これから一体自分達はどうなってしまうのだろうかと、皆不安の色を隠せないでいる。

それは葛城円の娘である韓媛からひめも同様だった。今眉輪は父親の円しか会えないようになってる。そのため幼い眉輪が今どのような心境にいるのか、彼女にも全く分からない。

「大王を殺したとなると、いくら眉輪様がまだ子供といっても、そう簡単に許されるものではないわ」

韓媛は眉輪が葛城にきてから自身の短剣に祈ってみた。だがどういう訳だか今回は全く何も起こらなかった。

(あの剣でも駄目となると、一体どうすれば良いの)

彼女もその被害がここ葛城にまで及ばないかと不安で仕方ない。とりあえず今は大和と父親の対応に任せるほかないであろう。

韓媛がふとそんなふうに思ってる時だ。

誰かが急に彼女の部屋にやってきた。そしてよほど慌てていたのか、外から声もかけずに部屋の中まで入ってくる。

彼女が驚いて相手を見ると、それは父親の葛城円だった。

「お、お父様?」

葛城円は少し息を荒くしており、落ち着きがないように見える。こんな状態の彼はとても珍しい。

「韓媛、大変なことになってしまった。眉輪様が大王を殺したことで、今大和より兵がこちらに向かっているようだ」

「ま、まさか!  お父様それは本当なのですか」

韓媛はそれを聞いてとても信じられないと思った。まさか大和から兵が送られるとは彼女も全く予想してなかった。

「そして今回その指示を出したのが大泊瀬皇子おおはつせのおうじらしい。穴穂大王が殺されたことで彼はかなり激怒しているようだ。
しかもその件で皇子は2人の兄と討論になり、その後2人の兄を殺してしまわれた」

それを聞いた韓媛は余りのことに恐ろしくなり、その場に座り込んでしまった。
そして彼女はぶるぶると体を震わせる。

(そんな、あの大泊瀬皇子が……)

「まぁ、2人の兄が先に大泊瀬皇子に剣を向けたそうだが」

つまり大泊瀬皇子は自身の身を守るため、2人の兄を殺してしまったということだ。だがそれでも人を殺してしまうとなると、本当に恐ろしくなる。

「大泊瀬皇子はここ葛城を攻撃するつもりなのですか?」

大泊瀬皇子がここに兵を向かわせているとなると、当然攻撃する意思もあるということだ。

「いや、それはまだ分からない。とりあえず兵がここにきたら、私が大泊瀬皇子と話しをさせてもらえるよう願い出るつもりだ」

だが大泊瀬皇子がかなり激怒しているとなると、彼がどう出てくるか全く予想ができない。

「とりあえず、お前は一旦この住居から離れなさい。そして他の葛城の元に逃げるんだ」

「そ、そんな。お父様をおいて逃げるなんて私は嫌です!!」

韓媛は涙目になりながら父親にそういう。自身は葛城の姫だ、こんな状況で自分だけ逃げるなんてことはしたくなかった。

それに父親にもしものことがあったらと不安で仕方ない。

「韓媛、もう近くまで兵がきているかもしれない。とにかく私のいうことを聞かないか!」


  すると外が何だか騒がしくなってきた。そして使用人の男が1人韓媛達のいる部屋に飛び込んできた。

「円様、大変です!  家の外にたくさんの兵がやってきています!!」

  円と韓媛は思わず息を飲んだ。恐らく大泊瀬皇子が率いる兵がやってきてしまったようだ。

(そ、そんな……本当に大泊瀬皇子が兵を連れてきてしまったの)

「そうか、分かった。恐らく大泊瀬皇子が連れてきた兵達だろう。では私が皇子と話しがしたいという旨を伝えてほしい」

  それを聞いた使用人の男も一瞬戸惑ったが、すぐに「分かりました!」といってそのまま急いで部屋を出ていった。

  使用人の男がいなくなると円は改めて韓媛に話しかけてくる。彼はとても真剣な表情だ。

「私は葛城をまとめている者としての責任がある。そしてわざわざ私を頼ってこられた眉輪様も、何とかお許しもらえないか話しをしてみるつもりだ」

(お、お父様。そのようなことが本当にできるの?)

  韓媛はこんな真剣な表情をした父親を見るのは初めてだった。彼はここ葛城のことを他の誰よりも考えている。

「韓媛、家の前には兵がたくさんいる。なので裏からそっと外に出て、一旦ここを離れるんだ。これはお願いではなく命令だ。 
 お前も葛城の娘なら大人しく私に従え!」

  韓媛もそこまで彼にいわれてしまうと、よういい返すことができない。

「分かりました、お父様。お父様の指示に従います」

  そして韓媛は立ち上がると、涙を必死で堪えながらその場を後することにする。

  そして彼女は「お父様、どうかご無事で」と言って、彼女は急いでこの場所を離れて行った。


  それから葛城円は、大泊瀬皇子達の動向を確認すべく部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

処理中です...