大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

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  それを聞いた大泊瀬皇子おおはつせのおうじはかなりの衝撃を受る。2人の兄は穴穂大王あなほのおおきみが殺されてその敵討ちに興味が無いどころか、彼の死を笑って喜んでいるのだ。

「な、何だと……貴様らそれでも大和の皇子か!!」

  大泊瀬皇子は怒りの余りかなり声を張り上げて叫んだ。目は少し赤みをおびており、そして酷く恐ろしい表情で2人の兄を睨み付けた。

  そんな大泊瀬皇子を見た境黒彦皇子さかいのくろひこのおうじ八釣白彦皇子やつりのしろひこ のおうじは、互いに目を合わせて何かを決めたようだ。

  それから立ち上がって大泊瀬皇子の前に立つと、いきなり2人は自身の剣を抜いた。

「お前も前々からうざいと思っていた。ならお前もここで殺してやる。
  お前が突然ここにやってきて、俺達を殺そうとしたといえば、誰からも咎められることはない」

  境黒彦皇子は少しにやにやしながらいった。どうやら彼らは大泊瀬皇子を本気で殺すつもりでいるようだ。

「まぁ2人でやればさすがの俺達でも、大泊瀬ぐらい殺せるだろうしね」

  八釣白彦皇子もあざ笑うかのようして続けてそういった。

  それに昔から問題ごとばかりしていた大泊瀬皇子だ。頭に血が登って兄弟を殺しにかかったといっても、特に不思議には思われないだろう。

(兄上達は、本気で俺を殺そうとしてるのか……)

  大泊瀬皇子は2人の兄皇子の態度を目にし、ついに彼はキレてしまう。
  そして自身も腰から剣を引き出して彼らに剣を向けた。


  すると2人の兄は一斉に大泊瀬皇子を斬りにかかった。

  境黒彦皇子は大きく剣を大泊瀬皇子に振り下ろす。

  すると彼はその剣を必死で受け止める。
  剣の技術なら大泊瀬皇子の方が上だが、力は境黒彦皇子の方が強かった。

  するとその隙を見て、今度は八釣白彦皇子が横から剣を向けてくる。

  それを見た大泊瀬皇子は、慌てて境黒彦皇子をの剣を跳ね返し、八釣白彦皇子に体を向けて剣を受け止めた。

(八釣白彦の兄上はそこまで剣が使える訳ではない。先にこっちの兄から攻めるか……)

  すると八釣白彦皇子が急に大泊瀬皇子に話しかけてくる。

「そういえばお前、最近葛城によく行っていたな。葛城の娘にでも手を出すつもりだったのか。それならお前を殺した後は、俺達がその娘を好きにさせてもらおうかね」

  八釣白彦皇子はそういって少しニヤっとした。どうやら大泊瀬皇子を少し動揺させようとしていったのだろう。

(か、葛城の娘だと……)

  それを聞いた瞬間に大泊瀬皇子の目付きが急に変わった。

  とても非情で残忍な人間のようになり、彼は八釣白彦皇子を睨んだ。

  そして八釣白彦皇子はそんな彼を見て、一瞬怯んだ。

  すると大泊瀬皇子は八釣白彦皇子の剣を無理やり跳ね返し、怒りに任せて彼を剣で一気に突き刺した。

  すると八釣白彦皇子は「ぐぅわー!!」といってその場に崩れ落ちた。

  そして彼から剣を抜くと今度は境黒彦皇子を睨み付ける。

「おい、大泊瀬。じ、冗談だよ。お前を本気で殺そうなんて思ってない」

  境黒彦皇子は今度は自分がやられると思い、思わず震え出した。


  だが既に大泊瀬皇子は完全に我を失っていた。そしてそのまま一気に境黒彦皇子に剣を向けてくる。

  すると境黒彦皇子は半場やけくそになり、再び彼に剣を振りかざす。

  大泊瀬皇子は1度境黒彦皇子の剣を受け止めると、素早く一歩後ろに下がり、そこから一気に相手の腹辺りを斬りつけた。

  境黒彦皇子は腹を切られて、余りの痛みに「ギャー!!」とその場で叫んだ。

  そして大泊瀬皇子はさらにもう一振彼に剣を浴びる。

  すると境黒彦皇子はそのまま倒れて、その後息を引き取った。

  一方八釣白彦皇子はまだかすかに息があった。だがこれだけの傷なら到底助からない。

  大泊瀬皇子は八釣白彦皇子の前に来ると、再度剣を刺して彼の息の根も止めた。


  大泊瀬皇子は2人の兄が死んだのを目にすると、やっと我に返った。

(俺は兄上達を殺してしまった……)

  だがこの状況ではやり返さないと、自分が死んでしまう所だった。

  そしてその時ふと何かの音がした。

  大泊瀬皇子が振り返ると、そこには宮の使用人の男がいた。彼はぶるぶると震えながらその場に座り込んでいた。

  どうやら今まで見ていた光景の余りの恐ろしさに、腰が引けて動けなくなってしまったようだ。

「お前、いつからそこにいた」

  大泊瀬皇子は低い声でその使用人の男に声をかけた。先程の異様な恐ろしさは消えているが、それでも彼はまだ神経をとがらせている。

  すると男は口をがくがくさせながらいう。

「は、はい。最初に大泊瀬皇子の叫び声が聞こえたのでやってきました。そしてゆっくりと中を覗くと、2人の皇子が大泊瀬皇子に剣を向けられていて……」

  大泊瀬皇子はそれを聞いて、この男に証言して貰えればこの件は収まるだろうと考えた。

「なるほど、お前はこの経緯は全部見ていたということだな。であれば、悪いがこの件はお前から他の者達に説明してもらえないか」

  それを聞いた男は言葉を発することが上手くできず、とりあえずコクコクと頷いた。


  大泊瀬皇子はそれから急いで兵を集めることにした。相手は子供と言えどあの葛城円かつらぎのつぶらの元にいる。であればそれなりの準備が必要だった。

  そして皇子の異常な恐ろしさに恐怖を感じた周りの者達は、そんな彼に誰も逆らうことができずに、大人しく従うことにした。


  彼は兵を集め終えると、そのまま眉輪まよわがいる葛城円の元に向かうことにした。
    
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