大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

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  翌朝の日が明けるやいなや、遠飛鳥宮とおつあすかのみやの元に穴穂大王あなほのおおきみの住まいであった石上穴穂宮いそのかみのあなほのみやから、早馬にて至急の連絡がやってくる。

  突然の早馬の到着に、遠飛鳥宮の人達もなにごとかととても驚いていた。
  そしてその知らせの内容を最初に聞いたのは、前の大王の皇后である忍坂姫おしさかのひめだ。彼女は息子である穴穂大王が殺されたことを知り、余りの衝撃にその場で崩れ落ちてしまった。

  そしてその後、大泊瀬皇子おおはつせのおうじや他の兄弟達もその事実を知ることとなる。

  大泊瀬皇子はその話しを聞くと、余りのことに思わず外に飛び出して行ってしまう。
  そして外に出ると兄を失ったことに対し、怒りと悲しみを顕にした。

(穴穂の兄上が死ぬなんて、嘘だろ……だ、誰か、嘘だといってくれ!!)

  大泊瀬皇子は自身の兄弟の中で、穴穂大王を一番慕っていた。彼は子供の頃にひどく問題児だった大泊瀬皇子を、いつも気にかけてくれていた。そしてそんな彼の遊び相手にも良くなっていた。


  それから大泊瀬皇子は地面にへばり付くと、地面を何度も何度も叩きつける。余りに強く叩いていたので、手の表面の皮膚が少し破れて、血がにじみだしてきた。

  そして彼は涙を流しながら、その場で声を張り上げて亡くなった兄の名を叫んだ。

「穴穂の兄上ーー!!」

(穴穂の兄上は眉輪まよわに殺された……)

  眉輪の父親の大草香皇子は、穴穂大王の指示で暗殺されてしまった。なので眉輪がその復讐で、穴穂大王を殺したくなる動機は分かる。

  でもだからといって、大王である兄を殺した眉輪を、彼はとても許すことができない。
  さらに今回は大王の暗殺だ。このまま見過ごす別けには到底いかない。

  その瞬間に大泊瀬皇子は、ひどく恐ろしい感情を顕にする。

(眉輪め、お前は絶対に許さない!  捕まえて必ず俺が兄上の仇をとってやる!!)



  そしてその翌日、眉輪が葛城円かつらぎのつぶらの元に行っていることが宮内に知らされる。
  偶々穴穂大王の宮からの使いで、葛城円の元に行っていた者がそのことを知ったようだ。

  葛城円の元でも、突然の穴穂大王の死と、その首謀者である眉輪が訪ねてきたことにより、ここの使用人達も皆大騒ぎになっているようだ。

  とりあえず葛城円が皆を何とか落ち着かせ、眉輪には自分以外は誰も近付かせないように指示を出した。


  大泊瀬皇子は眉輪が葛城円の元にいることを知るなり、すぐさま彼の2人の兄の部屋へと向かうことにした。

  普段は大和の政りことには余り興味を示さない2人だが、今回は自分達の兄弟が殺されたのだ。

  そんな2人も、さすがに今回は協力してくれるだろうと彼は考えた。

(2人の兄上と話しをして、一緒に眉輪の元に行き、穴穂の兄上の仇をとってやる)





そして大泊瀬皇子は、まず第2皇子にあたる境黒彦皇子さかいのくろひこのおうじのいる部屋へとやってくる。
  そして外から挨拶をすることなく、彼は突然部屋の中へと入っていった。

  そして大泊瀬皇子が部屋の中に入ると、第2皇子の境黒彦皇子だけでなく、何と第4皇子の八釣白彦皇子やつりのしろひこ のおうじまでやってきていた。

  兄皇子の2人はゆったりくつろいで酒を飲んでいたようだ。

  そんな2人を見た大泊瀬皇子は、これなら2人一緒に話しができてとても都合が良いと考える。

(もしかすると、兄上達も今回の件で話しをしていたのかもしれない……)

  そんな2人を目の前にし、大泊瀬皇子はここにきた理由を2人の兄皇子に話す。

「兄上達も知っていると思うが、昨日穴穂の兄上が眉輪に殺された。そして今日入ってきた話しで、あいつは今葛城円の元に逃げているそうだ。
  ならば葛城円の元に行って、穴穂の兄上の仇をとりたいと思う」

  大泊瀬皇子は2人の兄にそう説明した。

(葛城円の元にいるなら、眉輪もそこから離れることはないだろう。きっと円が上手く匿っているはずだ)

  だがそんな大泊瀬皇子の話しを聞いた2人は、ひどく面倒くさそうな表情をする。

  それから境黒彦皇子は少し呆れたような口調で話し出した。

「おいおい、大泊瀬。大王が殺されたからといって、いきなり敵討ちはないだろ?俺は別にそんな面倒なことに関わるのはごめんだ」

  そういって彼は側にあった酒の入った器を手に取り、その酒を飲み干す。

(何、そんなこと……今回は大王が殺されたのだぞ)

  大泊瀬皇子は境黒彦皇子の意外な反応に驚く。

  するとそんな境黒彦皇子につられるようにして、今度は八釣白彦皇子が口をひらく。

「そうそう、俺達はただのんびりと日常を過ごせれたらそれで良い」

  八釣白彦皇子も境黒彦皇子に同調するようにしていう。

  それを聞いた大泊瀬皇子はみるみるうちに怒りが込み上げてきた。
  これは単なる大王の敵討ちだけでなく、今後の大和に関わる重要なことだ。それなのにこの2人の皇子は、それをどうでも良いことだといってくる。

(信じられない。それでも2人は大和の皇子なのか)

  大泊瀬皇子は悔しさの余り体をぶるぶると震わせる。

  そんな大泊瀬皇子の様子を見た境黒彦皇子は、酒の入った器をその場に投げつけて、声を張り上げて彼にいう。

「だいたい大泊瀬、お前は弟の癖に生意気過ぎるんだよ!!  俺達より年下なのに政りごとなんかに関わりやがって。そのせいで俺達が何の期待もされず、どんな惨めな思いをしているか!」

「そうそう。でもそれなら穴穂も一緒だけどね。だからあいつが死んで、むしろせいせいしてるぐらいだよ」

  八釣白彦皇子もクスクス笑いながらそう答えた。兄弟が亡くなったというのに彼らは全く悲しんでおらず、むしろせいせいしているようだ。

  だが2人が期待されないのはいつも遇だらとしていて、遊び呆けているのが原因だ。
  それなのに2人はそれを棚に上げて大泊瀬皇子にいってくる。
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