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38《眉輪と穴穂大王の暗殺》
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韓媛達が吉野から帰ってきてから、数ヶ月程が過ぎる。そして年も変わって彼女も15歳になった。
その間この大和も特に変わったこともなく、それなりに穏やかな日々が続いている。
そしてそんな中、穴穂大王があることについて悩みを抱えていた。
彼は大草香皇子の暗殺したのち、彼の妃であった中磯皇女を自身の皇后にした。また彼女と大草香皇子の子供である、眉輪も一緒に自身の宮に住まわせている。
中磯皇女は、亡き去来穂別大王の妃であった黒媛が亡くなった後、新たに立后した草香幡梭皇女との間に生まれた皇女である。そして彼女と穴穂大王は従姉同士の関係だった。
なお彼女の母親である草香幡梭皇女は、大泊瀬皇子と婚姻の話しに上がっている草香幡梭姫とは別の人物だ。
そして穴穂大王は以前から、そんな中磯皇女に密かに想いを寄せていた。
そのため大草香皇子を暗殺した後、彼は彼女を自身の皇后とする。
中磯皇女の方もそれに対して特に抵抗することもなく、素直に従った。
だがそんな穴穂大王ではあったが、やはり今回の一連のできごとに対して、彼は少し罪悪感を感じていた。
そんなある日のこと、穴穂大王は神床で昼寝をしていた。今はちょうど陽が傾く頃にさしかかっており、そこに彼は中磯皇女を招きよせた。
彼は自身の太刀を横に置き、彼女の膝に寝そべったまま彼女に話しかける。
「なぁ、中磯皇女。君は今、なにか心配なことなどはないか」
穴穂大王はふと彼女にそんな質問をした。やっとの思いで后にした彼女だが、彼女の前の夫を殺して自身の后にした女性だ。そのこともあって、彼女自身が今の現状をどう思っているのか気になった。
「そうですね。大王にはとても大事にして頂いてます。なので心配なことなどは特にありません」
中磯皇女は大王の顔を見て、彼に優しくそういった。
穴穂大王はそんな彼女の表情を見て、自分を恨むこともせず、何の抵抗もなく后になった彼女が本当に不思議に思う。
そんな彼女を前にして、穴穂大王は中磯皇女に自分の悩みを打ち明けることにした。
「俺は眉輪のことが気がかりだ。あの子の父親を殺させたのが、俺自身だということをまだ本人は知らない。
なので将来そのことを知ったら、眉輪は一体どう思うのだろうか。自分を恨み、復讐しようと思うかもしれない……俺はそれが気が気でならない」
眉輪はまだ7歳で、大草香皇子の暗殺の経緯をまだ詳しく聞かされていない。
中磯皇女もそのことには、特に何もいい返すことはせず、ただ黙って彼の話しを聞いていた。
そして丁度穴穂大王がその話しをしている時だった。偶然にも眉輪が穴穂大王の神床の建物の下にもぐり込み、遊んでいたのである。大王の神床は高さがあり、その下は子供なら簡単に入り込める。
そして運悪く彼は穴穂大王の話を聞いてしまう。
「僕の父さまは、今の大王が殺した……」
眉輪は余りの衝撃にその場で動けなくなる。ある日突然彼は父親が死んだことを知らされた。
まだ子供の彼からしても、それはとても辛いできごとである。だがそんな彼を穴穂大王は優しく迎え入れた。
だが実際にはその大王本人によって、彼の父親は殺されていたのだ。
眉輪の目から思わず涙がでてきた。自分の父親が一体何をしたというのだ。
その時まだ幼い彼の心に沸々と怒りが込み上がる。今の大王は自身の幸せな生活を壊し、そしてさらには彼の母親まで奪いさってしまったのだ。
(大王のことは絶対に許さない……父さまの仇を僕がとってやる)
眉輪はそこで大王に復讐することを決めた。
大王など死んでしまえば良い。己の父親が受けた苦しみを味あわせてやろう。
その後眉輪は静かにその場を離れて行った。
それから眉輪は大王が自身の部屋で寝ているのを確認したのち、彼の寝床にそっと気づかれないようにして入っていく。
今は辺りもだいぶ日が暮れてきていた。
そして部屋に入ると、彼は大王の側に置いてあった飾大刀を自身の手に持ち、鞘から剣を抜いた。
(今大王は寝ている。そっと近づいてやれば、気付かれない……)
そして彼は大王の側までくると、一気に大刀を振り下ろし、大王の首を斬る。
7歳の子供とは思えない、凄まじい気迫と力だった。
その瞬間に大王の目が一瞬開いたが、そのまま彼は程なくして死んでしまう。
大王が死んだのを確認すると、眉輪はそこでやっと我に返ることができた。
一体自分はどうして、このようなことをしてしまったのだろうか。
(ど、どうしよう……ぼ、僕、大王を殺してしまった)
眉輪は、とりあえず今はどこかに逃げるしかないと考えた。
(大和の人達は、きっと僕のことを許さない。そ、そうだ。であれば力のある葛城の元に行こう)
眉輪の脳裏に葛城円が浮かんだ。彼なら自分を助けてくれるかもしれない。
それに葛城円の元なら、子供の自分でも歩いて行けなくもない。
眉輪はそう思うと、慌ててその場を後にし、葛城円の元に向かうことにした。
穴穂大王の寝床から眉輪が慌てて出ていくのを見た、宮の使用人の男は不振に思い、大王の元に行ってみることにした。
そして大王が死んでいるのを目にし、余りのことにその場で大声を発した。
「あ、穴穂大王ー!!」
その瞬間に宮は大騒ぎとなる。宮の使用人達が大王の部屋を確認した所、大王を斬った飾大刀にたくさん血が付いており、それが子供の手の形のように見えた。
そして先程、眉輪が慌てて大王の元から逃げて行くのを使用人の男が見ている。そのため穴穂大王を殺したのが、眉輪ということも分かってしまった。
それを知った中磯皇女は、余りのことにその場で気を失ってしまう。
また眉輪は既に宮から逃げていたため、既に行方が分からなくなっていた。
そこで宮の者達は、すぐさま遠飛鳥宮にこの件を伝えることにした。
その間この大和も特に変わったこともなく、それなりに穏やかな日々が続いている。
そしてそんな中、穴穂大王があることについて悩みを抱えていた。
彼は大草香皇子の暗殺したのち、彼の妃であった中磯皇女を自身の皇后にした。また彼女と大草香皇子の子供である、眉輪も一緒に自身の宮に住まわせている。
中磯皇女は、亡き去来穂別大王の妃であった黒媛が亡くなった後、新たに立后した草香幡梭皇女との間に生まれた皇女である。そして彼女と穴穂大王は従姉同士の関係だった。
なお彼女の母親である草香幡梭皇女は、大泊瀬皇子と婚姻の話しに上がっている草香幡梭姫とは別の人物だ。
そして穴穂大王は以前から、そんな中磯皇女に密かに想いを寄せていた。
そのため大草香皇子を暗殺した後、彼は彼女を自身の皇后とする。
中磯皇女の方もそれに対して特に抵抗することもなく、素直に従った。
だがそんな穴穂大王ではあったが、やはり今回の一連のできごとに対して、彼は少し罪悪感を感じていた。
そんなある日のこと、穴穂大王は神床で昼寝をしていた。今はちょうど陽が傾く頃にさしかかっており、そこに彼は中磯皇女を招きよせた。
彼は自身の太刀を横に置き、彼女の膝に寝そべったまま彼女に話しかける。
「なぁ、中磯皇女。君は今、なにか心配なことなどはないか」
穴穂大王はふと彼女にそんな質問をした。やっとの思いで后にした彼女だが、彼女の前の夫を殺して自身の后にした女性だ。そのこともあって、彼女自身が今の現状をどう思っているのか気になった。
「そうですね。大王にはとても大事にして頂いてます。なので心配なことなどは特にありません」
中磯皇女は大王の顔を見て、彼に優しくそういった。
穴穂大王はそんな彼女の表情を見て、自分を恨むこともせず、何の抵抗もなく后になった彼女が本当に不思議に思う。
そんな彼女を前にして、穴穂大王は中磯皇女に自分の悩みを打ち明けることにした。
「俺は眉輪のことが気がかりだ。あの子の父親を殺させたのが、俺自身だということをまだ本人は知らない。
なので将来そのことを知ったら、眉輪は一体どう思うのだろうか。自分を恨み、復讐しようと思うかもしれない……俺はそれが気が気でならない」
眉輪はまだ7歳で、大草香皇子の暗殺の経緯をまだ詳しく聞かされていない。
中磯皇女もそのことには、特に何もいい返すことはせず、ただ黙って彼の話しを聞いていた。
そして丁度穴穂大王がその話しをしている時だった。偶然にも眉輪が穴穂大王の神床の建物の下にもぐり込み、遊んでいたのである。大王の神床は高さがあり、その下は子供なら簡単に入り込める。
そして運悪く彼は穴穂大王の話を聞いてしまう。
「僕の父さまは、今の大王が殺した……」
眉輪は余りの衝撃にその場で動けなくなる。ある日突然彼は父親が死んだことを知らされた。
まだ子供の彼からしても、それはとても辛いできごとである。だがそんな彼を穴穂大王は優しく迎え入れた。
だが実際にはその大王本人によって、彼の父親は殺されていたのだ。
眉輪の目から思わず涙がでてきた。自分の父親が一体何をしたというのだ。
その時まだ幼い彼の心に沸々と怒りが込み上がる。今の大王は自身の幸せな生活を壊し、そしてさらには彼の母親まで奪いさってしまったのだ。
(大王のことは絶対に許さない……父さまの仇を僕がとってやる)
眉輪はそこで大王に復讐することを決めた。
大王など死んでしまえば良い。己の父親が受けた苦しみを味あわせてやろう。
その後眉輪は静かにその場を離れて行った。
それから眉輪は大王が自身の部屋で寝ているのを確認したのち、彼の寝床にそっと気づかれないようにして入っていく。
今は辺りもだいぶ日が暮れてきていた。
そして部屋に入ると、彼は大王の側に置いてあった飾大刀を自身の手に持ち、鞘から剣を抜いた。
(今大王は寝ている。そっと近づいてやれば、気付かれない……)
そして彼は大王の側までくると、一気に大刀を振り下ろし、大王の首を斬る。
7歳の子供とは思えない、凄まじい気迫と力だった。
その瞬間に大王の目が一瞬開いたが、そのまま彼は程なくして死んでしまう。
大王が死んだのを確認すると、眉輪はそこでやっと我に返ることができた。
一体自分はどうして、このようなことをしてしまったのだろうか。
(ど、どうしよう……ぼ、僕、大王を殺してしまった)
眉輪は、とりあえず今はどこかに逃げるしかないと考えた。
(大和の人達は、きっと僕のことを許さない。そ、そうだ。であれば力のある葛城の元に行こう)
眉輪の脳裏に葛城円が浮かんだ。彼なら自分を助けてくれるかもしれない。
それに葛城円の元なら、子供の自分でも歩いて行けなくもない。
眉輪はそう思うと、慌ててその場を後にし、葛城円の元に向かうことにした。
穴穂大王の寝床から眉輪が慌てて出ていくのを見た、宮の使用人の男は不振に思い、大王の元に行ってみることにした。
そして大王が死んでいるのを目にし、余りのことにその場で大声を発した。
「あ、穴穂大王ー!!」
その瞬間に宮は大騒ぎとなる。宮の使用人達が大王の部屋を確認した所、大王を斬った飾大刀にたくさん血が付いており、それが子供の手の形のように見えた。
そして先程、眉輪が慌てて大王の元から逃げて行くのを使用人の男が見ている。そのため穴穂大王を殺したのが、眉輪ということも分かってしまった。
それを知った中磯皇女は、余りのことにその場で気を失ってしまう。
また眉輪は既に宮から逃げていたため、既に行方が分からなくなっていた。
そこで宮の者達は、すぐさま遠飛鳥宮にこの件を伝えることにした。
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