大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

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41《大泊瀬皇子の復讐》

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眉輪まよわ穴穂大王あなほのおおきみを暗殺し葛城円かつらぎのつぶらの元にやってきてから2日が経過した。今は丁度夕方から夜に差しかかろうとしている。

葛城円の住居にいる者達は、これから一体自分達はどうなってしまうのだろうかと、皆不安の色を隠せないでいる。

それは葛城円の娘である韓媛からひめも同様だった。今眉輪は父親の円しか会えないようになってる。そのため幼い眉輪が今どのような心境にいるのか、彼女にも全く分からない。

「大王を殺したとなると、いくら眉輪様がまだ子供といっても、そう簡単に許されるものではないわ」

韓媛は眉輪が葛城にきてから自身の短剣に祈ってみた。だがどういう訳だか今回は全く何も起こらなかった。

(あの剣でも駄目となると、一体どうすれば良いの)

彼女もその被害がここ葛城にまで及ばないかと不安で仕方ない。とりあえず今は大和と父親の対応に任せるほかないであろう。

韓媛がふとそんなふうに思ってる時だ。

誰かが急に彼女の部屋にやってきた。そしてよほど慌てていたのか、外から声もかけずに部屋の中まで入ってくる。

彼女が驚いて相手を見ると、それは父親の葛城円だった。

「お、お父様?」

葛城円は少し息を荒くしており、落ち着きがないように見える。こんな状態の彼はとても珍しい。

「韓媛、大変なことになってしまった。眉輪様が大王を殺したことで、今大和より兵がこちらに向かっているようだ」

「ま、まさか!  お父様それは本当なのですか」

韓媛はそれを聞いてとても信じられないと思った。まさか大和から兵が送られるとは彼女も全く予想してなかった。

「そして今回その指示を出したのが大泊瀬皇子おおはつせのおうじらしい。穴穂大王が殺されたことで彼はかなり激怒しているようだ。
しかもその件で皇子は2人の兄と討論になり、その後2人の兄を殺してしまわれた」

それを聞いた韓媛は余りのことに恐ろしくなり、その場に座り込んでしまった。
そして彼女はぶるぶると体を震わせる。

(そんな、あの大泊瀬皇子が……)

「まぁ、2人の兄が先に大泊瀬皇子に剣を向けたそうだが」

つまり大泊瀬皇子は自身の身を守るため、2人の兄を殺してしまったということだ。だがそれでも人を殺してしまうとなると、本当に恐ろしくなる。

「大泊瀬皇子はここ葛城を攻撃するつもりなのですか?」

大泊瀬皇子がここに兵を向かわせているとなると、当然攻撃する意思もあるということだ。

「いや、それはまだ分からない。とりあえず兵がここにきたら、私が大泊瀬皇子と話しをさせてもらえるよう願い出るつもりだ」

だが大泊瀬皇子がかなり激怒しているとなると、彼がどう出てくるか全く予想ができない。

「とりあえず、お前は一旦この住居から離れなさい。そして他の葛城の元に逃げるんだ」

「そ、そんな。お父様をおいて逃げるなんて私は嫌です!!」

韓媛は涙目になりながら父親にそういう。自身は葛城の姫だ、こんな状況で自分だけ逃げるなんてことはしたくなかった。

それに父親にもしものことがあったらと不安で仕方ない。

「韓媛、もう近くまで兵がきているかもしれない。とにかく私のいうことを聞かないか!」


  すると外が何だか騒がしくなってきた。そして使用人の男が1人韓媛達のいる部屋に飛び込んできた。

「円様、大変です!  家の外にたくさんの兵がやってきています!!」

  円と韓媛は思わず息を飲んだ。恐らく大泊瀬皇子が率いる兵がやってきてしまったようだ。

(そ、そんな……本当に大泊瀬皇子が兵を連れてきてしまったの)

「そうか、分かった。恐らく大泊瀬皇子が連れてきた兵達だろう。では私が皇子と話しがしたいという旨を伝えてほしい」

  それを聞いた使用人の男も一瞬戸惑ったが、すぐに「分かりました!」といってそのまま急いで部屋を出ていった。

  使用人の男がいなくなると円は改めて韓媛に話しかけてくる。彼はとても真剣な表情だ。

「私は葛城をまとめている者としての責任がある。そしてわざわざ私を頼ってこられた眉輪様も、何とかお許しもらえないか話しをしてみるつもりだ」

(お、お父様。そのようなことが本当にできるの?)

  韓媛はこんな真剣な表情をした父親を見るのは初めてだった。彼はここ葛城のことを他の誰よりも考えている。

「韓媛、家の前には兵がたくさんいる。なので裏からそっと外に出て、一旦ここを離れるんだ。これはお願いではなく命令だ。 
 お前も葛城の娘なら大人しく私に従え!」

  韓媛もそこまで彼にいわれてしまうと、よういい返すことができない。

「分かりました、お父様。お父様の指示に従います」

  そして韓媛は立ち上がると、涙を必死で堪えながらその場を後することにする。

  そして彼女は「お父様、どうかご無事で」と言って、彼女は急いでこの場所を離れて行った。


  それから葛城円は、大泊瀬皇子達の動向を確認すべく部屋を後にした。
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