44 / 78
44《父と娘の別れ》
しおりを挟む
韓媛は自身の家の中に入ると、葛城円を探した。恐らく父親は眉輪のそばにいるに違いないだろうと彼女は考える。
(煙が強くなってきている。早くお父様の側にいかないと、自分が先に倒れてしまうわ)
この家の使用人達も全く見当たらない。
もしかすると既にこの家から逃げ出しているのだろうか。
韓媛は燃え盛る炎を必死で交わしながら、目的の場所へと向かった。
そしてその後、何とか彼女は眉輪がいる部屋の前までやってくることができた。
「お父様ー! 中にいるのですか!!」
韓媛は口をおそえ、少しゲホゲホしながら精一杯声を張り上げて父親を叫ぶ。
この辺りは特に炎が早くまわっているようだ。
するとその声に反応があったようで、部屋の中から人が出てきた。
そして中から現れたのは葛城円本人である。
そして韓媛を目の前にして、彼はとても信じられないといった、驚きの表情を彼女に見せる。
「か、韓媛。何故お前がここにいるんだ! 早くここから外に出ていくんだ!!」
円は血相を変えて彼女にそういう。娘の命を守るために先に逃がしたはずなのに、まさかまた戻ってくるとは、彼は夢にも思わなかったようだ。
「お父様、私はお父様なしでは生きていけません!!」
韓媛は涙ながらに彼にそう訴えた。
(私はきっと大和に逆らった人物の娘として、今後生きることになるわ……)
「韓媛、何をいっているんだ。お前は生き延びなければいけない。そうしないと先に亡くなったお前の母親に会わす顔がない」
「大泊瀬皇子は眉輪様を渡さなかったお父様を、きっとお許しにはならない。それなら最悪、彼は私も殺そうとするかもしれません」
彼は実の兄を2人既に殺している。それは仕方のなかったことかもしれないが、実の兄達でさえ殺せるのだ。それなら自分を殺すことだって、彼ならできるだろうと韓媛は思った。
「韓媛、大泊瀬皇子はお前を見捨てるなんてことは絶対になさらない。これだけは確実にいえる」
「え、それはどう言うこと……」
父親はどうしてここまで確信をもってそういえるのだろうか。韓媛にはその理由が全く分からない。
「それはお前が皇子から直接聞くと良い。お願いだ韓媛、お前は私やこの部屋の中にいる眉輪様の分まで生き抜いてくれ。それが私の最後の願いだ」
葛城円はとても真剣な表情で彼女にいう。
(お父様はそこまで私のことを思って……)
「私が亡くなれば、葛城は大きく衰退するかもしれない。だが私はそもそも葛城の繁栄など始めから望んでいない。
私の望みは、葛城の子孫が絶えずに末永く続いていくことだ。人間命さえ繋いでいけばきっとやっていけるはずだからな」
父親のその言葉を聞いて、韓媛は何もいい返せなかった。
(お父様の望みは葛城の子孫が末永く続いていくこと……)
葛城円は真っ直ぐ娘の顔を見ていた。
そんな父親の覚悟が韓媛にも思わず伝わってくる。
もう父親の決心は固まっている。ここで自分が泣きじゃくったとしても、彼は決してその覚悟を変える気はないだろう。
韓媛はそんな父親を見て、この先どうなるか分からないが、父親達の分まで生きていくことが、自分の運命なのではと思った。
「分かりました、お父様。お父様達のためにも私頑張って生き続けてみます」
それを聞いた円も少し目を細くして「そうだ、それで良い」といって頷いた。
「では、お父様。私行きますね」
彼女は涙を必死で堪えながらそう彼にいった。
これが父と娘の最後の別れの挨拶になるのかと考えると、どうもあっさりし過ぎているなと彼女は思った。
「あぁ、頑張るんだぞ。それとお前に渡したあの短剣だが、何となくあの剣がお前を守ってくれるような気がする」
それを聞いて韓媛は思った。
今回あの剣は何の反応もなかったので一瞬困ったが、これは父親との最後の会話である。ここは父のいうことに従おう。
「分かりました、お父様。私もお父様から頂いた短剣を信じてみます」
韓媛はそういうと軽く彼に頭を下げて、その場を走り去って行った。
(お父様、さようなら……)
葛城円はそんな娘の姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。
そして娘がいなくなると、葛城円はふと独り言のようにしていった。
「紫津媛、私達の娘は本当に聡明で優しいな娘になった。あの子だけは何としても生き抜いて幸せになって欲しい……」
そしてその後、彼は眉輪のいる部屋の中に戻っていく。
彼が部屋の中に入ると、中では眉輪が座って彼を待っていた。
「あなたの娘は行かれたのですね」
眉輪は特に怯えることもなく静かにそういった。円はそんな彼を見てとても7歳の子供には見えないと思った。
この年で大人を殺してしまうとは、何とも恐ろしい子供である。
そしてこの子供が何とも不運の運命を辿ることになり、とても哀れに思えた。
そういう意味では、自分と一緒にこのまま人生を終らせるのも良いのかもしれない。
「眉輪様、まもなくこの部屋も火でおおわれます」
「はい、分かってます。であれば僕のことをこのまま殺してくれませんか。最後にこんな僕を庇ってくれたあなたに殺されるなら本望です」
眉輪はとても穏やかな表情でそういった。その笑顔だけは年相応の子供に見えると円は思う。
「分かりました。眉輪様、私もその後直ぐにあとを追いますので……」
そういって彼は自身の剣を引き抜き、彼に剣の先を向ける。
(きっとこれで私もこの幼い皇子も救われるだろう)
そしてその後この部屋は燃え盛る炎に覆われていった。
(煙が強くなってきている。早くお父様の側にいかないと、自分が先に倒れてしまうわ)
この家の使用人達も全く見当たらない。
もしかすると既にこの家から逃げ出しているのだろうか。
韓媛は燃え盛る炎を必死で交わしながら、目的の場所へと向かった。
そしてその後、何とか彼女は眉輪がいる部屋の前までやってくることができた。
「お父様ー! 中にいるのですか!!」
韓媛は口をおそえ、少しゲホゲホしながら精一杯声を張り上げて父親を叫ぶ。
この辺りは特に炎が早くまわっているようだ。
するとその声に反応があったようで、部屋の中から人が出てきた。
そして中から現れたのは葛城円本人である。
そして韓媛を目の前にして、彼はとても信じられないといった、驚きの表情を彼女に見せる。
「か、韓媛。何故お前がここにいるんだ! 早くここから外に出ていくんだ!!」
円は血相を変えて彼女にそういう。娘の命を守るために先に逃がしたはずなのに、まさかまた戻ってくるとは、彼は夢にも思わなかったようだ。
「お父様、私はお父様なしでは生きていけません!!」
韓媛は涙ながらに彼にそう訴えた。
(私はきっと大和に逆らった人物の娘として、今後生きることになるわ……)
「韓媛、何をいっているんだ。お前は生き延びなければいけない。そうしないと先に亡くなったお前の母親に会わす顔がない」
「大泊瀬皇子は眉輪様を渡さなかったお父様を、きっとお許しにはならない。それなら最悪、彼は私も殺そうとするかもしれません」
彼は実の兄を2人既に殺している。それは仕方のなかったことかもしれないが、実の兄達でさえ殺せるのだ。それなら自分を殺すことだって、彼ならできるだろうと韓媛は思った。
「韓媛、大泊瀬皇子はお前を見捨てるなんてことは絶対になさらない。これだけは確実にいえる」
「え、それはどう言うこと……」
父親はどうしてここまで確信をもってそういえるのだろうか。韓媛にはその理由が全く分からない。
「それはお前が皇子から直接聞くと良い。お願いだ韓媛、お前は私やこの部屋の中にいる眉輪様の分まで生き抜いてくれ。それが私の最後の願いだ」
葛城円はとても真剣な表情で彼女にいう。
(お父様はそこまで私のことを思って……)
「私が亡くなれば、葛城は大きく衰退するかもしれない。だが私はそもそも葛城の繁栄など始めから望んでいない。
私の望みは、葛城の子孫が絶えずに末永く続いていくことだ。人間命さえ繋いでいけばきっとやっていけるはずだからな」
父親のその言葉を聞いて、韓媛は何もいい返せなかった。
(お父様の望みは葛城の子孫が末永く続いていくこと……)
葛城円は真っ直ぐ娘の顔を見ていた。
そんな父親の覚悟が韓媛にも思わず伝わってくる。
もう父親の決心は固まっている。ここで自分が泣きじゃくったとしても、彼は決してその覚悟を変える気はないだろう。
韓媛はそんな父親を見て、この先どうなるか分からないが、父親達の分まで生きていくことが、自分の運命なのではと思った。
「分かりました、お父様。お父様達のためにも私頑張って生き続けてみます」
それを聞いた円も少し目を細くして「そうだ、それで良い」といって頷いた。
「では、お父様。私行きますね」
彼女は涙を必死で堪えながらそう彼にいった。
これが父と娘の最後の別れの挨拶になるのかと考えると、どうもあっさりし過ぎているなと彼女は思った。
「あぁ、頑張るんだぞ。それとお前に渡したあの短剣だが、何となくあの剣がお前を守ってくれるような気がする」
それを聞いて韓媛は思った。
今回あの剣は何の反応もなかったので一瞬困ったが、これは父親との最後の会話である。ここは父のいうことに従おう。
「分かりました、お父様。私もお父様から頂いた短剣を信じてみます」
韓媛はそういうと軽く彼に頭を下げて、その場を走り去って行った。
(お父様、さようなら……)
葛城円はそんな娘の姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。
そして娘がいなくなると、葛城円はふと独り言のようにしていった。
「紫津媛、私達の娘は本当に聡明で優しいな娘になった。あの子だけは何としても生き抜いて幸せになって欲しい……」
そしてその後、彼は眉輪のいる部屋の中に戻っていく。
彼が部屋の中に入ると、中では眉輪が座って彼を待っていた。
「あなたの娘は行かれたのですね」
眉輪は特に怯えることもなく静かにそういった。円はそんな彼を見てとても7歳の子供には見えないと思った。
この年で大人を殺してしまうとは、何とも恐ろしい子供である。
そしてこの子供が何とも不運の運命を辿ることになり、とても哀れに思えた。
そういう意味では、自分と一緒にこのまま人生を終らせるのも良いのかもしれない。
「眉輪様、まもなくこの部屋も火でおおわれます」
「はい、分かってます。であれば僕のことをこのまま殺してくれませんか。最後にこんな僕を庇ってくれたあなたに殺されるなら本望です」
眉輪はとても穏やかな表情でそういった。その笑顔だけは年相応の子供に見えると円は思う。
「分かりました。眉輪様、私もその後直ぐにあとを追いますので……」
そういって彼は自身の剣を引き抜き、彼に剣の先を向ける。
(きっとこれで私もこの幼い皇子も救われるだろう)
そしてその後この部屋は燃え盛る炎に覆われていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる