大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

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  その頃韓媛からひめは先程の場所にずっと隠れたままでいた。そして何とか兵に自身の住居に攻め込まれることがないよう、必死で祈っていた。

(もう!この剣もどうして全く反応がないのよ!!)

  父のつぶらから渡されたこの短剣は、相変わらず何の反応もない。

「ここからだと、遠くて家は余り良く見えない。でもとりあえず兵はまだ動いてなさそうね」

  韓媛がそんなことを思っている丁度その時だった。

  韓媛の住居から何やら黒い煙が立ち上がっているのが見える。さらに家も燃え始めているようで、その火もだんだんと大きくなっているようだ。

「え、家が燃えてるわ!!もしかしてお父様はまだ家の中にいるのでは?」

  韓媛は何やら凄く嫌な予感がしてきた。 
  もしかすると、彼女の父親はこのまま焼き殺されてしまうかもしれない。

(お父様が死んでしまうなんて、そんなの絶対に嫌よ!!)

  韓媛はすぐさま立ち上がり、家に戻ることにした。家の前には沢山の兵がいるがもうそんなことはどうでも良かった。それよりも自身の父親が死んでしまう方がよほど恐ろしい。

  そして韓媛は必死で走って家へと向かった。

  そしてやっとの思いで家の前までたどり着くと、彼女は家の前で大泊瀬皇子おおはつせのおうじが立っていることに気付く。また彼も韓媛の姿を見てとても驚いた。

「か、韓媛!お前が何故ここにいるんだ」

  韓媛はそんな大泊瀬皇子の言葉には全く気にもせず、自身の家を眺めた。

「お、お父様は無事なの?」

「葛城円は眉輪まよわを引き渡すのを拒み、自身の家に火を付けたようだ。どうやら眉輪と一緒に自害するつもりらしい」

  大泊瀬皇子は何とも複雑な表情をしながら彼女に説明した。
  そんな彼の表情を見る限り、恐らく彼自身もこんな展開は望んではいなかったのだろう。

「そ、そんなことって……お、お父様が」

  このままでは父親は死んでしまい、このまま会えなくなってしまう。韓媛はそんな後悔はしたくないと思った。

  すると彼女は覚悟を決めて、すぐさま家の中に向かうことにした。

  そんな彼女の様子に気が付いた大泊瀬皇子は、慌てて彼女をとめにかかる。
  だがあと一歩のところで間に合わず、彼女の腕を掴みそびれてしまう。


そして韓媛の方はそのまま家の中へと入っていった。



「韓媛、中に入るなー!!」

  大泊瀬皇子は大声で彼女に向かってそう叫んだ。だがその声は彼女に届くことはなかった。

  大泊瀬皇子は衝撃の余り、その場に座り込んでしまう。

「う、うそだろ。あいつがこの燃え盛る炎の中、家の中に入っていってしまった……」

  そして皇子はそんな彼女が向かっていった先を、ただひたすら眺めるほかなかった。


  葛城円の家はなおも激しく燃え盛っている。他の兵達もそんな状況にどうしたら良いか分からず、皆唖然とその光景を見ていた。
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