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外伝 儚く散った公爵令息
6 フランディル 2
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私は幼い頃からの想い人と結婚をする。
だが、ここ最近のシリルは何かがおかしい。月に一度の逢瀬では精一杯の可愛い笑顔を見せてくれるが、ふと学園で見かけるとシリルの顔色は陰っていた。
そんな日が続いたある日、リアムから呼び出される。
「殿下、大変です。アシュリーとシリル様が言い争っているとリーグから報告が!」
「え? なんだって、なぜアシュリーとシリルに接点がある?」
急いで学園の中庭に行くと、そこでシリルが見たことも無いような狂気の顔をして、アシュリーに掴みかかっていた。手にはナイフ? いったい何があったというのだ。
「シ、シリル! 何をしている」
シリルに声をかけると、私を見た彼は驚くも、すぐに悲しい表情になり泣き叫んだ。
「どうして! 僕はこんなにも殿下を愛しているのに! なぜその男を選ぶの。アシュリーなんて、殺してやる」
なんだって? いったい何を言っている? その男を選ぶとは、いったい……
アシュリーは護衛の手を離し、私に縋ってきた。
「いやっ! 助けて、シリル様に……」
シリルがアシュリーを刺そうとしていた?
リアムが私からアシュリーを引き離し、泣き崩れる彼を監視につけていたリーグに渡していた。そして、シリルはリアムに支えられた。
「シ、シリル……」
「どうして、どうして? 僕がいるのに、どうして殿下は! もう嫌だ、アシュリーを殺す。僕が彼を殺せば殿下はまた僕のことを想ってくれるでしょ?」
シリルの口から、そんな言葉を聞く日が来るとは思わなかった。
シリルが誰かに殺意を抱くなど、王太子妃になろうものが民を私怨で……それではいけない。学園という公共の場で、そんな言葉を使っては貴族に誤解されかねない。
私の想っている相手は昔からシリルだけだ。それを知らないはずがないのに、どうして……
シリルのこんな姿を誰かに見られでもしたら、王太子妃としての資格をはく奪されかねない。
幸いここにいるのは少数の人間だ。あとで口止めをすれば何とかなるかもしれないが、人の噂を止めることは不可能だ。とにかくこの場を収めなければ。
「シリル、なぜおまえはそのようなことを……いい加減にしてくれ」
あと少しで結婚するのに、それを白紙に戻されでもしたら大変だ。
今までシリルを想って過ごしてきた日々が、抱きたくもない閨係を抱いて耐えてきたのが、水の泡だ。シリルは私がどれだけシリルと寄り添う日を夢見てきたか知らない。私との結婚を壊すと言うのなら、それがシリルであろうとも絶対に許さない。
そういう想いから、強く言い過ぎてしまった。シリルはその場に泣き崩れたので、私はどうしていいかわからなくなった。リアムがすかさずシリルを支えて公爵家に送り届けた。
いったいなにがどうしてこうなったのだ。
泣き止んだアシュリーに話を聞いた。
「シリル様は、たびたび学園で僕にちょっかいをかけてきて……、でも僕は耐えていたんですけど、最近は命の危険も感じて」
「ちょっと待て、なぜシリルがお前に?」
「わかりません。でもシリル様は僕と殿下の関係を許せないって言って、いつも一方的に罵られておりました」
シリルは閨のことをどこで知った? いや閨とは言っていない、関係と言った。
関係とは……もしやあのお茶会の日のことか? アシュリーがなぜか王宮の庭園に乱入してきたので、私は慌ててアシュリーを確保した。自分と体の関係のあるオメガなど、シリルの目に触れさせたくなかったからだ。
まさかあの一度の機会で、シリルはアシュリーを調べ上げたのか? シリルの聡明さを私は見落としていたようだった。
「シリルに知られてしまった以上、関係は続けられない。だからこの仕事は今日で終わりとする。今までよく耐えてきた」
「え? なんで? だってまだ結婚まで日はあるのに」
最近のアシュリーは正直面倒臭かった。こういった理由なら、後宮も閨担当を外すとこを許してくれるだろう。もうシリル以外を抱くなど、限界だった。
「閨担当のことは、本来婚約者には、いや、誰にも知られてはいけないことだ」
「うっ、ひっく、ひどい、僕は殿下との時間が楽しくて、今までシリル様の虐めに耐えたのにっ」
「とにかく今までよく仕えてくれた。何か希望があるなら最大限考慮しよう。希望の褒美を後宮に伝えるといい」
アシュリーのことは騎士に任せた。今後の嫁ぎ先の検討を、後宮に進めてもらおう。
そうしてアシュリーとの接点を失った。閨を担当した褒美として上位爵位との結婚を得られる。その打合せなどで後宮へはしばらく通っていると聞くが私と会うことはなかった。
シリルは、父親のゼバン公爵から謹慎を言い渡され、結婚の日まで自宅待機となってしまった。少なからずあの日の出来事を見た人物がいたので、これ以上変な噂を広げないため、シリルを守るためにも、今はゼバン公爵の言う通りにするしかなかった。
公爵家へ行くも、面会は許されなかったので、結婚式の日まで我慢することとした。それがすべての間違だったと、のちに思うも遅かった。
だが、ここ最近のシリルは何かがおかしい。月に一度の逢瀬では精一杯の可愛い笑顔を見せてくれるが、ふと学園で見かけるとシリルの顔色は陰っていた。
そんな日が続いたある日、リアムから呼び出される。
「殿下、大変です。アシュリーとシリル様が言い争っているとリーグから報告が!」
「え? なんだって、なぜアシュリーとシリルに接点がある?」
急いで学園の中庭に行くと、そこでシリルが見たことも無いような狂気の顔をして、アシュリーに掴みかかっていた。手にはナイフ? いったい何があったというのだ。
「シ、シリル! 何をしている」
シリルに声をかけると、私を見た彼は驚くも、すぐに悲しい表情になり泣き叫んだ。
「どうして! 僕はこんなにも殿下を愛しているのに! なぜその男を選ぶの。アシュリーなんて、殺してやる」
なんだって? いったい何を言っている? その男を選ぶとは、いったい……
アシュリーは護衛の手を離し、私に縋ってきた。
「いやっ! 助けて、シリル様に……」
シリルがアシュリーを刺そうとしていた?
リアムが私からアシュリーを引き離し、泣き崩れる彼を監視につけていたリーグに渡していた。そして、シリルはリアムに支えられた。
「シ、シリル……」
「どうして、どうして? 僕がいるのに、どうして殿下は! もう嫌だ、アシュリーを殺す。僕が彼を殺せば殿下はまた僕のことを想ってくれるでしょ?」
シリルの口から、そんな言葉を聞く日が来るとは思わなかった。
シリルが誰かに殺意を抱くなど、王太子妃になろうものが民を私怨で……それではいけない。学園という公共の場で、そんな言葉を使っては貴族に誤解されかねない。
私の想っている相手は昔からシリルだけだ。それを知らないはずがないのに、どうして……
シリルのこんな姿を誰かに見られでもしたら、王太子妃としての資格をはく奪されかねない。
幸いここにいるのは少数の人間だ。あとで口止めをすれば何とかなるかもしれないが、人の噂を止めることは不可能だ。とにかくこの場を収めなければ。
「シリル、なぜおまえはそのようなことを……いい加減にしてくれ」
あと少しで結婚するのに、それを白紙に戻されでもしたら大変だ。
今までシリルを想って過ごしてきた日々が、抱きたくもない閨係を抱いて耐えてきたのが、水の泡だ。シリルは私がどれだけシリルと寄り添う日を夢見てきたか知らない。私との結婚を壊すと言うのなら、それがシリルであろうとも絶対に許さない。
そういう想いから、強く言い過ぎてしまった。シリルはその場に泣き崩れたので、私はどうしていいかわからなくなった。リアムがすかさずシリルを支えて公爵家に送り届けた。
いったいなにがどうしてこうなったのだ。
泣き止んだアシュリーに話を聞いた。
「シリル様は、たびたび学園で僕にちょっかいをかけてきて……、でも僕は耐えていたんですけど、最近は命の危険も感じて」
「ちょっと待て、なぜシリルがお前に?」
「わかりません。でもシリル様は僕と殿下の関係を許せないって言って、いつも一方的に罵られておりました」
シリルは閨のことをどこで知った? いや閨とは言っていない、関係と言った。
関係とは……もしやあのお茶会の日のことか? アシュリーがなぜか王宮の庭園に乱入してきたので、私は慌ててアシュリーを確保した。自分と体の関係のあるオメガなど、シリルの目に触れさせたくなかったからだ。
まさかあの一度の機会で、シリルはアシュリーを調べ上げたのか? シリルの聡明さを私は見落としていたようだった。
「シリルに知られてしまった以上、関係は続けられない。だからこの仕事は今日で終わりとする。今までよく耐えてきた」
「え? なんで? だってまだ結婚まで日はあるのに」
最近のアシュリーは正直面倒臭かった。こういった理由なら、後宮も閨担当を外すとこを許してくれるだろう。もうシリル以外を抱くなど、限界だった。
「閨担当のことは、本来婚約者には、いや、誰にも知られてはいけないことだ」
「うっ、ひっく、ひどい、僕は殿下との時間が楽しくて、今までシリル様の虐めに耐えたのにっ」
「とにかく今までよく仕えてくれた。何か希望があるなら最大限考慮しよう。希望の褒美を後宮に伝えるといい」
アシュリーのことは騎士に任せた。今後の嫁ぎ先の検討を、後宮に進めてもらおう。
そうしてアシュリーとの接点を失った。閨を担当した褒美として上位爵位との結婚を得られる。その打合せなどで後宮へはしばらく通っていると聞くが私と会うことはなかった。
シリルは、父親のゼバン公爵から謹慎を言い渡され、結婚の日まで自宅待機となってしまった。少なからずあの日の出来事を見た人物がいたので、これ以上変な噂を広げないため、シリルを守るためにも、今はゼバン公爵の言う通りにするしかなかった。
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