回帰したシリルの見る夢は

riiko

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外伝 儚く散った公爵令息

7 アシュリー 1

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 僕は、ぎりぎり貴族と言えるようなミラー男爵家の長男として生まれた。
 僕の母は、とても可憐で病弱な人。母は僕が幼い時にこの世を去った。それまでは本当に幸せだった。優しくていい香りのする母と、頼りがいのある父。
 だけど母というつがいを失った父は、だんだんと何かが変わってしまった。
 酒と女に溺れ、家が回らなくなった。幼い頃から貧しい生活の中でなんとか生きてきたが、僕が十三歳の時にいきなり子供を抱えた女が家に来た。その子供は父の息子だと言った。父もそれを知っていたようだった。その女は僕の弟という赤ちゃんを置いていった。
 父は赤子に見向きもしないが、何も言わなかったので家に置くことに反対ではなかったようだ。僕は一生懸命その子を育てた。異母兄弟ではあったが、半分血の繋がった弟はとても愛らしく、僕の忘れていた愛情を一気に思い出させてくれた。
 貧しいながらも最低限の生活ができたことは父に感謝する。そして僕は、母と過ごした頃の愛情を思い出し弟と育てた。
 とても幸せだった。ただ弟が健やかに育ってくれればいいと思っていた。それだけだったのに、ある日、家にとても綺麗な人が来た。そこから僕の人生はすべてが変わってしまった。
 父と女性の声が聞こえてくる。

「そうなんですよ、アシュリー様が今回、その大役に選ばれるかもしれません」
「それは! あの子は亡くなった妻に似て見た目だけは優れている。きっと気に入ってくださいます」
「ええ、ですから今選定されているオメガの二人をどうしても処分する必要があります」
「二人も……ですか? 選ばれるのは二人までなら、始末するのは一人でいいはず」

 始末……なんの話だろう、とても悪いことを言っているような気がした。

「おにぃちゃん? どしたの?」
「ん、なんでもないよ。お客様が来ているみたいだからお外でおにいちゃんと遊ぼうね?」

 その時の僕は十七歳。もしかしたら、父親に売られる話でもつけられていたのかもしれない。僕の見た目を相手が気に入る、そういう話が聞こえた。
 弟は今四歳だ。僕がこの家を離れるのは避けたいけれど、我が家で金を生み出せるのが僕の体で済むなら、弟を養っていけるのなら、仕方ないと諦めている。
 僕はオメガらしい容姿に育ち、他の人よりも見た目が優れていた。父親がアレだし、オメガの性として仕事をするのも仕方ないと思っていた。とにかく弟が成人になるまで養わなければ、そう思っていたけれど、まさか僕の仕事が人の命を失ってまで手に入れたことだとは、すべてが終わる時まで何も知らなかった。
 僕は何も知らずに、ただ初めての恋にのめりこんでしまった。
 愛情を与えられることに飢えていた。だから初めて優しくされて、僕は舞い上がったんだ。
 見合った生き方をしていれば、多くを望まなければ、こんな不幸な未来を知ることなかった。仕事を最後までこなし、弟のもとに帰ってこられたら……そうしたら、僕はまたこの愛おしいこの子を胸に抱ける。それだけだったのに。
 僕がすべてを壊してしまったんだ。
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