恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした

水瀬かずか

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23 それを、身勝手って言うのよ

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 一度クリスに想いを伝えたライオネルは、尻込みするクリスを気にすることなく、それまでと変わらず、、、、、、、、、想いを伝え続けた。
 思えば、気付かなかったクリスが鈍感なのだ。
 ライオネルはずっと言っていたのだ。「私は君が好きだ」「好ましく思う」「クリスはかわいいな」「綺麗だ」「君にずっと一緒にいて欲しい」と。
 そこに「愛している」が加わったといえば、少し変わったと言えないこともない。

 クリスの仕事ぶりを褒め、いてくれてよかったというライオネルの隣は、照れくさくも居心地が良い。
 答えさえ求められなければ、クリスも恐怖を感じずにすむ。ただ、申し訳なさはやはり感じる。けれど、そういうときのライオネルの勘の良さはすさまじく、「いつか受け入れても良いと思ったらそう言ってくれ」と、先延ばしにするのだ。
 それに甘えたまま、毎日が過ぎてゆく。

 ついつい悩みすぎて相談した老夫婦からは、「あなたが応えたい時に応えれば良いし、好きでないのなら、応える必要はないわ」と、コロコロと笑われた。
 そんなに簡単で良いのかとクリスは驚いたが、「恋愛って、そんな物でしょう?」と楽しげだ。

「ただね、クリス。これだけはライオネルさんの友人として言わせてもらうわ。「ライオネルさんのため」を、あなたが勝手に決めては駄目よ。それだけは心に留めておいて欲しいわ」
「そんなこと、決めるわけないです!」
「そうかしら。だってあなた、自分なんかじゃライオネル様の恋人なんて、迷惑になる……とか言いそうじゃない」

 老婦人の言葉にクリスは言葉を詰まらせた。

「だって、それは、僕じゃ釣り合わないし……」
「ほら、勝手に決めてる」

 くすりと笑った老婦人に、釈然としないままクリスは口を噤んだ。

「それはライオネルさんのためじゃなくて、あなた自身が自分に自信がなくて、逃げてるだけよ。ライオネルさんが幸せかどうかを、全く考えてないじゃない。……それを、身勝手って言うのよ」
「身勝手、ですか……?」

「ええ。身勝手よ。でもね、身勝手でも良いの。怖かったら逃げても良いの。不釣り合いと感じる場所に立つのは、とても恐ろしいことよ。逃げるのは悪いことではないわ。でも、それは、ライオネルさんのためではないということに、気付いて欲しいの」
「ライオネル様のためじゃ、ない……」

「ええ。逃げるのなら、あなた自身のために逃げなさい。ライオネル様のため、なんて言われたら、ライオネルさんが、かわいそうよ」
「かわい、そう……?」
「ライオネルさんのためを理由にするのなら、ライオネルさんがどう感じるかを考えるべきでしょう?」

 ライオネル様が、どう感じるか。僕が、釣り合わないからって、恋人になれませんって言ったら、ライオネル様は……。

「あなたの考える「ライオネル様のため」が、本当にライオネルさんのためなのか、自分のためなのか、一度、よく考えてみてね」

 自分のことになると、どうしても上手く考えられず、なかなか答えは出せない。
 ただ、老婦人の言葉は、クリスの中に強く残った。
 老夫婦の言葉は、ほんの少しクリスには難しい。けれど、少しずつ少しずつ、その言葉を考え続けた。


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