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24 さびしくは、ないですか?
しおりを挟むクリスの躊躇いが燻る中でも、関係は少しずつ変わってゆく。
互いのことをよく知りたいからと、それまで話したことのないこともライオネルはあえて深く突っ込んでするようになったことも、変わったことの一つだ。
ライオネルは平民の出だ。と言っても父親も騎士で、母親は知識階級、家には住み込みで働く者や通いの者が数人いた程度には、裕福な家庭で育った。それでも平民は平民で、いわゆる上流階級には届かない程度である。
現在所属している騎士隊も、平民が大半を占める部隊の所属で、騎士達の中でも、規律はさして厳しくもなく比較的自由がきく。その分、実力主義でもあった。
名誉とかは今ひとつだがな、と笑うライオネルに、平民からすると騎士隊に所属しているだけで十分すぎるほどエリートだ、とクリスは首を横に振った。
クリスから見たライオネルは、やはりすごい人だ。しかも小隊長だ。しかし昇進はしばらくできそうにないがなと笑う彼に、これ以上すごかったら気後れしてしまいそうだ、とクリスは本音をこぼしたほどだ。
「これ以上の昇進はゆっくりにする」
ライオネルの真顔は、本気だった。
クリスは、何となく、言ったらいけないことを言った気がした。
ライオネルの家族は、この町から数日かけていかないといけない王都で暮らしている。街からろくに出ることのないクリスには、まるで別世界だ。といっても、年に一、二回程度手紙をやりとりするだけで、もう十年ほど顔を見てないらしい。
クリスが自分を恋人にしたいだなんて知られると嫌がられるのではと心配したが「あの親はそこまで私に興味はないな」とライオネルが断言した。
「私が不幸なら手を貸してくれると思うが、幸せなら喜びはするだろうが気にしないんじゃないか?」
こんなに優しいライオネル様のご両親が、そんなにさっぱりしているんだろうか……?
「私の両親は、なんというか……非常に仲がよくてだな……」
歯切れの悪い困った様子で、ライオネル様は言葉を選ぶ。
「自分たちが幸せであればいいとでも言うか……いや、恐らく子煩悩な人たちだったと思うんだが……ただ、成人した子供にあまり興味がないというか……とにかく、そこまで子供に関わってくる人たちではないんだ」
クリスはふと、子供の頃に自分を無視して、家族で仲良く笑い合っていた叔父家族を思い出した。
クリスの胸を襲うのは、なんとも言えない寂しさだ。
「さびしくは、ないですか?」
「むしろちょうどいい。目の前で恥じらいもなくイチャイチャされる子供の気持ちは、筆舌に尽くしがたい」
う、うん?
げんなりとして言うライオネルの言葉の意味は、クリスにはよくわからなかったが、本気でかまわないと思っているということだけは伝わってくる。
「大丈夫。私の両親はクリスのことを好きになるだろう。もし、そうじゃなくても、君を傷つけるような人たちではないと信じている。もし傷つけるようだとしても、どうせ普段から会うことはないんだ。気にする必要もないし、縁を切ればいいだけだ。元々会ってもいないし別段問題はない」
「ええ?!」
あまりにも軽々しく言うライオネルに、クリスが動揺してしまう。そんなことを言わないで欲しいと焦るクリスに、ライオネルが楽しげに笑うと、なんでもないように付け加えた。
「私の信頼を損なうんだから仕方がない。でも決してそうはならないと思っている、ということだ」
それで、ようやく本気で大丈夫だと思っているのだとわかる。
ご両親は、僕のこと、なにも知らないのに……。
けれど、ライオネルはクリスを知っている。ライオネルは、両親から信頼されている自信があるのだ。
そっか。きっと、素敵な人たちなんだろうな。ライオネル様が、こんなに優しい人なんだから。信頼してる人なんだから。
ライオネルは自分の事を話しては、クリスの事も尋ねてきた。話そうと思うと不安が押し寄せてくる。
クリスの中にあるのは、胸が苦しくなる記憶ばかりだ。
ずっと自分が迷惑をかけた結果で当たり前だと思っていたが、今になって思えば、悲しい出来事だったとわかる。
綺麗なライオネルの過去に比べて、自分の過去は人から見下されてばかりで、恥ずかしく感じる。話したくない気持ちもあった。けれど、ライオネルに問われると、黙っていることもできず、躊躇いながら、話した。
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