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8話 幻
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覆い被さる悠に頭が真っ白になった。
呼吸を忘れて、何も言葉が出てこない。
「かわいい」
ふっと悠が笑う。頬に手が触れた瞬間、ビクッと大げさに体が飛び跳ねた。
ーー怖い。
咄嗟に身体を起こそうとするが、すぐにベッドに押さえつけられて元の位置に戻されてしまう。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……!)
パニックになって駄々をこねる子どものように必死で身を捩る。
けれど悠は黙り込んだまま真っ直ぐ私の目を見て、簡単に押さえつけてくる。
「大人しくしてね」
悠の手が私のブラウスに伸びた。
そのままプチッと片手で第二ボタンを外されてしまい、ゆっくりとその指先が下がっていく。
「やめて……お願いだから……」
自分でも驚くほど声が震えていた。目尻に涙が浮かんで、ふるふると左右に首を振る。
本当は怒鳴りつけてやりたかった。けれど声がでない。頭のどこかで逆らうなと警鐘が鳴る。
「やめてほしい……?」
穏やかな口調だった。ニヤリと微笑を浮かべて、焦らすように悠の手が頬を撫でる。
(もし、このまま続けられたら……)
想像するだけで身の毛がよだつ。いつの間にか堪えていた涙がボロボロと頬を伝って、ぎゅっと唇を噛みしめた。
縋る思いで何度も頷くと、その手がさらりと髪を梳かした。
――助けてもらえる。
そう思った時だった。
「でも、ダメ」
ぎゅうっと力強く抱きしめられて、額にキスを落とす。額、頬、鼻先ーー触れる唇の感触に身体が強ばる。唇には触れてこない。何が起こるか分からない恐怖に、ただじっと耐えることしかできなかった。
(助けて……!)
声にならない叫びが、涙の粒になって消えていく。
この男のせいで昨日から泣いてばかりだ。
悔しい。こんな屈辱を受けてもなお、どこかでこれは全部幻なんじゃないかって思い込もうとしている自分がいる。
昔の悠は、もうどこにもいない。
いないと分かっているのに、心のどこかで信じてしまっているのだ。それが悔しくてたまらない。
(いっそ嫌いになれたら)
――それができるなら、どれだけ楽か。
悠と目が合う。相変わらず澄ました表情で、悠は私を見下ろす。
昔と何も変わらない笑顔を浮かべて、そっと唇が近づいてきた。
「いい子だから、ね……?」
呼吸を忘れて、何も言葉が出てこない。
「かわいい」
ふっと悠が笑う。頬に手が触れた瞬間、ビクッと大げさに体が飛び跳ねた。
ーー怖い。
咄嗟に身体を起こそうとするが、すぐにベッドに押さえつけられて元の位置に戻されてしまう。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……!)
パニックになって駄々をこねる子どものように必死で身を捩る。
けれど悠は黙り込んだまま真っ直ぐ私の目を見て、簡単に押さえつけてくる。
「大人しくしてね」
悠の手が私のブラウスに伸びた。
そのままプチッと片手で第二ボタンを外されてしまい、ゆっくりとその指先が下がっていく。
「やめて……お願いだから……」
自分でも驚くほど声が震えていた。目尻に涙が浮かんで、ふるふると左右に首を振る。
本当は怒鳴りつけてやりたかった。けれど声がでない。頭のどこかで逆らうなと警鐘が鳴る。
「やめてほしい……?」
穏やかな口調だった。ニヤリと微笑を浮かべて、焦らすように悠の手が頬を撫でる。
(もし、このまま続けられたら……)
想像するだけで身の毛がよだつ。いつの間にか堪えていた涙がボロボロと頬を伝って、ぎゅっと唇を噛みしめた。
縋る思いで何度も頷くと、その手がさらりと髪を梳かした。
――助けてもらえる。
そう思った時だった。
「でも、ダメ」
ぎゅうっと力強く抱きしめられて、額にキスを落とす。額、頬、鼻先ーー触れる唇の感触に身体が強ばる。唇には触れてこない。何が起こるか分からない恐怖に、ただじっと耐えることしかできなかった。
(助けて……!)
声にならない叫びが、涙の粒になって消えていく。
この男のせいで昨日から泣いてばかりだ。
悔しい。こんな屈辱を受けてもなお、どこかでこれは全部幻なんじゃないかって思い込もうとしている自分がいる。
昔の悠は、もうどこにもいない。
いないと分かっているのに、心のどこかで信じてしまっているのだ。それが悔しくてたまらない。
(いっそ嫌いになれたら)
――それができるなら、どれだけ楽か。
悠と目が合う。相変わらず澄ました表情で、悠は私を見下ろす。
昔と何も変わらない笑顔を浮かべて、そっと唇が近づいてきた。
「いい子だから、ね……?」
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