異国妃の宮廷漂流記

花雨宮琵

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第3章:漂流の寄港地ー学園編

第55話:瑠璃色のまどろみ

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 そのうち、馬車は途中休憩する小さな町に入った。
 殿下が小さな焼き菓子を買ってきてくれて、甘い匂いが馬車の中を満たす。
 懐かしいな。
 昔、祖父母に連れられてあちこち旅した記憶が蘇る。

「あと1時間で到着だぞ」
 殿下が、お祖父様と同じ言葉を言った。
 殿下の沈黙は、なぜか私に安心を与えてくれる。

 コト……コト……。
 馬車の揺れに身を任せていたら、だんだん瞼が重くなってきてーーいつの間にか眠っていた。

 昔の夢を見ていた。
 あの青年の声が懐かしく響いた。

 
 コト……コト……トンッ。
 車輪がわずかに跳ねた瞬間――あの青年の瞳が蘇った。
 濃い夜空に煌めく星々のような、静けさを秘めた瞳。

 コト……コト……。
 ――ヘレナ、もうすぐ到着するぞ。
 ――よく頑張ったな。
 ――家族が待ってるぞ、ヘレナ。

 あぁ、懐かしいな。
 あの青年が、私をお祖母様のいる場所まで戻してくれた。

「――ナ。ヘレナ? もうすぐ到着するぞ」

 夢かうつつか分からないまま、2つの声が重なった。
 うっすら瞼を押し上げると。
 そこには――あの夜、私を包み込んでくれたのと同じ瑠璃色が広がっていた。

「でん、か……?」
「よく寝てたな。――ん? どうした?」
「いえ。なんでも、ないです……」
 胸がざわめいた。
 夢の中の声と、目の前の声が重なっている。

 うそ。まさか――。
 そんなわけ、ないよね……。

 もし、あの青年が殿下だったら――いやだ。
 そんなの、いや。
 あの人が殿下だったら、私の”未来”までがなくなってしまう。
 だって――殿下には想う人クリステルがいて、私は一年後には離縁する妻で。

 あの夜の青年だけが、私の希望だった。
 離縁したら探しに行こう。
 そう思うだけで、何とか“今”を踏ん張れた。

 でも、もしあの青年が殿下だったら――私はどこに、行けばいいんだろう。
 いや……考えちゃダメ。
 だから私は、瑠璃色の瞳を振り払うように、ぎゅっと瞳を閉じた。
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