美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

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チーズとかぼちゃのタルト蜂蜜掛け

チーズとかぼちゃのタルト蜂蜜掛け

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 エドが研ぎ終えた石をもってテーブルに着き、木の柄に紐を使って巻き付けている時、向かい側にエクトルが座ってきた。エドはまるでエクトルなど存在しないかのように、作業を続行していた。

「無視か」

 エクトルは言うが、エドはそれでも黙ったまま紐を柄に巻き付けていた。

「毎夜……アリシャの元で寝ているらしいではないか。子が生まれたら金を払ってやろう」

 エドはやっと顔を上げてエクトルを睨みつける。

「祝い金なら受け取ろう。報酬だというなら暖炉に投げ入れるまでだ」

「金貨でもか」

「わかってねぇな。いくら積まれても変わんねぇよ」

 ふんっと不満を表すと「金で解決できないなら実力行使するまでだ」と、煽っていく。

「アリシャは防御カライズの主だぞ、簡単にいくわけないだろ」

 長い黒髪を背中の方へと払って、エクトルはテーブルに肩肘を乗せ頬杖を突いた。

「ある意味防御カライズの力は最強だな。攻撃フォドゾの力も、回復クリシュナの力も寄せ付けぬのだから」

 エドは大きなため息をつくと、ダンと音を立てて作っていたナイフをテーブルに叩きつけた。

「俺に話掛けるんじゃねぇよ」

「独り言だが?」

「嘘つけ」

「私がお前に話したいわけがなかろう?」

 エドは白目をむいて「そうかよ。声量がありすぎてビビるわ」と吐き捨てる。

 そっと近づいてきたイザクのこともエドは睨んで「あんたんところの暴君を何とかしろよ。声がでかすぎてうるせーんだよ」とこちらにも文句をつけた。イザクはエクトルの横に立ち、肩をあげた。

「私の言う事には一切耳を貸しませんので」

 そんなこともなかろうと笑みを浮かべるエクトルにイザクは目を閉じ、疲れたように首を横に振っていた。

「イザクが進言したように私はアリシャ以外の女と子を作ることにしたのに」

「またそのようなエドワード様のご機嫌を損なうようなこ──」

もやめろって」

 エドに鋭く注意されてイザクは口を閉じて頷いた。その様子を見てエクトルはイザクに笑みを投げた。

「庇ったつもりが怒られて、可哀想な奴だ」

「ええ、私はいつだって可哀想な奴で結構です」

 不貞腐れたような物言いをしたイザクにエクトルが笑いながら自分の隣の椅子を見て座れと命じた。命じられたらイザクは座らざるを得ない。それを見たエドが立ち上がろうと腰を上げかけると、エクトルは座っていればいいではないかとこちらも腰を掛けたままでいるように促した。

「さっきまでは独り言だったが、ちょっと情報交換しようではないか」

 エクトルの言葉に「申し訳ないが、ストルカ国の持つ知識をわかる範囲で聞かせて貰えないでしょうか」と、イザクが頭を下げるので、エドは上げかけた腰を下ろした。

「俺に聞くよりレオに聞けばいいじゃねぇか」

 文句をつけるのを忘れないエドにイザクは「あの方からも聞いてはいますが、出来るだけ多くの事を知りたいのです」と如才なく答えた。

「我らの持つ力はわからぬことも多い。特に防御カライズはどこに潜んでいたのか知らんが、これまで姿も現さなかったから情報は皆無だ」

 エクトルの言いたいことはわかるが、エドだって防御カライズの事は何もわからない。

「アリシャは転生だぞ。暴発したときに居たが、攻撃ファドゾかと思ったくらい凄まじい力だった」

「始祖の力に戻るというからな。逆にいえば我々の力はかなり減少しているはずだ。特に回復クリシュナは先代の王も早くに亡くなっているのだから力の残量は減っているだろう」

 先代とはエドの父親に当たる人物だ。イザクは何の躊躇いもなく話すエクトルに小さく咳ばらいをした。それからエドの顔色を窺っていたが、エドは唇をなぞって考え事をしていて気分を害している感じではなかった。

「思うんだけど、子供に移行するのは事実だし、移行しきる前に親が死ねば力は損なうんだろうけど──その人物の元々持っている能力ってのも関係してるんじゃねぇか? イライザは小さい頃から相当な力を持っていたし」

 なるほどとイザクが感心し、自分の中で整理するように述べていく。

「始祖の力はたぶん途轍もなく大きかったが、始祖の体はそれに耐えた。だが、普通だったら耐えられないと考えて力を分けたという話ですからね。人によって魔力量が変わるという事は十分ありうる話だ」

 エクトルはそこまで黙って聞いていたが、それが防御カライズの力とどう繋がるのだと二人に問う。答えたのはエドだった。

「仮定だけど防御カライズの力を与えられた家系が、あまり力を発揮できなかったら宿主であることを他者に伝えるより黙っているんじゃねぇのか? 狙われるだけ損だしな。だから黙っていた可能性もある」

 言い終えてから宙を見つめて、こういう説もあるなと続ける。

「受け継いだものの体が耐えきれなくて消滅。転生した後も耐えきれなかったり、そもそも宿主の力が微弱で思うように発揮できず気がつかれなかったとか」

「まあ、可能性としてはあるな。そうするとアリシャがたまたま魔力の素質がある転移型なのかもしれんが……」

 エクトルがそこまで言うと小さく唸って「なんにせよ防御カライズの力も存在していたのは事実だったということだな。宿主しだいで攻撃ファドゾ並みになるのか」と、腕を組んだ。

防御カライズがどこでどうやって継がれて来たのかを考えるのは無駄なのかもしれませんね」

 イザクの言ったことが全てだとエドは思った。結局防御カライズのことは結論が出そうもない。
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