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16歳、やり直し
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「あれ?今日は寄らないのか?」
ダレルは、ルーデル公爵邸前を馬に乗ったまま素通りする主人に声をかけた。
この2ヶ月、毎日律儀に花を買い妻に贈っていたオレリアンが、今日は花屋にも寄らないし、公爵邸も素通りしている。
だが、職場から真っ直ぐ帰るつもりなら公爵邸前を通るのは遠回りだ。
花屋の前でも逡巡していた主人を目にしていたし、ダレルはわざと明るい調子で声をかけた。
しかし主人はダレルの声が聞こえているのか聞こえていないのか、振り返りもしないし歩みも止めない。
ダレルはそっとため息をつくと、あとは黙って主人の後について行った。
「あら?昨日と同じお花なのね」
コンスタンスは窓辺の一輪挿しに目を留めた。
彼女が覚えている限り、そこにある花が翌日も同じだったことはない。
だが今そこに挿してあるのは、昨日と同じ赤いバラだった。
「今日は、昨日と同じお花を贈ってくださったのかしら」
そう言うと、コンスタンスはそっとその花びらに触れた。
でも、すぐに気がついた。
この花は、昨日贈られた花だと。
「その…、今日はいらっしゃらなかったようです」
気まずそうにリアに告げられ、コンスタンスは「そうなの」と一言呟いた。
しかし次の日も、その次の日も、花は変わらなかった。
毎日水切りをして水を替えていたが、5日もすると花はだんだん萎れてきてしまった。
コンスタンスが自ら水を替えようと茎を持って持ち上げると、花びらが一枚落ちた。
そして翌日も一枚、また一枚と落ち、花が届かなくなって1週間過ぎる頃には、バラはとうとう枯れてしまった。
その間オレリアンは全くルーデル公爵家に姿を見せない。
彼はもう、来ないつもりなのかもしれない。
「私がいつまでもお会いしなかったから…、侯爵様もとうとう私をお見限りになったのでしょう」
そう呟く主人に、リアは少しだけ怒ったようにキッパリと言った。
「侯爵様はそんな方ではありません」
「…リア?」
リアは、コンスタンスがオレリアンの話題で頭痛を訴えてから、名前を口にするのは控えてきた。
だが、誤解されたままではあまりにも彼が可哀想だ。
「侯爵様は…、ご自分の話題でお嬢様が頭痛を起こされたと知り、こちらに来るのは控えるようになったのです」
「…そうなの…」
コンスタンスは最後に落ちた花びらを指で拾い上げた。
オレリアンはコンスタンスが頭痛を訴えたせいで、姿を見せなくなっていたのだ。
それまでの2ヶ月間、彼は毎日花を贈ってくれていた。
それなのにコンスタンスはそんな夫に会おうともしなかった。
もちろん、いずれ会わなければいけないとは思っていたが、躊躇していたのだ。
今の、まだフィリップを慕っている自分が夫の存在を受け入れるのは、無理だろうと思われたから。
だったら早く彼を解放してあげなければならないとは思うのにそれさえ放置していたのは、結局今の状況に甘えていたのだろう。
目覚めた日のことを思い出す。
あの日目覚めたコンスタンスの目に、一番はじめに飛び込んできたのはオレリアンの顔だった。
「コニー」と、心配そうな、泣きそうな顔で自分の名を呼んでいた。
それなのに自分は、「触れるな」「名前を呼ぶな」と言ったのだ。
思えば、いくら記憶がなかったからと言って、なんて酷い態度をとっていたのだろうか。
そしてその後も毎日通い続ける夫に会うこともなく放置した。
「私は、なんて酷いことを…」
コンスタンスは自分がどんなに酷いことをしていたのかようやく思い至った。
愕然とする主人を元気付けるかのように、リアが告げた。
「侯爵様はこちらには寄られませんが…、毎日、この前は通られるようです…」
「…どういうこと?」
花を贈ることはなくなったが、それでもオレリアンは毎日仕事帰りに公爵邸前を通るー。
それは、公爵家の門番が目撃し、報告していることである。
「そう…」
その夜いつものように公爵家の前を通りがかったオレリアンは、門番に声をかけられた。
「お嬢様がお会いしたいと言っております」
と。
ダレルは、ルーデル公爵邸前を馬に乗ったまま素通りする主人に声をかけた。
この2ヶ月、毎日律儀に花を買い妻に贈っていたオレリアンが、今日は花屋にも寄らないし、公爵邸も素通りしている。
だが、職場から真っ直ぐ帰るつもりなら公爵邸前を通るのは遠回りだ。
花屋の前でも逡巡していた主人を目にしていたし、ダレルはわざと明るい調子で声をかけた。
しかし主人はダレルの声が聞こえているのか聞こえていないのか、振り返りもしないし歩みも止めない。
ダレルはそっとため息をつくと、あとは黙って主人の後について行った。
「あら?昨日と同じお花なのね」
コンスタンスは窓辺の一輪挿しに目を留めた。
彼女が覚えている限り、そこにある花が翌日も同じだったことはない。
だが今そこに挿してあるのは、昨日と同じ赤いバラだった。
「今日は、昨日と同じお花を贈ってくださったのかしら」
そう言うと、コンスタンスはそっとその花びらに触れた。
でも、すぐに気がついた。
この花は、昨日贈られた花だと。
「その…、今日はいらっしゃらなかったようです」
気まずそうにリアに告げられ、コンスタンスは「そうなの」と一言呟いた。
しかし次の日も、その次の日も、花は変わらなかった。
毎日水切りをして水を替えていたが、5日もすると花はだんだん萎れてきてしまった。
コンスタンスが自ら水を替えようと茎を持って持ち上げると、花びらが一枚落ちた。
そして翌日も一枚、また一枚と落ち、花が届かなくなって1週間過ぎる頃には、バラはとうとう枯れてしまった。
その間オレリアンは全くルーデル公爵家に姿を見せない。
彼はもう、来ないつもりなのかもしれない。
「私がいつまでもお会いしなかったから…、侯爵様もとうとう私をお見限りになったのでしょう」
そう呟く主人に、リアは少しだけ怒ったようにキッパリと言った。
「侯爵様はそんな方ではありません」
「…リア?」
リアは、コンスタンスがオレリアンの話題で頭痛を訴えてから、名前を口にするのは控えてきた。
だが、誤解されたままではあまりにも彼が可哀想だ。
「侯爵様は…、ご自分の話題でお嬢様が頭痛を起こされたと知り、こちらに来るのは控えるようになったのです」
「…そうなの…」
コンスタンスは最後に落ちた花びらを指で拾い上げた。
オレリアンはコンスタンスが頭痛を訴えたせいで、姿を見せなくなっていたのだ。
それまでの2ヶ月間、彼は毎日花を贈ってくれていた。
それなのにコンスタンスはそんな夫に会おうともしなかった。
もちろん、いずれ会わなければいけないとは思っていたが、躊躇していたのだ。
今の、まだフィリップを慕っている自分が夫の存在を受け入れるのは、無理だろうと思われたから。
だったら早く彼を解放してあげなければならないとは思うのにそれさえ放置していたのは、結局今の状況に甘えていたのだろう。
目覚めた日のことを思い出す。
あの日目覚めたコンスタンスの目に、一番はじめに飛び込んできたのはオレリアンの顔だった。
「コニー」と、心配そうな、泣きそうな顔で自分の名を呼んでいた。
それなのに自分は、「触れるな」「名前を呼ぶな」と言ったのだ。
思えば、いくら記憶がなかったからと言って、なんて酷い態度をとっていたのだろうか。
そしてその後も毎日通い続ける夫に会うこともなく放置した。
「私は、なんて酷いことを…」
コンスタンスは自分がどんなに酷いことをしていたのかようやく思い至った。
愕然とする主人を元気付けるかのように、リアが告げた。
「侯爵様はこちらには寄られませんが…、毎日、この前は通られるようです…」
「…どういうこと?」
花を贈ることはなくなったが、それでもオレリアンは毎日仕事帰りに公爵邸前を通るー。
それは、公爵家の門番が目撃し、報告していることである。
「そう…」
その夜いつものように公爵家の前を通りがかったオレリアンは、門番に声をかけられた。
「お嬢様がお会いしたいと言っております」
と。
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