朱色の雫

弦景 真朱(つるかげ しんしゅ)

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第二章 朱南国

寄せ集められた証人

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 あっという間に着いた朱南。稽古場へ行くと、ヴィオラの横に香卦良が立っていた。

「香卦良……!! 目が覚めたのね!」

 私の声がしたのが意外だと言わんばかりに、稽古場にいる面々がぎょっとした顔で私を見た。

「な、朱己! ……と、師走」

 稽古場の中が微妙な空気になる中、一人だけ楽しそうに笑顔で手を挙げるヴィオラと、対照的に顔をしかめる師走。

「あら、早かったじゃない師走! もっとかかるかと思ってたわ」

「貴様、覚えておけ。貸しだ」

「あら! そっちにとってもメリットあるでしょ? むしろこっちが貸しつけてあげてんのよ、感謝なさい! 返済はいつでもいいわよ?」

 完全に目の前で火花を散らしている二人に、朱南の面々が置いてけぼりを食らっている。この二人がこのまま加速して戦ったら、間違いなく国が滅ぶ。二人の間に割って入り、ヴィオラの方を向いた。

「待って、ヴィオラ。ありがとう、皆の修行をしてくれて。……ところで、師走、今回帰ってきた目的を教えてくれない?」

 振り返れば、相変わらず仏頂面の師走がいた。

「……今どこまで話した、香卦良」

「まだ何も。朱己と葉季以外からすれば、私は何者から始まるしな」

「……え、香卦良……師走と知り合いなの?」

 親しそうに話す二人……いや、ヴィオラを含め三人を見て、私もついていけなくなる。三人の顔を見るからに、けして初対面などではない。

「当たり前よお。師走は三百二十八歳、あたしは百三十歳。ナルスに何回来てると思ってんの」

「ナルス側のすべての黒幕は香卦良だからな。香卦良、朱己のセンナの封印も貴様だろう。小賢しい真似をする」

 当たり前だと言わんばかりに、彼らは香卦良と旧知の仲であることを明かしていく。既に情報過多だが、ここで取り残されるわけにはいかない。
 目を白黒させる私に背を向け、師走は香卦良へ言葉を続けた。

「……とはいえ、我は事実を知っているだけで、まだ朱南の味方をすると決めたわけではない、このまま封印しておくなら朱己が死ぬだけだ」

「……黒幕って、どういうこと? 私のセンナの封印、香卦良がしたの?」

 香卦良へ視線を移せば、諦めたように笑った。

「相変わらず気づくのが早いな、師走。寄生型のセンナで封印さえ隠したつもりだったが……ヴィオラ。お前だね、あの寄生型のセンナを解除したのは」

「当たり前でしょ? どんだけ価値あると思ってんのよ! 朱色の雫ミニオスティーラよ、本物の。なのに本人が何も知らないポンコツなんて、ちゃんちゃらおかしいでしょおが!」

「ぽ、ポンコツ……」

 呟いた私を一瞥し、香卦良へ視線を戻すとヴィオラは続けた。

「ま、解除できたのは寄生型の方だけで、本体の封印は解除出来なかったから、師走にお願いしたのよ」

「よく言う、共鳴の能力なら出来るだろうに、面倒だっただけだろう貴様は。我は無駄な浪費は好かぬ故、香卦良本人のところに来たまで」

 目の前でまだ火花が散り続けている。まるで妲音と高能のような犬猿の仲の二人を横目に、香卦良を見つめた。彼は、可笑しそうに小さく笑っていた。

「さすが、お前たちは昔から仲良しだな。……さて、懐かしんでいたいものだが、時間がない。早速話そう……と、その前に、来たようだ」

 扉の方へ香卦良が目を向けると、ちょうど良く開いた。そして、入ってきたのは。

「と、父様……! 母様も!」

「親父、なんでだよ!?」

 高能と声が被った。高能と顔を見合わせ、また父の方を見つめる。

「香卦良だけに背負わせるわけにもいかない。黒幕と言うなら、黒幕は沢山いる」

「香卦良、お久しぶりです。ヴィオラも、師走も」

 会釈する母を見るなり、勢いよく抱きつくヴィオラ。父の顔が僅かに引き攣ったのが見えた。

「あら! 法華じゃないの! 元気にしてた? そろそろうちに来ない~?」

「お断りします」

 相変わらず笑顔で断る母と、ヴィオラを引き剥がす父。父の横で、夏能殿は苦笑いしている。

「さて。積もる話はあるが、本題に戻す。私が知っていることは、全て話そう。勿論、お前たちも来てくれるな。ヴィオラ、師走」

「当たり前だ」

「そうね、あたしたちも昔から両足突っ込んでるようなもんだからね」

 二人の言葉に口角を上げて頷いた香卦良は、私達に向き直ると空間を作り上げた。

「詳細は、ここでは話せない。この空間へ来い」

 そして、全員で空間へと移動した。
 空間の中に入ると、そこは見たことのある場所だった。晴れ渡る空と、鮮やかな緑。

「ここは……!」

「ああ、紅蓮がいる」

 なんてことはない、と言うように香卦良は歩き始めた。動じない父を見るからに、どうやら知っていたようだ。

「紅蓮。話すときが来た」

「……思ったより、早いな。やはり復活したか」

 声とともに風を巻き起こして現れた紅蓮殿は、相変わらず恰幅のいい体で、綺麗な髭を生やしていた。

「ああ、玄冬げんとうと言うらしい」

「……やはり、ビライトに居たのか」

 なにやら二人で話を進めている。聞き返そうとしたところで、香卦良が椅子に腰掛けるように言ってきた。
 言われるがまま従い、全員が椅子へ腰掛ける。香卦良は父を見つめながら、眉をひそめた。

「すまない、壮透。白蓮とお前と約束したのに、もう隠し続けるのは無理だ」

 彼の言葉に父へ視線を移せば、父は視線を伏せたまま頷いていた。

「香卦良のせいではない。朱己、お前には話さねばならぬ時がくると思っていた。だが、できることなら知らぬまま、その生を終えることを願っていた」

「父様……」

 父が私の方へ視線を移してくる。父の言葉からは、父の葛藤が滲み出ていた。これから突き付けられる事実が、簡単なものではないことを醸している。唇を噛んで、目を瞑った。
 しばらくの沈黙のあと、意を決して再び父を見つめた。

「全て受け止めます。教えて下さい、私はどうしてセンナを封印されているのか、……朱色の雫ミニオスティーラとはなんなのか」

 父、そして香卦良や紅蓮様は一様に首肯くと、顔を見合わせた。決意を固めるように。

「私の姉ら……初代の長の話まで遡る。少し長くなるが、聞いてくれ」

 そして彼は、ゆっくりと言葉を紡いだ。

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