209 / 239
第三章 最終決戦
願い一つだけ
しおりを挟む千草はわしの顔色を見ながら、少し言いづらそうに口を開いた。
「さて、これからだが……お前は、朱色の雫に殺されそうになっている。どうする、漆黒の牙として力を目覚めさせることができれば、生き残れるが」
「いや、それは望まん」
「……そうか。惜しいな。会ったばかりだが、俺はお前が好きだ。亡くすには惜しい」
「かたじけない。千草」
朱己がわしを殺すならば、わしはそれを受け入れよう。なんせ、わしはすべての元凶である漆黒の牙のセンナを分け与えられている。
奴は朱己を利用することだけを狙っておるし、わしがいることで不利益な方向にしか進まぬ。
だが。
「一つ、お願いがあるのだが……良いか? 千草」
「ああ、俺にできることなら」
「ありがとう」
わしは千草に、一つだけお願いをした。これは、賭けだ。最後の。
朱己、けして諦めるなよ。わしも、お主の力になれると信じておる。
ーーー
「待ちなさい! 朱己!」
ヴィオラの声が聞こえた瞬間にはもう、私の刃は葉季を貫いていた。深く突き刺すと、刀を伝って彼の温かい血が私の手に触れる。腹部を突き刺したまま、刀を捻った。
「ぐっ……っ」
彼を愛しているからこそ、譲れないことがある。
葉季を漆黒の牙の支配から開放し、ヴィオラを助ける。
「ほう……朱己、容赦ないな」
「葉季には眠ってもらう、貴方の支配はさせない」
「確かにその傷では使い物にはならんな。だがいいのか? 放っておけば、死ぬぞ」
「葉季が死ぬ前に、貴方を倒す」
漆黒の牙と対峙しつつ、葉季の体を光琳へ預けた。
「光琳、葉季をお願い。下がってて」
「わかった。無理はしないでね、朱己。」
彼の光属性は、私よりも強い。だが、彼のセンナは崩壊する病気故に、あまりにも酷使しすぎることは死を招く。ヴィオラもけして甘く見てはいけない傷を負っている。ここにいる味方のうち、戦えるのは私だけだ。
「今のお前では、勝てぬ」
「それでも勝つわ、私は長だもの」
「……ふ、あの頃の白金の灯と同じようなことを言う」
あの頃の、がどの頃かは知らないが、随分と気味の悪い笑みを浮かべた漆黒の牙の視線から逃れようと、背後へ回った。
「私の前世、先代の長と貴方は、主従ではないの?」
「朱色の雫の記憶がないというのは本当のようだな」
「質問に答えて! 貴方の望みは何? この朱色の雫の力を使って何をしたいの?」
「答えるには、対価が必要だ」
対価。
一瞬悩んでしまったのは、私の落ち度だ。
首めがけて斬り込まれるのを寸前で避ける。
首を降った方向から、拳が飛んでくる。
拳を手で受け止め、勢いのまま身を翻した。
受け止めた手と反対の手で鳩尾を刺す。
数歩後ろへ下がり、舌打ちをした。
「朱色の雫、その程度か?」
軽く舌打ちをしたのは、全く攻撃が効いていなかったからではない。そもそも攻撃がなかったことにされているからだ。漆黒の牙との間に謎の空間があるような、不思議な感覚。攻撃しても届かない、触れているはずなのに触れられていない。
「朱色の雫」
「……なに」
「気づいているにも関わらず、行動しないのはなぜだ」
「貴方に触れられないとしても、倒す方法はある」
睨んだままの私をあざ笑うように、玄冬は声高らかに笑った。
「ははははは! お前は随分と純粋らしい。触れずしてどうする?」
触れずして、殺す方法。そんなもの、一つしかない。睨む先にいる漆黒の牙は、くつくつと笑っている。私にはできないと思っているのだろう。
「ある。貴方には負けない」
けして手を触れずに。
「ほう。ならば、先にお前の弱点を壊してやろう」
「させない!」
「させぬ」
私の言葉と被るように、突然降ってきた言葉。
私の刀に被さるようにして出現した炎が、酷くゆっくり映った。眼の前に降り立った、長いもみあげと真紅の瞳。
「し……師走……」
「何を勝手に、殺されそうになっている?」
「いや、あの、え?」
敵の面前で、硬直してしまった。
何故。
カヌレとの戦いで死んだのではなかったか。
甲型爆弾を仕掛けられたのを、先程のことのように覚えている。あのとき最期の別れをあっけなく終わらせたヴィオラは、今私の隣で深いため息をついていた。
「遅いわよ師走! 待ちくたびれたわ!」
「ああ、少し手こずっていた」
驚きのあまり、うまく言葉が出せないが、彼を認識した瞬間に湧き上がる自信。これこそが私の本音なのだろう。今は純粋に、彼が無事だったことが嬉しい。
「白金の灯……どういうことだ。ああ、そうかお前……」
「無論」
目を白黒させるばかりの私の背中を、ヴィオラが強めに叩いてきた。
「忘れたの? 昔言ったでしょ、師走にはカヌレの技は効かないって」
「……あ!」
そうだ。ヴィオラと初めて会い、同盟の締結をしたあの日、地下道で確かにヴィオラは口にしていた。「師走には効かないのよ」と。
「師走のセンナのもう一つの能力。それはセンナへの直接攻撃に対する無効化よ」
彼らを前に、私は見事に言葉を失っていた。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる