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第三章 最終決戦
肉塊と野望
しおりを挟む朱色の雫と黄金の果の間に割って入った、炎陽という名の白金の灯。
「そこまでだ」
「プラティ!」
「あ……アぁ」
朱色の雫の右手は槍のように鋭く、左手は炎のように燃えている。わしがよく知っている朱己そっくりなのに、焦点の合わない目と覚束ない口元が、別の生き物だと言うことを嫌というほど認識させてくる。映し出されている女の怪物が、わしを酷く恐怖させたのだ。
「黄金の果、下がれ」
「待って、こんな化け物壊してやり直しましょうよ!」
「生み出した責任は我等にある。村もこれ以上犠牲にする気はない、これを生かす」
炎陽は静かに構えると、加速して近づいてきた彼女の腕を瞬時に切り落とし、背後へ回り込むと横殴りにした。朱色の雫は血を巻き上げて倒れ込み、その場におるわけでもないわしが、焦燥感を駆り立てられていた。
現場にいる五珠の面々はそれぞれ違う面持ちで、だが焦る様子もなく佇んでいた。漆黒の牙は興奮しているかのように、喜々として口を開く。
「良い、成功だ。こいつなら、俺たちを殺せる……楽しめるはずだ」
「狂ってるわ、あたしたちが生き残らなきゃ、善良な民を守れないでしょおが!」
「俺たちが罪を犯さぬとも限らん。現に、既に善良な民を犠牲にしてきただろう」
白金の灯が朱色の雫の相手をしている間、二人の会話はどんどん加速していく。漆黒の牙は、民のことなどどうでもいいかのように、恍惚とした表情で獣のような朱色の雫を見つめている。白金の灯が静かに呟いた。
「一度輪廻させる」
「炎陽! 気をつけなさ……」
「プラティ!」
紺碧の弦と黄金の果の叫び声が重なった。わしも同じタイミングで手を握りしめていた。
白金の灯の頭が見事に潰されるとは思っていなかったのだ。腕をもがれたはずの朱色の雫に。どこかでやつなら止められると期待しておったのやもしれぬ。朱己に似て非なる怪物を。
「プラティ! あんた……よくも!」
「ポーやめなさい! 炎陽ならすぐ復元するわ」
紺碧の弦が叫んだとおり、炎陽の頭はすぐに復元した。だが、黄金の果の怒りは治まらないようで、既に飛び出した後だった。
「根性叩き直してやるわ!」
「危ないわ、ポー!」
怪物は黄金の果の攻撃を身軽に右、左と避け、必要最低限の動きで懐へ潜り込む。思い切り蹴り上げると、黄金の果の顔が歪んだ。すかさず追いかける朱色の雫を、白金の灯と紺碧の弦が止める。
白金の灯は黄金の果を庇うように、紺碧の弦は朱色の雫の行く手を阻むように。
何度も言うが、見ているだけのわしが手に汗握る展開で、すっかり隣りにいる千草のことなど忘れていた。
「暴れ馬に乗る趣味なら、負けないわよ。炎陽」
「……貴様に同類にされるのはいい気がしない」
紺碧の弦は弦を弾くと朱色の雫を目にも留まらぬ速さで弾き落とした。間髪入れずに弦を弾き続ければ、再生不可能なほど、肉体が肉塊へ変化を遂げていく。
「猟奇的殺人の犯人は、何度も何度も刺し殺すと言うが……まさに同類だな、紺碧の弦。さて、これを殺されては困る。俺にはこれが必要だ」
「やめろ、漆黒の牙。民に対して使うのはまだ早い。制御も出来ぬ怪物だ」
僅かに動くだけの肉塊の前で、いつの間にか降りてきた白金の灯と漆黒の牙が対峙している。
「怪物を飼いならしてこそだ」
「まず輪廻させる。一度奴のセンナを整え直す。話はそれからだ。民に不必要な犠牲を払う気はない」
「駄目だ。こうでなければ、面白くない」
ヴィオラが言っていた展開はこれか。漆黒の牙と白金の灯が戦い、白金の灯が勝ったというのは。それにしても、何度見ても肉塊を見続けるのは気分が悪い。
『葉季。随分顔色が悪いぞ』
突然聞こえた声に、思わず肩が跳ねた。すっかり忘れていた隣の千草へ視線を移すと、心配そうにわしを見ていた。
『すまぬが千草、止めてくれ』
『ああ。このあとは、お前も知っていそうだ。白金の灯が勝ち、肉塊を焼き切って一度輪廻させたんだ』
『ああ……そうであろうな』
千草はわしの様子を伺いながらも、言葉を続けた。
『彼らは村人たちから恐れられ、四天王と呼ばれるようになり、人間の村に居られなくなった。無理もない、人間を殺しすぎた。人間は神として崇め、怒りに触れることを恐れた』
『四天王……天、そうか。そして、朱色の雫が加わり、五珠となったのか』
恐ろしい生まれだ。
だが、朱己は紛うことなき作られた存在ではなく、ナルスの長の子として生まれた。それだけが、わしの理性を繋ぎ止めているような気がした。
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