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しおりを挟むそれでも、バージルは心から謝罪する気がなかったのは、一目瞭然だった。
「……もういいから、それを視界から遠ざけて」
「すまない。後で、きちんと謝罪しに行く」
「……」
「オーガスタ嬢」
「……申し訳ありません。姉が、心配なので先に帰ります」
「あぁ、そうだな」
オーガスタは、婚約者を見ようとせずにつっけんどんに受け答えした。
馬車の中で、アミーリアは……。
「オーガスタ。よかったの?」
「……何が?」
「あの子息、あなたの好みそのものだったじゃない」
「……」
姉は心配してくれるのはいいが、オーガスタの好みをよく知っていた。アミーリアは、お似合いだと思っていたが、オーガスタは……。
「あんなのの兄弟なのよ?」
「まぁ、あんなのが義理の弟になると思うと考えたくもなるだろうけど」
「お姉様に乱暴するような子息なんかの身内なのよ?」
アミーリアは、それを聞いて喜んでいいのか。困った顔をした。
オーガスタは、腹が立っているのもあったが、それ以上に心配でならなかった。
「まぁ、いいわ。帰って、お父様たちに話さなきゃ」
「それより、医者に見てもらわなきゃ駄目よ」
「そこまでしなくとも……」
「姉さん、気づいてないみたいだけど、手首、大変なことになってるわ」
「っ、!?」
アミーリアは、突き飛ばされた時に手をついたようだ。
オーガスタは、それが心配でならなかったが、本人は気づいていなかったようだ。
「~っ、」
「ごめんなさい。やっぱり、今、言うんじゃなかったわ」
馬車の振動で悶絶するアミーリアにオーガスタは、ひたすら謝り続けた。
それでも、姉が妹を怒ることはなかった。もっとも大丈夫とも言ってはくれなかったが。
「何事なの!?」
「お母様、医者を呼んで!」
「っ!?」
プレストン侯爵家では、御者が大変だと屋敷の中に駆け込んで来て、母親がすぐに出て来た。
するとアミーリアが顔色悪くしていて、手首が大変なことになっているのを見て、母親の顔も悪くなった。
すぐに母は手配してくれた。
アミーリアは、その間に使用人に支えられて部屋に行った。
「オーガスタ。あの怪我は?」
「あの、例の子息が、自分が勘違いしたのに両親に叱られたのは、私たちのせいだって怒鳴りつけて来たんです。そしたら、口論になって、姉さんのことを突き飛ばしたんです」
「っ、まぁ! それで、怪我をさせるなんて、なんてことなのかしら」
「その子息のお兄さんが留学から戻って来たらしく止めてくれなければ、私が殴られていました」
「っ、あなたを殴ろうとしたの?! なんてことなの。私の大事な娘たちにそんなことするだなんて、信じられないわ!」
この母もまた昔から娘たちのことをよくそう呼んでいた。
だから、姉も昔はよく大事な妹だと言ってくれていたし、今日のように怖いだろうに自分が立ちはだかるように立つのだ。
小さい頃は、オーガスタはそれが頼もしく感じていた。今日は、頼もしく感じながらも、心配でならなかった。
だから、姉と同じく自分が立ちはだかった。でも、まさか殴られそうになるとは思わなかった。
チェスターが止めてくれなかったらと思うとゾッとして、今更ながらオーガスタは震えていた。
それに気づいた母は、アミーリアも心配だが医者が診ているのもあり、末の娘を心配して抱きしめてくれた。
その間、耳元でバージルのことを絶対に許さないと言っているのがオーガスタには聞こえていた。
あまりにもいつもの母と違い、恐ろしいことを呟き続けるため、震えていたのもおさまったが、今度は別の意味で震えそうなのを必死に何でもないようにするのが大変だった。
この侯爵家で、一番怒らせてはいけないのは、母かも知れないとオーガスタは思えてならなかった。
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