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正義001・新たな舞台
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舞台は移ろい、とある世界の裏路地にて。
昼だというのに夕方のように薄暗く、誰も通らない寂れた場所に、忽然とエスは現れた。
エス――『セイギサイキョウ』の〝元〟主人公。
少年の面影を多分に残した中背の青年だ。
物語の主役を務めていただけあり、その外見は非常に特徴的だった。
まずはその服装――全身を覆う漆黒のマントと、マントを首元で留めた金色のブローチ。
マントは風がないにもかかわらずやたらと靡き、バサバサと乾いた音を鳴らす。
拳大のブローチには彼の名前を表す『S』の文字が刻まれており、薄暗い中でもキラキラと光った。
そして、それらに負けず主張する真紅の髪。
燃えるようなミディアムヘアは、生き生きと跳ねながらエスの右目を隠している。
隠れていない左目は髪よりも少し明るい赤系の色で、髪の隙間から覗く右目は落ち着いた金色だ。
いわゆる虹彩異色(オッドアイ)というやつだが、その双眸には光がない。
しばし人形のように佇んでいたエスの眼に――ふと生命の輝きが宿る。
「……あれ?」
最初に漏れたのは困惑の声。
キョロキョロと周囲を見回したエスは、顎に手を当てながら首を傾げる。
「ここ……どこ?」
そこは、完全にエスの知らない場所だった。
なぜ自分がこんな場所にいるのか、エスにはまるで理解できない。
(たしか……悪魔の城を目指してて……)
ぼんやりと霞む頭で考える。
エスに残された直近の記憶は、悪魔の城に駆けていく場面。
城の周辺には荒廃した土地が広がり、手下の悪魔が無数に散らばっていた。
エスを支援する味方の兵士達を先導しながら、自分達の戦いはまだこれから――そう叫んだような気がするのだが、全ての記憶が朧気で曖昧なのだ。
むしろ、こうしてものを考えていること自体が新鮮で、以前の自分には自我がなかったような気さえする。
(なんだろう……? ここに来る直前、〝何か〟に話しかけられたような……気のせいかな? 何も思い出せないけど)
狐につままれたような気持ちの中、路地先に見える光の方へと歩く。
騒がしい大通りに出ると、レンガ造りの街並みと通りを行き交う人々の姿があった。
(……やっぱり知らない場所だ)
建物の様式、人々の服装、通りから感じ取れる雰囲気――その町並みは、エスの知るそれとは何から何まで違っている。
「――そこの変わった格好の兄ちゃん!」
ぼーっと様子を眺めていると、近くで屋台をやっていた中年男性が声を張った。
「ん? 俺のこと?」
「そうだよ。その格好、異国から来た口か? 安くしとくから一本どうだい? 100ギルだよ!」
男性はそう言って串焼き肉を差し出す。
「お、美味そう! けど100ギルって何?」
「ん? この国の通貨が分からないのか。これが100ギルさ」
串焼き屋がコインを取り出して見せる。
直径3~4センチほどの銅製コインだ。
エスには初めて目にするが、それがお金であることは理解できた。
「美味しそうだけど、お金はなぁ」
朧気な記憶によればお金は持っていなかったし、そもそも通貨からして違う。
何の気なしにマントのポケットに手を入れると、指先にジャラリと冷たい感触があった。
「あれ? 何であるんだろう?」
取り出したそれは、今しがた見せてもらった銅貨と全く同じだ。
「おお! 持ってるじゃねえか! 1本買っていくかい?」
よく分からないまま「まあいっか」と男性に頷き、串焼き肉を購入する。
元より突き抜けて楽観的、難しいことを考えるのが苦手なエスは、これくらいの不思議な現象は気にしない。
通貨の違いを考えても、ここは明らかに以前とは異なる舞台だ。
新しい物語の始まり――ポケットのコインはその餞別なのだと考え、串焼きを楽しむことにする。
(……なんか見られてる気がする)
串を片手に歩いていると、周囲の視線が集まっていることに気付く。
(服装のせいかな? 串焼き屋の人も言ってたし)
エスには自覚がなかったが、その外見は非常に目立つ。
燃えるような赤髪はもちろんのこと、やたらと風に靡くマントも視線を引き付ける要因だ。
(そういえば、俺ってどんな顔をしてるんだろ?)
串焼きを頬張りながら首を傾げる。
これまでの曖昧な記憶によれば、エスは自分の顔を見たことがない。
(……まあいっか。とりあえず分からないことだらけだし、宿でも探しがてらいろいろと訊いてみようかな)
そうしてひとまず、今日泊まるための宿を探すことにするのだった。
昼だというのに夕方のように薄暗く、誰も通らない寂れた場所に、忽然とエスは現れた。
エス――『セイギサイキョウ』の〝元〟主人公。
少年の面影を多分に残した中背の青年だ。
物語の主役を務めていただけあり、その外見は非常に特徴的だった。
まずはその服装――全身を覆う漆黒のマントと、マントを首元で留めた金色のブローチ。
マントは風がないにもかかわらずやたらと靡き、バサバサと乾いた音を鳴らす。
拳大のブローチには彼の名前を表す『S』の文字が刻まれており、薄暗い中でもキラキラと光った。
そして、それらに負けず主張する真紅の髪。
燃えるようなミディアムヘアは、生き生きと跳ねながらエスの右目を隠している。
隠れていない左目は髪よりも少し明るい赤系の色で、髪の隙間から覗く右目は落ち着いた金色だ。
いわゆる虹彩異色(オッドアイ)というやつだが、その双眸には光がない。
しばし人形のように佇んでいたエスの眼に――ふと生命の輝きが宿る。
「……あれ?」
最初に漏れたのは困惑の声。
キョロキョロと周囲を見回したエスは、顎に手を当てながら首を傾げる。
「ここ……どこ?」
そこは、完全にエスの知らない場所だった。
なぜ自分がこんな場所にいるのか、エスにはまるで理解できない。
(たしか……悪魔の城を目指してて……)
ぼんやりと霞む頭で考える。
エスに残された直近の記憶は、悪魔の城に駆けていく場面。
城の周辺には荒廃した土地が広がり、手下の悪魔が無数に散らばっていた。
エスを支援する味方の兵士達を先導しながら、自分達の戦いはまだこれから――そう叫んだような気がするのだが、全ての記憶が朧気で曖昧なのだ。
むしろ、こうしてものを考えていること自体が新鮮で、以前の自分には自我がなかったような気さえする。
(なんだろう……? ここに来る直前、〝何か〟に話しかけられたような……気のせいかな? 何も思い出せないけど)
狐につままれたような気持ちの中、路地先に見える光の方へと歩く。
騒がしい大通りに出ると、レンガ造りの街並みと通りを行き交う人々の姿があった。
(……やっぱり知らない場所だ)
建物の様式、人々の服装、通りから感じ取れる雰囲気――その町並みは、エスの知るそれとは何から何まで違っている。
「――そこの変わった格好の兄ちゃん!」
ぼーっと様子を眺めていると、近くで屋台をやっていた中年男性が声を張った。
「ん? 俺のこと?」
「そうだよ。その格好、異国から来た口か? 安くしとくから一本どうだい? 100ギルだよ!」
男性はそう言って串焼き肉を差し出す。
「お、美味そう! けど100ギルって何?」
「ん? この国の通貨が分からないのか。これが100ギルさ」
串焼き屋がコインを取り出して見せる。
直径3~4センチほどの銅製コインだ。
エスには初めて目にするが、それがお金であることは理解できた。
「美味しそうだけど、お金はなぁ」
朧気な記憶によればお金は持っていなかったし、そもそも通貨からして違う。
何の気なしにマントのポケットに手を入れると、指先にジャラリと冷たい感触があった。
「あれ? 何であるんだろう?」
取り出したそれは、今しがた見せてもらった銅貨と全く同じだ。
「おお! 持ってるじゃねえか! 1本買っていくかい?」
よく分からないまま「まあいっか」と男性に頷き、串焼き肉を購入する。
元より突き抜けて楽観的、難しいことを考えるのが苦手なエスは、これくらいの不思議な現象は気にしない。
通貨の違いを考えても、ここは明らかに以前とは異なる舞台だ。
新しい物語の始まり――ポケットのコインはその餞別なのだと考え、串焼きを楽しむことにする。
(……なんか見られてる気がする)
串を片手に歩いていると、周囲の視線が集まっていることに気付く。
(服装のせいかな? 串焼き屋の人も言ってたし)
エスには自覚がなかったが、その外見は非常に目立つ。
燃えるような赤髪はもちろんのこと、やたらと風に靡くマントも視線を引き付ける要因だ。
(そういえば、俺ってどんな顔をしてるんだろ?)
串焼きを頬張りながら首を傾げる。
これまでの曖昧な記憶によれば、エスは自分の顔を見たことがない。
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