ただの悪役令息の従者です

白鳩 唯斗

文字の大きさ
23 / 30
〜8歳〜

番外編・クロードは何処かが壊れていると思う

しおりを挟む
 あれから数週間。

 王子様とカーマイン様が、正式にレイン様のお友達になった。

 レイン様は相変わらずツンツンしてるけど、自室ではいつも楽しそうに、色々な事を話してくれる。

 そして──俺は公爵様から命を受け、レイン様の剣術の先生に任命されていた。

「クロッ! 剣術なんてやりたくないッ!」

「では、こうしましょう。もしも、俺の身体に一撃でも当てられたら、授業を免除にします」

「ッ!? そ、そんなの無理に決まってるだろッ!?」

 訓練場の一端──訓練用の木刀を右手で構えて、レイン様の攻撃を受け流す。

 まだ幼いレイン様の攻撃は、力任せで単調だ。流れを読み易い。

「はぁ···はぁ······もう、無理ッ!」

「隙ありです」

「ッ!?」

 レイン様が弱音を吐いて、あからさまに大きな隙を見せたので、懐に入って頭にポンと触れる。

「っっっーーー~!!! も、もう一回だッ!」

「ふふふ、気が済むまで何度でも、お付き合い致します」

 レイン様は、努力家で負けず嫌いだ。これは、ゲームで遊んでいた時から知っている、レイン様の魅力だ。

「クロなんて大嫌いッ!」

「ッ······! れ、レイン様!? 精神攻撃は辞めてください!」

 剣を受け止めた瞬間、レイン様が叫んだ言葉が、胸にグサッと来る。本音では無いですよね!?

 レイン様に嫌われる位なら自害します!

「ふんっ! 隙あ──」

「りません」

「なっ!?」

 ショックのあまり、少し立ち止まったが、すぐにレイン様の木刀を弾く。

「リオン! 危ない!」

「え······?」

 そこで──見学をしていた王子様とカーマイン様目掛けて、木刀が飛んでいった。

「《キト》」

 左手で身体に触れて、能力を使う。瞬間、周囲の速度が、遅く感じた。剣がゆっくりと、だが確実に、王子様達に向かって動いていく。

「《ヌペル》」

 木刀の軌道に先回りして、王子様達を庇う様に立つ。そして──左手で身体に触れて、時間を元の速度に戻す。

 ──瞬間、俺は木刀を真正面から受けた。自戒の念も込めて。

「ッ!? クロード······いつの間に·······」

「!? だ、大丈夫!?」

 お二人が、突然現れた俺を見て目を見開く。頭から血が流れて来るけど、今はそれ所じゃない。

「申し訳ありません。王子殿下、カーマイン様。どの様な処分でも、甘んじてお受け致します」

「そんな事より、さっさと治療しろ」

「頭上げて? 僕達は大丈夫だから······ね?」

「王子殿下。俺は、意図していないとはいえ、王族である御身を危機にさらしました。慈悲は必要ありません」

 王子様の前に跪いて、剣を差し出す。王族に危害を加えた場合、大逆罪に値する。刑罰は、死刑が妥当とされる。

 王族に自ら処刑されるのならば、レイン様の名誉にも傷がつかないはずだ。

「えぇ······僕、人殺したりしたくないよ? 頭上げて?」

「それは、自害しろという事でしょうか?」

「いや、違う違う! そ、それより、僕達にも剣術を教えて欲しいなぁ。丁度体が鈍りそうだったんだ」

「畏まりました」

 王子様のお言葉に、大きく頷く。剣術を教える、つまりは、俺を剣でなぶり殺しにしたい、という事に違いない。

 レイン様の名誉を守る為なら、甘んじて受け入れます!

「はぁ······確かにこいつは強いが、俺はあまり好かん」

「えー、仲良くしようよ。毒も治してくれたし、僕の命の恩人なんだよ?」

「···········チッ、リオンがこう言ってるんだ。さっさと頭を上げろ、クロード」

「本当に、申し訳ございませんでした」

 何度も頭を下げて、レイン様が駆け寄って来たので立ち上がる。

「クロ! だ、大丈夫か!?」

「《ホラ》·········はい! 無傷なので、ご安心ください!」

「はぁ······心配させるなッ!」

 咄嗟に能力を使って、傷を治して顔を上げる。レイン様が、モブ如きの俺を心配してくれるなんて、感激です!

「嬉し過ぎて涙が出そうです」

「こいつ──多重人格なんじゃないか?」

「あはは······僕は面白くて結構好きだなぁ。これから宜しくね、先生」

「はい! 全身全霊、なぶり殺されてみせます!」

「え?」

「お前··········何を言ってるんだ······?」

 カーマイン様が、呆れた様な声でボソリと言う。王子様も驚いた様な表情されて、何かおかしな事でも言ったでしょうか?

「王子殿下は、俺を剣でなぶり殺しにしたのでは?」

「うん、その発想は無かったよ······」

「どんな思考回路でそうなるんだ」

 お二人が遠い目をして、ため息をつく。詳しく聞いてみた所、本当にただ剣術を教えて欲しかっただけみたいだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

処理中です...