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第一部 <リデンプション・ビギニング>
プロローグ
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夏の日。
それは暑い日。
セミの鳴き声がさらに暑さを増大させる日。
この季節になると、人はかき氷やらアイスクリームを欲しがる。
それこそ本能と言わんばかりに。
いや、実際に本能なのだろう。
夏にアイスを食わない人間を俺は人間ではない何かだと仮定している。
現在、俺達も本能を絶賛剥き出し中であり、カフェのテラス席でバニラアイスを食べていた。
彼女と向かい合って席につき、2人してアイスをレロレロレロレロ。
2人してきったねえ食い方である。
「ねえ、利也」
「あ?」
俺はアイスを食べるのをやめて、テーブルの向かいに座る彼女のいつになく深刻な顔を見る。
「私、就職先決めた」
「ふーん。どこに就くんだ?」
「自衛隊」
「ふーん」
俺のそっけない返事に、彼女は驚いた様子を見せる。
「て、てっきり取り乱すものかと……」
「バカヤロー。なんで人の就職先にわざわざケチ付けにゃならんのだ。それに自衛隊だぞ? 日本国民がどんだけ守られてきたと思ってやがる。バカにできるかってんだ」
「ふーん」
意外だとは感じた。
てっきりこのオタクはVtuberかアニメーターになるものだと思っていた。
いや、思い込んでいた。
親友にすらど偏見を抱いてしまう俺は本当に嫌な奴だと自覚する。
しかし、選んだのは自衛隊。
たしかにこいつは喧嘩が強い。
中学時代にはナンパしてきた高校生を病院に送ったらしい。
聞いた話であるので真相はわからないものの、とにかくこいつは強い。
それでも、自衛隊の訓練についていけるかなんてわからない。
「ちょっと聞いていいか?」
「何?」
「なんで自衛隊?」
「……だってさ、嫌じゃん。日本が攻撃されるのは。それは則ち純粋な日本のオタク文化の消滅も意味する。耐え難い。真に耐え難いでござる……!」
「くっだらねえ何だよそれ。マジで馬鹿馬鹿しい……」
「就職先ではなく動機にケチつけられた!」
近年、世界中で各国の対立が激化している。
詳しい説明は省くが、政治に興味を持たないような層も、「これはちょっとまずいのでは?」という考えを抱くくらいには激しい対立だ。
そんな中、オタク文化を守るために自衛隊に志願すると口にした親友の度胸は尊敬する。
口ではああ言ったが、立派な動機だと思う。
「流石にそれ以外の理由もあるんだろ?」
「自衛隊は退職後の補償もいいからねー。それに、中学で被災した時はお世話になったし。でも、理由はそれだけじゃなくて……」
「まだ理由があんのか?」
「……やっぱなんでもない」
「お前何なんだよ」
「この話は終わり! あーあ、深刻な話してたら気分重くなった! こんな気分を吹き飛ばすためにも今はアニメを見たほうがいいと私は考えますが、貴方様はどのようにお考えでしょうか!」
「……好きにすりゃいーじゃん」
「よし決まり! 私の家で一緒にアニメ見よう! ラブコメ! ラブコメ!」
「マックも呼ぶか?」
「師匠はいいかな。多分ラブコメパワーの前に悶絶するだろうし。はむっ」
バニラアイスをひと口で飲み込んだ彼女は、会計をするためにレジへ走っていった。
「ほら、早く!」
俺はため息をついて、彼女の後を追う。
何故か、俺の口角は少し上がっていた。
高校2年生の、とある夏休みの日の出来事だった。
それは暑い日。
セミの鳴き声がさらに暑さを増大させる日。
この季節になると、人はかき氷やらアイスクリームを欲しがる。
それこそ本能と言わんばかりに。
いや、実際に本能なのだろう。
夏にアイスを食わない人間を俺は人間ではない何かだと仮定している。
現在、俺達も本能を絶賛剥き出し中であり、カフェのテラス席でバニラアイスを食べていた。
彼女と向かい合って席につき、2人してアイスをレロレロレロレロ。
2人してきったねえ食い方である。
「ねえ、利也」
「あ?」
俺はアイスを食べるのをやめて、テーブルの向かいに座る彼女のいつになく深刻な顔を見る。
「私、就職先決めた」
「ふーん。どこに就くんだ?」
「自衛隊」
「ふーん」
俺のそっけない返事に、彼女は驚いた様子を見せる。
「て、てっきり取り乱すものかと……」
「バカヤロー。なんで人の就職先にわざわざケチ付けにゃならんのだ。それに自衛隊だぞ? 日本国民がどんだけ守られてきたと思ってやがる。バカにできるかってんだ」
「ふーん」
意外だとは感じた。
てっきりこのオタクはVtuberかアニメーターになるものだと思っていた。
いや、思い込んでいた。
親友にすらど偏見を抱いてしまう俺は本当に嫌な奴だと自覚する。
しかし、選んだのは自衛隊。
たしかにこいつは喧嘩が強い。
中学時代にはナンパしてきた高校生を病院に送ったらしい。
聞いた話であるので真相はわからないものの、とにかくこいつは強い。
それでも、自衛隊の訓練についていけるかなんてわからない。
「ちょっと聞いていいか?」
「何?」
「なんで自衛隊?」
「……だってさ、嫌じゃん。日本が攻撃されるのは。それは則ち純粋な日本のオタク文化の消滅も意味する。耐え難い。真に耐え難いでござる……!」
「くっだらねえ何だよそれ。マジで馬鹿馬鹿しい……」
「就職先ではなく動機にケチつけられた!」
近年、世界中で各国の対立が激化している。
詳しい説明は省くが、政治に興味を持たないような層も、「これはちょっとまずいのでは?」という考えを抱くくらいには激しい対立だ。
そんな中、オタク文化を守るために自衛隊に志願すると口にした親友の度胸は尊敬する。
口ではああ言ったが、立派な動機だと思う。
「流石にそれ以外の理由もあるんだろ?」
「自衛隊は退職後の補償もいいからねー。それに、中学で被災した時はお世話になったし。でも、理由はそれだけじゃなくて……」
「まだ理由があんのか?」
「……やっぱなんでもない」
「お前何なんだよ」
「この話は終わり! あーあ、深刻な話してたら気分重くなった! こんな気分を吹き飛ばすためにも今はアニメを見たほうがいいと私は考えますが、貴方様はどのようにお考えでしょうか!」
「……好きにすりゃいーじゃん」
「よし決まり! 私の家で一緒にアニメ見よう! ラブコメ! ラブコメ!」
「マックも呼ぶか?」
「師匠はいいかな。多分ラブコメパワーの前に悶絶するだろうし。はむっ」
バニラアイスをひと口で飲み込んだ彼女は、会計をするためにレジへ走っていった。
「ほら、早く!」
俺はため息をついて、彼女の後を追う。
何故か、俺の口角は少し上がっていた。
高校2年生の、とある夏休みの日の出来事だった。
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