乙女ゲームのモブ(雑に強い)の俺、悪役令嬢の恋路を全力でサポートする。惨劇の未来から王国を救うために奔走します!

夏芽空

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【37話】ダンスのお誘い

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 中庭のベンチでステラと昼食を食べているリヒトは、吹いてきた風に体を震わせた。
 
「うおっ、寒いな」
「ですね」
 
 季節はすっかり冬。
 ダンスパーティーの開催日まで、二週間を切っていた。
 
 リリーナは無事、クロードとペアを組めていた。
 クロードと組めたわよ! 、と一週間ほど前に喜んで報告してきた。
 
 リヒトのもくろみ通りに、事は進んでいる。
 ダンスパーティーにおいてやるべきことは、これでとりあえず無いだろう。
 
「もうすぐダンスパーティーですね。リヒトさんはご出席なさるのですか?」
「まさか。俺は出ないよ」
「そうなんですか? 私はてっきり、リリーナさんとご出席されるものとばかり」

 不思議そうにしているステラに、リヒトは深いため息を吐く。

「……どうしてそうなるんだ。あいつが好きなのはクロードだぞ。それはステラも知ってるだろ」
「そうでした。リヒトさんとリリーナさんは、ただのお友達……ですものね」
「当たり前だろ。今さら何言ってんだ」

 リヒトは怪訝な表情になる。
 分かり切っているであろうことを、ステラは念押しするかのように聞いてきた。
 
(しかも笑ってるし)
 
 どうしてかステラは、嬉しそうにしている。
 ますます訳が分からない。

「ということは、リヒトさんは今、フリーなんですよね?」
「まぁ、そうなるな」
「でしたら、私とペアを組んで出席してくれませんか?」

 体を寄せてきたステラが、上目遣いで見上げてきた。
 ミルク色の髪から流れるふんわりとした香りが、リヒトの鼻腔をくすぐる。
 
 リヒトの心拍数は今、急上昇していた。
 匂いを感じるほどに接近されて緊張しているということもあるが、それだけではない。
 
 ダンスパーティーに出席する男女のペアは、付き合っているか、それに近しい関係にあるか――そのどちらかがほとんどだ。
 
(つまりステラは、俺とそういう関係になりたいってことか!?)

 どうしよう。なんて答えるべきか。
 
 ステラのような超絶美少女からそんな風に思われていたとは、本当に驚きだ。
 今の気持ちを端的に表すならば、ものすごく嬉しい。
 
 しかし、あまりにも突然すぎる。
 
 ステラの誘いは、言わば告白。
 告白した経験もされた経験も皆無のリヒトは、まったくもって心の準備ができていなかった。
 
「私、ダンスパーティーに出てみたいんです。でも、リヒトさん以外の男子生徒に声をかける勇気はなくて」
「…………あぁ、そういうことか」

 ステラはただ単純に、ダンスパーティーに出席したいだけだった。
 男女一組で参加する、という参加条件を満たすために、リヒトを誘ったに過ぎない。
 
 つまり、リヒトが想像していたような関係になりたい訳ではなかったのだ。
 
(俺の勘違いかよ)
 
 ガックリと肩を落とす。
 
 勝手に勘違いして、勝手に舞い上がってしまった。
 そんな自分が哀れで、とてつもなく悲しくなる。

「あの、いかがでしょうか?」
「いいよ。一緒にペアを組もう」

 ダンスパーティーにはまったく興味ないが、ステラのお願いとあらば断わる訳にはいかない。

「ありがとうございます!」

 ステラは満面の笑みをみせた。
 そんなにも、ダンスパーティーに出てみたかったのだろうか。
 
 きらびやかな場所が好きなタイプとは思えないし、ステラの笑顔の理由がまったく分からなかった。
 
(引っかかる所はあるけど……いっか)
 
 でもこうして、彼女は笑ってくれた。
 その眩しい笑顔を見ていると、こっちまで元気を貰える。癒される。
 
 だからもう、細かいことはどうでもよくなっていた。
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