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【18話】第一印象
その日の夜。
「最高の一日だったわね!」
両腕を広げたエレナは、私室のベッドに背中からおもいっきり倒れ込んだ。
今もその楽しさが、胸に強く残っている。
そのとき。
丁寧だが力のあるノック音のあとに、俺だ、という声が聞こえてきた。
ジオルトの声だ。
「夜分にすまない。少し話をしたいのだが、今いいだろうか?」
「はい」
体を起こしたエレナは、乱れた服装を直しつつドアへ向かった。
ドアを開けると、部屋に差し込んでいる月の光がちょうどジオルトを照らした。
(わぁ……綺麗だわ)
月光に照らされている美丈夫というのは、ものすごく絵になる。
だからつい、見とれてしまった。
「どうした?」
「い、いえ! なんでもありません!」
見とれていました、なんて言えるはずもない。
慌ててごまかす。
「どうぞ、お入りください!」
「……あ、あぁ。失礼する」
部屋に入ったジオルトは、エレナをまっすぐに見つめた。
「――!!」
さっきあんなことを考えていたせいか、見つめられたエレナは少しドキドキしてしまう。
(いけない! 平常心を保たなきゃ!)
息を大きく吸って深呼吸。
落ち着かない気持ちを、なんとか元に戻した。
「今日のことで、君に感謝を言いたくてな。まさか娘たちに、あんな風に言ってもらえる日が来るとは思わなかった。すべて君のおかげだ。大きな借りができてしまったな」
「借りなんて感じる必要はありませんよ。それに、お礼を言うのは私の方です。私の方こそいいものを見せてもらいましたからね」
「うん?」
「帰りの馬車でジオルト様は、優しい父親の顔をしていました。あのとき私は、とても心温まる思いをしたんです。ジオルト様は娘のことを考えている、立派な父親だと思います」
「……そう言ってくれるのは嬉しいが、あまり自信はないな。それに父親というのは、みんなあのような顔をするものではないのだろうか?」
「そんなことはありませんよ。……だって、私は見たことがありませんから。父があんな風に笑うところを……」
きっと妹には、優しい父の顔を何度も見せていたことだろう。
でもエレナには、一度だって見せてくれたことがない。怒っているか、呆れているか、見下してくるか――そのうちのどれかだった。
「私、家族によく思わなれていなかったんです」
優秀な妹と比較され、両親からひどい仕打ちを受けてきたこと。
妹にも数々の嫌がらせをされてきたこと。
そんな家族が大嫌いだということ。
エレナは自らの境遇をすべて話した。
「そんな事情を抱えていたのか。……ずいぶんと辛い思いをしてきたのだな」
肩を落としたジオルトは、眉間に皺を寄せた。
辛そうな顔は、演技には見えない。
エレナの境遇を聞いて、深く同情してくれていた。
「ジオルト様は、とてもお優しい方なのですね。初めて会ったときの印象とは、ぜんぜん違います」
初対面のジオルトは、誰も寄せ付けない拒否感をバリバリ出していた。
他人には興味がない、もっと冷たい人だと思っていた。
でも、それは違った。
娘たちのことを大事にして、こうしてエレナにも同情してくれる。
他人のことを気遣うことのできる、優しい心の持ち主だ。
「……そんなことを言われたのは初めてだな」
顔を赤くしたジオルトは、バツが悪そうにした。
照れているのだろうか。
ちょっとかわいい。
「だがそれを言うなら、俺だってそうだぞ」
「え? 私がですか?」
「そうだ。俺は君のことを、自分からはなにもしない人形のような女だと思っていた。だが、実際は違った」
ジオルトは嬉しそうに微笑む。
「俺たちのことを考え、積極的に動いてくれる。俺や娘たちは、それにものすごく助けられているんだ。……エレナ。君を妻にしてよかったよ」
まさか、そんな風に思ってくれているとは思わなかった。
ものすごく嬉しい。
でも、エレナはなにも言えなかった。
ジオルトの眼差しがあまりにもまっすぐすぎるせいで照れてしまい、うまく言葉が出せないでいた。
視線から逃れるようにして、下を向いてしまう。
「そろそろ失礼する」
「……お、おやすみなさい」
やっとのことで声を絞り出す。
でも、まだ顔を上げることはできない。
その顔は、ほんのりと赤く染まっていた。
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