旦那様、それはいくらなんでもキャラ違いすぎでは?~心の声が聞こえるようになった侯爵夫人は、いつも罵倒ばかりしてくる旦那様の本当の声を知る~

夏芽空

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【6話】レオン様とお月見

 
 夕食を終えた私とレオン様は、屋敷の外へ出る。
 
「……それで。どこで見るんだ?」
「あそこです!」

 私が指差したのは、庭園の隅に設けられているテーブル。
 あそこなら、腰を据えてゆっくりできる。お月見をするには、うってつけの場所だった。
 
「場所を変えたところで、何も変わらんと思うがな」

 ぶつくさ言いながらも、レオン様はテーブルに座ってくれた。
 その対面に、私も腰を下ろす。
 
「やはり変わらないではないか」
「確かに大きな変化はないかもしれませんね。ですが、ちょっとした変化はありますよ。穏やかに吹く風の音。虫たちのさざめく声――それらはこの場所に来なければ分からなかったものです」

 王都より遠く離れた自然豊かなこの地には、自然の声がいっぱいに溢れている。
 それらの声が、月見の雰囲気を盛り上げてくれていた。

「自然の声に囲まれながら月を見ると、少しだけ雰囲気が変わって見えてきませんか?」
「……別に変わらんな」
【食堂で見たときより綺麗に見える! オリビアの言う通りだ!】
 
 やっぱり気に入ってくれたみたいね!
 
 レオン様の上々な反応は思っていた通り。
 私は得意な気分になる。
 
 こうして外にやって来たのは、やっぱり大正解だった。
 
「旦那様、奥様。紅茶をお持ちいたしました」

 アンナがティーセットを運んできてくれた。
 
 外に出る前、紅茶を持ってきてほしい、と彼女にお願いしてきたのだが、ナイスグッドタイミング。
 会話がひと息ついた、良いタイミングで来てくれた。
 
「ありがとう。テーブルの上に置いておいて」
「かしこまりました」
「そうだ。せっかくだし、アンナも一緒にお月見していかない?」
「いえ! お二人の時間を邪魔をしては悪いですから!」

 慌てた声を上げたアンナはパタパタと手を振ると、一礼して去っていった。
 
「まったく。声も動きも騒がしい女だな」
【俺たちに気を遣ってくれたんだよね。良い子だな】
「まぁ、そう言わずに。とりあえず、お茶をいただきましょうよ」

 カップに紅茶を注いだ私は、それをレオン様に渡す。
 レオン様は月を見上げながら、カップに口をつけた。

 私も同じようにして、満月へ顔を向ける。
 
「綺麗なお月様ですね」
「……」
【うん! 本当に綺麗だ!】
「こうしているだけでも楽しい気分になります。レオン様はいかがですか?」
「…………っ」

 レオン様は一瞬だけ苦い表情をしたあと、口の端をギリリと吊り上げた。

「そうだな――とでも言うと思ったのか馬鹿め!」

 嫌味たっぷりの笑みは、人を見下しているかのよう――と普通の人であればそんな印象を受けるだろう。
 
 でも、レオン様の本心を知っている私には、その笑みがひどくぎごちなく見える。
 本当の気持ちを隠したくて無理矢理嘘をついているとしか思えなかった。痛々しくて、見ているこっちが苦しい。
 
【ここ最近、オリビアはこんな俺と仲良くしてくれようとしている。本当に嬉しい。でも俺はその気持ちに応えられない。突き放して傷つけることしかできないんだ……! 俺はこれ以上、オリビアを傷つけたくない……。だからもう終わらせる。過去一番に罵倒すれば、オリビアは二度と話しかけてこなくなるはずだ。彼女に嫌われるなんて嫌だけど、絶対に嫌だけど……! でも、傷つけるよりずっとマシだ……】

「貴様と過ごした時間で楽しいと思ったことは一度もない! ただの一度もだ! 貴様もそう思ってるんだろ!」
【そうさ……。オリビアだって、心の中ではそう思っているはずだ。酷いことばかり言ってくる人間と一緒にいたって、なんにも楽しくなんてない!】
「そんなことありません。私はレオン様といられて楽しいですよ」
「…………どうして」

 大きく驚いているレオン様に、私は微笑みを向けた。
 
「あなたが面白くて優しい人だと私は知っています。詳しい理由は言えませんけどね」

 最初は、レオン様と仲良くなって心を解放してあげたい、という使命感だけだった。
 でも、今はもう違う。
 
 レオン様と過ごす時間はいつも温かい気持ちが溢れてくる。
 一緒にいて心地いいし、とても楽しい気分になる。
 
 もう使命感だけではない。
 私が楽しいから、そうしたいから、レオン様の側にいる。ただそれだけだ。
 
「だから私は、これからもあなたと一緒にいたい。楽しい時間を過ごしたいんです」
 
 これまでの人生で一番の笑みを浮かべる。
 
 ほんの少しだけでもいい。
 私の気持ちをレオン様に伝えたかった。

 レオン様の赤い瞳から、一筋の涙が流れる。
 ルビーのような瞳から溢れ出た涙はどこまでも透明で、彼の純粋さを表しているかのようだった。
 
「……お、俺もだ。君といられて楽しい」

 つたなくて弱々しいその声が語るのは、今までのような取り繕った嘘の言葉ではない。
 心で思っていることを口にした、本当の言葉だった。
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