旦那様、それはいくらなんでもキャラ違いすぎでは?~心の声が聞こえるようになった侯爵夫人は、いつも罵倒ばかりしてくる旦那様の本当の声を知る~

夏芽空

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【15話】怪しい遣い


 やっとの思いで応接室に到着した私は、息を切らしながら入室する。

 部屋の中には、レオン様と黒いスーツを着た二十歳くらいの男性がいた。
 二人は向かい合ったソファーに座り、雑談のようなものをしている。
 
 レオン様の隣に立った私はスーツの男性に、
 
「遅くなってしまい申し訳ございません。ゼレブンタール侯爵夫人のオリビアと申します」

 と言ってから、深々と頭を下げる。
 
「まったく待っていませんよ。お気になさらず。さ、奥様も座って下さい」
「失礼します」

 促されるまま、私はレオン様の隣に腰を下ろした。
 失礼がないよう、いつより背筋をピンと張ることを意識する。
 
「奥様にはまだ、自己紹介をしていませんでしたね。ファビロ公爵家の遣い、マグースと申します」

 マグース様がにこりと笑う。
 
 でもその笑顔は、どことなく不自然。
 相手によく見られたくて、爽やかさを押し出しているかのようだった。
 
 こんなことを思うのは失礼かもしれないけど、なんだか薄っぺらいわね。
 
 服装や言葉遣いはきっちりとしているものの、笑顔が作り物のように軽い。
 レオン様やローエンのような品の良さが、彼からはまったくもって感じられなかった。
 
 ……怪しい。
 
 怪訝な瞳で、マグース様をじっと見る。
 
「そんなに私を見つめて、どうされたのですか奥様?」
「な、なんでもないです! あはは……」

 私が考えているのはとても失礼なこと。
 そのまま口にする訳にもいかないので、波風を立てないように笑ってごまかした。
 
「オリビアに見つめられるなど、なんて幸運なんだ。羨ましい。俺のことも見つめてほしい」

 レオン様がなにやら呟いているが、ちょっとよく分からないのでスルーする。
 
「お二方揃いましたので、本題に入らせていただこうと思います。が、その前に……」

 マグース様が懐から書状を取り出す。
 
「こちらをご覧いただきたいのです」
 
 そこには、この者はファビロ公爵家の遣いである、という文言と、家印の箔が押されている。
 
 これは身分証明書。
 私は怪しい者ではありません、ということをアピールしたいのだろう。

 怪訝そうに見つめた私へのあてつけかしら?

「この世の中、信頼関係がなによりも大事ですから」
「確かにその通りだな」

 レオン様が同意すると、マグース様は笑みを浮かべた。
 先ほどと同じ、薄っぺらい笑みだ。

「それでは、話に入らせていただきますね」

 ファビロ公爵家は、王都に大規模な複合型ショッピングモールの建設を計画しているらしい。
 それで今、共に経営に携わる出資者を探しているのだとか。
 
 端的に言って、かなり魅力的な話だ。
 
 王都は多くの人で溢れ賑わっている。
 ショッピングモールを建てれば、相当な数の客入りが見込めるだろう。
 多大な利益を得られるビッグチャンスだ。
 
 一見、受ける以外の選択肢がないように思えるこの話。
 しかし私には、引っかかっていることがあった。
 
 マグース様の薄っぺらい笑顔。
 それが引っかかっているせいで、どうにも話を受ける気になれなかった。
 
「レオン様はどう思われますか?」
「魅力的な話だと思う。話を持ち掛けてくれたファビロ公爵には感謝しかない。……だが、できすぎている気もするな。父上には、『美味しい話には裏がある。簡単に首を振ってはならない』と教えられている」
「それはごもっとも。素晴らしいお父様をお持ちのようだ。ですがご安心ください。私どもにそういった意図はいっさいございません。ファビロ公爵家の名にかけてお約束いたしましょう!」

 握り拳を作ったマグース様は、自分の胸をドンと叩いた。
 自信満々な顔をしている。
 
 その行動も表情も、何もかもが薄っぺらかった。
 やっぱり私は、どうあってもこの人のことを信用できそうにない。
 
 薄っぺらいあなたは何を隠しているのかしら? 覗かせてもらうわよ!
 
 スキルを使い、マグース様の心の声を聞く。
 
【田舎の辺境侯爵家だから簡単に騙せると思ったのによ……夫婦揃って粘ってんじゃねぇぞクソが。資金を持ち逃げする算段はもうできてんだから、とっとと話を受けろや。詐欺師としての俺の経歴に泥を塗るつもりかよ】

 ……やっぱり! 嘘だったのね!
 
 マグース様――いえ、マグースは最初から私たちを騙す気だった。
 最初に感じた違和感は正しかった。
 
 許せないわ!!
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