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王都のメインストリートは、かつてないほどの熱狂と「良い匂い」に包まれていた。
「王宮美食コンテスト」当日。会場となる王宮前広場には、巨大な調理台が並び、国中から集まった一流料理人たちが火花を散らしている。
その群衆を割るようにして、一台の黒塗りの馬車が到着した。
馬車の扉が開いた瞬間、周囲にいた人々は息を呑んだ。
「……あ、あれは、ハルバード辺境伯閣下!?」
「隣にいるのは……まさか、追放されたはずのカナメア様か? なんてことだ、以前よりずっと肌がツヤツヤして、神々しいまでのオーラを放っているぞ!」
馬車から降り立ったカナメアは、辺境の寒風で鍛えられた美貌に、健康的な「食欲の輝き」を纏っていた。
彼女の腰には、戦士の剣の代わりに、使い込まれた愛用のフライパンと、世界中のスパイスが詰まったポーチが誇らしげに揺れている。
「……ふふ、懐かしいわね、王都の空気。相変わらず、少しばかりスパイスの使い方が保守的すぎる香りだけど」
カナメアは鼻をひくつかせ、会場の空気を鋭く分析した。
「カナメア殿、あまり飛ばしすぎるな。本番はこれからだ」
ヴィンセントがそっと彼女の肩に手を置く。彼は今日も今日とて、周囲を威圧する死神のようなオーラを放っているが、その手にはカナメアの「非常食用の特大バスケット」が握られていた。
「分かっていますわ、ヴィンセント様。私の狙いはただ一つ。あの表彰台に鎮座する、黄金のハチミツだけですわ!」
二人が会場のVIP席へと進むと、そこには目を疑うほどやつれたジュリアス王子の姿があった。
「……カ、カナメア……。本当に出場するのだな……」
ジュリアスは、震える手でティーカップを持とうとしたが、中身がこぼれそうになって慌てて置いた。
彼の視線は、カナメアの潤った唇や、健康そうにふっくらとした頬に釘付けになっている。自分が「木の皮」を啜っている間に、彼女がどれほど豊かな食生活を送っていたかが残酷なほどに伝わってきたのだ。
「ええ、殿下。お招きありがとうございます。あ、ついでに申し上げますが、今さら復縁なんて言い出しても、私の胃袋が承知しませんわよ。今の私の婚約者は、私の『おかわり』に無限に付き合ってくれる、この世界一懐の深い辺境伯様だけですもの!」
「……ぐっ、貴様、そこまで言うか……!」
ジュリアスが胸を押さえて悶絶する中、隣のリリアーヌが真っ青な顔で立ち上がった。
「カナメア様! 今日こそは、私の『清らかな究極のスフレ』が、あなたの野蛮な料理に勝つことを証明してみせますわ!」
「あら、リリアーヌ様。前回のマッシュポテト、もう消化しきってしまったのですか? 今日は負けた方が、優勝者の作った料理を『三杯おかわり』するルールにしましょうか?」
「ひえっ……! そ、それは……!」
リリアーヌが恐怖に震える中、コンテストの開始を告げる鐘が鳴り響いた。
壇上に上がった司会者が、大声でテーマを発表する。
「第一回、王宮美食コンテスト! 最終決戦のテーマは……『一皿で王都を震撼させる、魂の肉料理』だ!!」
広場に歓声が上がる。
周りの料理人たちは、一斉に最高級の牛肉や、希少な鳥肉を取り出し、華麗な包丁捌きを見せ始めた。
だが、カナメアだけは動かなかった。
彼女は、ヴィンセントが運んできた「ハルバード領特製・氷結熟成された巨大な黒岩羊(ブラックロックシープ)」の肉塊を、ずしりと調理台に乗せた。
「……いいですか、皆様。肉料理とは、ただ焼けばいいというものではありません。それは、命の鼓動を再び呼び覚ます、神聖な蘇生術なのですわ!」
カナメアは腰のポーチから、あの「竜の吐息」の粉末と、秘密のハーブを次々と取り出した。
「ヴィンセント様、火を! 鉄板を、魔力で真っ赤に熱してくださいな! 表面を一瞬で焼き固め、中の肉汁を永遠に閉じ込めるのです!」
「承知した。……行くぞ、カナメア殿!」
ヴィンセントが掌をかざすと、調理台のコンロから、かつてないほどの高温の炎が噴き上がった。
ジュリアスは、その圧倒的な光景を前に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「……あ、ああ……。あの肉。あの香り。あれこそが、私が失った『真実の味』なんだ……」
王太子の魂の叫びなど露知らず、カナメアのフライパンの上で、黄金のハチミツへの切符となる「究極の肉」が、激しく、そして美しく躍動し始めた。
「さあ、見せてあげますわ! これが辺境の、そして私の、愛と食欲の集大成ですわよ!!」
コンテストの火蓋は、今、切って落とされたのである。
「王宮美食コンテスト」当日。会場となる王宮前広場には、巨大な調理台が並び、国中から集まった一流料理人たちが火花を散らしている。
その群衆を割るようにして、一台の黒塗りの馬車が到着した。
馬車の扉が開いた瞬間、周囲にいた人々は息を呑んだ。
「……あ、あれは、ハルバード辺境伯閣下!?」
「隣にいるのは……まさか、追放されたはずのカナメア様か? なんてことだ、以前よりずっと肌がツヤツヤして、神々しいまでのオーラを放っているぞ!」
馬車から降り立ったカナメアは、辺境の寒風で鍛えられた美貌に、健康的な「食欲の輝き」を纏っていた。
彼女の腰には、戦士の剣の代わりに、使い込まれた愛用のフライパンと、世界中のスパイスが詰まったポーチが誇らしげに揺れている。
「……ふふ、懐かしいわね、王都の空気。相変わらず、少しばかりスパイスの使い方が保守的すぎる香りだけど」
カナメアは鼻をひくつかせ、会場の空気を鋭く分析した。
「カナメア殿、あまり飛ばしすぎるな。本番はこれからだ」
ヴィンセントがそっと彼女の肩に手を置く。彼は今日も今日とて、周囲を威圧する死神のようなオーラを放っているが、その手にはカナメアの「非常食用の特大バスケット」が握られていた。
「分かっていますわ、ヴィンセント様。私の狙いはただ一つ。あの表彰台に鎮座する、黄金のハチミツだけですわ!」
二人が会場のVIP席へと進むと、そこには目を疑うほどやつれたジュリアス王子の姿があった。
「……カ、カナメア……。本当に出場するのだな……」
ジュリアスは、震える手でティーカップを持とうとしたが、中身がこぼれそうになって慌てて置いた。
彼の視線は、カナメアの潤った唇や、健康そうにふっくらとした頬に釘付けになっている。自分が「木の皮」を啜っている間に、彼女がどれほど豊かな食生活を送っていたかが残酷なほどに伝わってきたのだ。
「ええ、殿下。お招きありがとうございます。あ、ついでに申し上げますが、今さら復縁なんて言い出しても、私の胃袋が承知しませんわよ。今の私の婚約者は、私の『おかわり』に無限に付き合ってくれる、この世界一懐の深い辺境伯様だけですもの!」
「……ぐっ、貴様、そこまで言うか……!」
ジュリアスが胸を押さえて悶絶する中、隣のリリアーヌが真っ青な顔で立ち上がった。
「カナメア様! 今日こそは、私の『清らかな究極のスフレ』が、あなたの野蛮な料理に勝つことを証明してみせますわ!」
「あら、リリアーヌ様。前回のマッシュポテト、もう消化しきってしまったのですか? 今日は負けた方が、優勝者の作った料理を『三杯おかわり』するルールにしましょうか?」
「ひえっ……! そ、それは……!」
リリアーヌが恐怖に震える中、コンテストの開始を告げる鐘が鳴り響いた。
壇上に上がった司会者が、大声でテーマを発表する。
「第一回、王宮美食コンテスト! 最終決戦のテーマは……『一皿で王都を震撼させる、魂の肉料理』だ!!」
広場に歓声が上がる。
周りの料理人たちは、一斉に最高級の牛肉や、希少な鳥肉を取り出し、華麗な包丁捌きを見せ始めた。
だが、カナメアだけは動かなかった。
彼女は、ヴィンセントが運んできた「ハルバード領特製・氷結熟成された巨大な黒岩羊(ブラックロックシープ)」の肉塊を、ずしりと調理台に乗せた。
「……いいですか、皆様。肉料理とは、ただ焼けばいいというものではありません。それは、命の鼓動を再び呼び覚ます、神聖な蘇生術なのですわ!」
カナメアは腰のポーチから、あの「竜の吐息」の粉末と、秘密のハーブを次々と取り出した。
「ヴィンセント様、火を! 鉄板を、魔力で真っ赤に熱してくださいな! 表面を一瞬で焼き固め、中の肉汁を永遠に閉じ込めるのです!」
「承知した。……行くぞ、カナメア殿!」
ヴィンセントが掌をかざすと、調理台のコンロから、かつてないほどの高温の炎が噴き上がった。
ジュリアスは、その圧倒的な光景を前に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「……あ、ああ……。あの肉。あの香り。あれこそが、私が失った『真実の味』なんだ……」
王太子の魂の叫びなど露知らず、カナメアのフライパンの上で、黄金のハチミツへの切符となる「究極の肉」が、激しく、そして美しく躍動し始めた。
「さあ、見せてあげますわ! これが辺境の、そして私の、愛と食欲の集大成ですわよ!!」
コンテストの火蓋は、今、切って落とされたのである。
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