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「メリー・バートン侯爵令嬢! 貴様のような腹黒い女との婚約は、今この瞬間をもって破棄させてもらう!」
煌びやかなシャンデリアが輝く王宮の夜会会場。その中央で、私の婚約者であるセドリック皇太子が朗々と宣言しました。
その隣には、彼に守られるようにして寄り添う男爵令嬢のリリア様がいます。彼女は潤んだ瞳で私を見つめ、今にも泣き出しそうな表情を作っていました。
(……あ、これ。噂に聞いていた「断罪シーン」っていうやつかしら?)
私は手に持っていた銀のフォークをそっと皿に戻しました。その上には、まだ一口も食べていない最高級のローストビーフが鎮座しています。
これを食べ終えるまで待ってほしかったというのが本音ですが、主役がやる気満々な以上、付き合わないわけにはいきません。
「……婚約破棄、でございますか? セドリック殿下」
「そうだ! しらじらしい真似はやめろ! 貴様が裏でリリア嬢に行ってきた数々の悪行、すべて把握しているのだぞ!」
殿下はバッ!と勢いよく指を私に突きつけました。その勢いで彼の金髪が揺れ、周囲の令嬢たちから「素敵……」というため息が漏れます。
一方で、私を見る目は氷のように冷ややかでした。裏切り者、悪女、嫉妬の塊。そんな視線が突き刺さります。
「悪行、と言われましても。具体的にはどのようなことでしょうか?」
「ふん、言わせておけば! リリア嬢のドレスにワインをかけ、教科書を隠し、挙句の果てには階段から突き落とそうとしただろう!」
「……ええと。ワインの件は、リリア様が自ら転んで私のドレスにかけられたのを、私が咄嗟に避けただけでは? 教科書に関しては、そもそも彼女は授業に一度も持参していませんでした。階段の件は……あれは、彼女が私の背中を押そうとして自爆したのを、私が華麗にスルーした結果だったはずですが」
私は指を折って一つずつ事実を確認しました。
しかし、殿下には私の言葉など届いていないようです。恋は盲目と言いますが、どうやら耳まで塞いでしまう病気だったらしいですね。
「黙れ! そうやって屁理屈を並べるところもリリアとは大違いだ! お前のような可愛げのない女、王妃にふさわしくない。よって、国外追放を命ずる!」
「国外追放、ですか」
「そうだ! 今すぐ、一刻も早く、この国から消え失せろ!」
静まり返る会場。
お父様であるバートン侯爵は、遠くの方で「ああ、もうダメだ」と言わんばかりに顔を覆っています。お母様はショックで扇子を落とし、失神しかけていました。
普通なら、ここで絶望に打ちひしがれ、涙ながらに無実を訴える場面なのでしょう。
けれど、私の胸の中に沸き起こったのは、これまでにない清々しい感情でした。
(え、ちょっと待って。追放ってことは……明日から朝五時に起きて礼儀作法の特訓をしなくていいの? ガチガチに固められたコルセットで肋骨を痛めつける必要もない? 退屈な夜会で、中身のない世間話に愛想笑いを振りまかなくてもいいの……!?)
想像してみてください。自由です。圧倒的なまでのフリーダムが、目の前に広がっているのです。
「……ふっ、ふふふ」
「何がおかしい! ついに狂ったか!」
殿下の罵声をBGMに、私は口元を押さえました。笑いが止まりません。
思えば、私はずっと「侯爵令嬢」という型にはめられ、窮屈な生活を送ってきました。メリー・バートンは淑やかであれ、メリー・バートンは完璧であれ。
そんな呪縛から、今、この瞬間に解き放たれたのです。
「……よっしゃあぁぁぁぁぁ!!」
私は両腕を高く掲げ、全力でガッツポーズを決めました。
「えっ……?」
リリア様の涙がピタリと止まります。殿下の口も、あんぐりと開いたまま固まりました。
「自由だ! 自由ですよ、皆さん! 殿下、最高です! 今までの人生で一番かっこいい決断をされましたね! あー、嬉しい! もうこの重たいドレスも脱ぎ捨てたい気分です!」
「き、貴様、何を……。追放と言ったのだぞ? 路頭に迷うのだぞ!?」
「構いませんとも! どこへでも行きます。あ、そうだ、追放先は私が決めてもよろしいですか? 北の辺境、ヴォルカノフ辺境伯領がいいです!」
「ヴォルカノフ……? あんな雪深くて、魔物が出るような場所にか?」
「はい! あそこには、私の『推し』がいらっしゃるので!」
「オシ……? 何だそれは、呪文か?」
困惑する殿下をよそに、私はスカートをまくり上げました。
そして、信じられないほどの軽快なフットワークで、その場に跪きました。
「婚約破棄、謹んでお受けいたします! 殿下、どうぞリリア様とお幸せに。彼女の靴、実は左右とも『右足用』にすり替えられていたことに気づいていないあたり、お二人は本当にお似合いですわ!」
「えっ、私の靴、右用なの……!?」
リリア様が慌てて足元を確認するのを横目に、私は立ち上がりました。
「では、追放の手続きはお早めにお願いします。私は今から帰ってパッキングをしなければならないので。あ、会場のローストビーフ、もったいないので誰か食べておいてくださいね!」
私はそのまま、呆然と立ち尽くす招待客たちの間を、スキップに近い足取りで通り抜けました。
「メ、メリー! 待ちたまえ、メリー!」
お父様の呼ぶ声が聞こえましたが、今の私を止められるものなど存在しません。
私の頭の中は、これから始まる「辺境ライフ」への期待でいっぱいでした。
北の地には、鉄壁の守護者と呼ばれるアレクセイ・ヴォルカノフ辺境伯がいらっしゃいます。
無口で無愛想、けれどその鍛え上げられた肉体と、時折見せる鋭い眼光は、まさに私にとっての理想の男性像そのもの。
「さようなら、窮屈な王都! こんにちは、私の筋肉美の世界!」
馬車に飛び乗った私は、御者に「爆速で屋敷へ!」と命じました。
私の悪役令嬢としての人生は、ここからが本番なのです。
煌びやかなシャンデリアが輝く王宮の夜会会場。その中央で、私の婚約者であるセドリック皇太子が朗々と宣言しました。
その隣には、彼に守られるようにして寄り添う男爵令嬢のリリア様がいます。彼女は潤んだ瞳で私を見つめ、今にも泣き出しそうな表情を作っていました。
(……あ、これ。噂に聞いていた「断罪シーン」っていうやつかしら?)
私は手に持っていた銀のフォークをそっと皿に戻しました。その上には、まだ一口も食べていない最高級のローストビーフが鎮座しています。
これを食べ終えるまで待ってほしかったというのが本音ですが、主役がやる気満々な以上、付き合わないわけにはいきません。
「……婚約破棄、でございますか? セドリック殿下」
「そうだ! しらじらしい真似はやめろ! 貴様が裏でリリア嬢に行ってきた数々の悪行、すべて把握しているのだぞ!」
殿下はバッ!と勢いよく指を私に突きつけました。その勢いで彼の金髪が揺れ、周囲の令嬢たちから「素敵……」というため息が漏れます。
一方で、私を見る目は氷のように冷ややかでした。裏切り者、悪女、嫉妬の塊。そんな視線が突き刺さります。
「悪行、と言われましても。具体的にはどのようなことでしょうか?」
「ふん、言わせておけば! リリア嬢のドレスにワインをかけ、教科書を隠し、挙句の果てには階段から突き落とそうとしただろう!」
「……ええと。ワインの件は、リリア様が自ら転んで私のドレスにかけられたのを、私が咄嗟に避けただけでは? 教科書に関しては、そもそも彼女は授業に一度も持参していませんでした。階段の件は……あれは、彼女が私の背中を押そうとして自爆したのを、私が華麗にスルーした結果だったはずですが」
私は指を折って一つずつ事実を確認しました。
しかし、殿下には私の言葉など届いていないようです。恋は盲目と言いますが、どうやら耳まで塞いでしまう病気だったらしいですね。
「黙れ! そうやって屁理屈を並べるところもリリアとは大違いだ! お前のような可愛げのない女、王妃にふさわしくない。よって、国外追放を命ずる!」
「国外追放、ですか」
「そうだ! 今すぐ、一刻も早く、この国から消え失せろ!」
静まり返る会場。
お父様であるバートン侯爵は、遠くの方で「ああ、もうダメだ」と言わんばかりに顔を覆っています。お母様はショックで扇子を落とし、失神しかけていました。
普通なら、ここで絶望に打ちひしがれ、涙ながらに無実を訴える場面なのでしょう。
けれど、私の胸の中に沸き起こったのは、これまでにない清々しい感情でした。
(え、ちょっと待って。追放ってことは……明日から朝五時に起きて礼儀作法の特訓をしなくていいの? ガチガチに固められたコルセットで肋骨を痛めつける必要もない? 退屈な夜会で、中身のない世間話に愛想笑いを振りまかなくてもいいの……!?)
想像してみてください。自由です。圧倒的なまでのフリーダムが、目の前に広がっているのです。
「……ふっ、ふふふ」
「何がおかしい! ついに狂ったか!」
殿下の罵声をBGMに、私は口元を押さえました。笑いが止まりません。
思えば、私はずっと「侯爵令嬢」という型にはめられ、窮屈な生活を送ってきました。メリー・バートンは淑やかであれ、メリー・バートンは完璧であれ。
そんな呪縛から、今、この瞬間に解き放たれたのです。
「……よっしゃあぁぁぁぁぁ!!」
私は両腕を高く掲げ、全力でガッツポーズを決めました。
「えっ……?」
リリア様の涙がピタリと止まります。殿下の口も、あんぐりと開いたまま固まりました。
「自由だ! 自由ですよ、皆さん! 殿下、最高です! 今までの人生で一番かっこいい決断をされましたね! あー、嬉しい! もうこの重たいドレスも脱ぎ捨てたい気分です!」
「き、貴様、何を……。追放と言ったのだぞ? 路頭に迷うのだぞ!?」
「構いませんとも! どこへでも行きます。あ、そうだ、追放先は私が決めてもよろしいですか? 北の辺境、ヴォルカノフ辺境伯領がいいです!」
「ヴォルカノフ……? あんな雪深くて、魔物が出るような場所にか?」
「はい! あそこには、私の『推し』がいらっしゃるので!」
「オシ……? 何だそれは、呪文か?」
困惑する殿下をよそに、私はスカートをまくり上げました。
そして、信じられないほどの軽快なフットワークで、その場に跪きました。
「婚約破棄、謹んでお受けいたします! 殿下、どうぞリリア様とお幸せに。彼女の靴、実は左右とも『右足用』にすり替えられていたことに気づいていないあたり、お二人は本当にお似合いですわ!」
「えっ、私の靴、右用なの……!?」
リリア様が慌てて足元を確認するのを横目に、私は立ち上がりました。
「では、追放の手続きはお早めにお願いします。私は今から帰ってパッキングをしなければならないので。あ、会場のローストビーフ、もったいないので誰か食べておいてくださいね!」
私はそのまま、呆然と立ち尽くす招待客たちの間を、スキップに近い足取りで通り抜けました。
「メ、メリー! 待ちたまえ、メリー!」
お父様の呼ぶ声が聞こえましたが、今の私を止められるものなど存在しません。
私の頭の中は、これから始まる「辺境ライフ」への期待でいっぱいでした。
北の地には、鉄壁の守護者と呼ばれるアレクセイ・ヴォルカノフ辺境伯がいらっしゃいます。
無口で無愛想、けれどその鍛え上げられた肉体と、時折見せる鋭い眼光は、まさに私にとっての理想の男性像そのもの。
「さようなら、窮屈な王都! こんにちは、私の筋肉美の世界!」
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