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「……お嬢様、落ち着いてください。今日はお掃除の記録会ではなく、ご自身の結婚式なのです。その、ドレスの裾をまくってステップを確認するのはやめてください」
ヴォルカノフ城の正門前。真っ白な雪に覆われた世界で、アンナが必死に私のベールを整えていました。
今日の私は、最高級のシルクで仕立てられた純白のウェディングドレスに身を包んでいます。
ただし、私の強い要望により、袖は一切なしの「アメリカンスリーブ」仕様。さらに、スカートの裏地には隠しポケットを作り、いつでも雑巾とプロテインバーを取り出せるように改造済みです。
「何を言っているのアンナ。結婚式は人生最大の『持久戦』よ。閣下と一生添い遂げるための、いわば第一レップ(回数)に過ぎないわ。見て、この二の腕! 純白の生地に、鍛え抜かれた上腕三頭筋が映えると思わない?」
私は鏡の前で、ドレス姿のままサイドチェストのポーズを決めました。
「……お嬢様。それを式場で見せたら、王都から招待されたお父様たちが今度こそ卒倒しますよ」
「大丈夫よ、お父様はもう私の『うるささ』には耐性がついているはずだわ!」
そんな会話をしていると、城門の方から賑やかな(というより騒がしい)足音が聞こえてきました。
「メリー様ぁぁぁ!! おめでとうございますわ!! 見てください、私のこの仕上がりをー!!」
雪煙を巻き上げて走ってきたのは、あろうことか王都から参列したリリア様でした。
彼女はドレスの裾を膝までまくり上げ、逞しい足取りで私に抱きつきました。
「リリア様! なんて素晴らしい大腿四頭筋(だいたいししとうきん)なの! 王都でサボらずにスクワットを続けていたのね!」
「はい! 今では王都の社交界で『筋肉淑女の会』を結成いたしましたわ! あ、後ろで青い顔をしているセドリック様も、今は毎日百回の腕立て伏せをこなしていらっしゃいますの!」
リリア様の指差す先。セドリック殿下が、以前よりも少しだけ……本当に少しだけ胸板が厚くなった体で、震えながら立っていました。
「……メリー。君の結婚式に、まさか筋肉のデモンストレーションを見せられるとは思わなかったよ。……まあ、おめでとう。アレクセイなら、君のその暴走を止める……いや、共に暴走してくれるだろうからね」
「殿下! お祝いのお言葉、腹圧を込めて受け取りましたわ!」
そして、いよいよ式の時間が訪れました。
教会の鐘が鳴り響き、大広間に続く真っ赤な絨毯の上を、私はお父様と歩き始めました。
「……メリー。お前が北へ行くと言い出した時は、我が家も終わりだと思ったが。……今の顔を見れば、私の心配は無用だったようだな」
お父様が、少しだけ寂しそうに、けれど誇らしげに呟きました。
「はい、お父様! 私は今、人生で一番パンプアップしていますわ!」
「……最後までその語彙なのか」
祭壇の前。そこには、軍服を脱ぎ捨て、正装を纏ったアレクセイ様が立っていました。
いつもの鋭い瞳が、今日は少しだけ柔らかく、熱を帯びて私を見つめています。
私たちは神の前で、永遠の愛を誓いました。
「……アレクセイ・ヴォルカノフ。貴方はメリー・バートンを妻とし、その健康と筋肉、そして騒々しい日常を愛することを誓いますか?」
神父様の言葉に、アレクセイ様は迷いなく、力強い声で答えました。
「誓う。……彼女がどれだけ壁を壊そうと、私がそれを一生かけて直し続けよう」
会場から温かい笑いと、騎士たちによる野太い歓声が上がりました。
「では、誓いのキスを」
アレクセイ様がゆっくりと私のベールを上げました。
至近距離で見つめ合う、二人の瞳。
「……メリー。私を選んでくれて、ありがとう」
「閣下……いえ、アレクセイ様。こちらこそ、私の雑巾がけを一生受け止めてくださいましね!」
私たちは静かに唇を重ね……。
「よっしゃあぁぁぁぁぁ!! 結婚ですわー!!」
直後、私は大広間が揺れるほどの声で叫び、両腕を高く突き上げました。
それに呼応するように、アレクセイ様も、そして参列していた騎士たちも一斉に叫びました。
「「「「よっしゃあぁぁぁぁぁ!!」」」」
教会のステンドグラスが振動でカタカタと鳴り、セドリック殿下が耳を塞いで椅子から転げ落ちました。
お父様は諦めたように笑い、アンナは「やっぱりこうなりましたか」と涙を拭っています。
私の物語は、ここで一旦の区切りを迎えます。
悪役令嬢として断罪され、婚約破棄され、辺境へ追放されたあの日。
私は絶望ではなく、自由と筋肉を求めて走り出しました。
そして今、私の隣には、世界で一番不器用で、世界で一番逞しい「推し」がいます。
「さあ、アレクセイ様! 披露宴の前に、まずは夫婦初めての共同作業……城の全窓磨き一周、いかがですか!?」
「……ふっ。いいだろう。……ただし、私に勝てたら、だ」
「望むところですわ!!」
新郎新婦がウェディングドレスと正装のまま、モップを持って城壁を駆け上がるという、前代未聞の結婚式。
北の地に響く私たちの笑い声は、冬の寒さを吹き飛ばし、これからも末永く、熱く太く、続いていくのでした。
ヴォルカノフ城の正門前。真っ白な雪に覆われた世界で、アンナが必死に私のベールを整えていました。
今日の私は、最高級のシルクで仕立てられた純白のウェディングドレスに身を包んでいます。
ただし、私の強い要望により、袖は一切なしの「アメリカンスリーブ」仕様。さらに、スカートの裏地には隠しポケットを作り、いつでも雑巾とプロテインバーを取り出せるように改造済みです。
「何を言っているのアンナ。結婚式は人生最大の『持久戦』よ。閣下と一生添い遂げるための、いわば第一レップ(回数)に過ぎないわ。見て、この二の腕! 純白の生地に、鍛え抜かれた上腕三頭筋が映えると思わない?」
私は鏡の前で、ドレス姿のままサイドチェストのポーズを決めました。
「……お嬢様。それを式場で見せたら、王都から招待されたお父様たちが今度こそ卒倒しますよ」
「大丈夫よ、お父様はもう私の『うるささ』には耐性がついているはずだわ!」
そんな会話をしていると、城門の方から賑やかな(というより騒がしい)足音が聞こえてきました。
「メリー様ぁぁぁ!! おめでとうございますわ!! 見てください、私のこの仕上がりをー!!」
雪煙を巻き上げて走ってきたのは、あろうことか王都から参列したリリア様でした。
彼女はドレスの裾を膝までまくり上げ、逞しい足取りで私に抱きつきました。
「リリア様! なんて素晴らしい大腿四頭筋(だいたいししとうきん)なの! 王都でサボらずにスクワットを続けていたのね!」
「はい! 今では王都の社交界で『筋肉淑女の会』を結成いたしましたわ! あ、後ろで青い顔をしているセドリック様も、今は毎日百回の腕立て伏せをこなしていらっしゃいますの!」
リリア様の指差す先。セドリック殿下が、以前よりも少しだけ……本当に少しだけ胸板が厚くなった体で、震えながら立っていました。
「……メリー。君の結婚式に、まさか筋肉のデモンストレーションを見せられるとは思わなかったよ。……まあ、おめでとう。アレクセイなら、君のその暴走を止める……いや、共に暴走してくれるだろうからね」
「殿下! お祝いのお言葉、腹圧を込めて受け取りましたわ!」
そして、いよいよ式の時間が訪れました。
教会の鐘が鳴り響き、大広間に続く真っ赤な絨毯の上を、私はお父様と歩き始めました。
「……メリー。お前が北へ行くと言い出した時は、我が家も終わりだと思ったが。……今の顔を見れば、私の心配は無用だったようだな」
お父様が、少しだけ寂しそうに、けれど誇らしげに呟きました。
「はい、お父様! 私は今、人生で一番パンプアップしていますわ!」
「……最後までその語彙なのか」
祭壇の前。そこには、軍服を脱ぎ捨て、正装を纏ったアレクセイ様が立っていました。
いつもの鋭い瞳が、今日は少しだけ柔らかく、熱を帯びて私を見つめています。
私たちは神の前で、永遠の愛を誓いました。
「……アレクセイ・ヴォルカノフ。貴方はメリー・バートンを妻とし、その健康と筋肉、そして騒々しい日常を愛することを誓いますか?」
神父様の言葉に、アレクセイ様は迷いなく、力強い声で答えました。
「誓う。……彼女がどれだけ壁を壊そうと、私がそれを一生かけて直し続けよう」
会場から温かい笑いと、騎士たちによる野太い歓声が上がりました。
「では、誓いのキスを」
アレクセイ様がゆっくりと私のベールを上げました。
至近距離で見つめ合う、二人の瞳。
「……メリー。私を選んでくれて、ありがとう」
「閣下……いえ、アレクセイ様。こちらこそ、私の雑巾がけを一生受け止めてくださいましね!」
私たちは静かに唇を重ね……。
「よっしゃあぁぁぁぁぁ!! 結婚ですわー!!」
直後、私は大広間が揺れるほどの声で叫び、両腕を高く突き上げました。
それに呼応するように、アレクセイ様も、そして参列していた騎士たちも一斉に叫びました。
「「「「よっしゃあぁぁぁぁぁ!!」」」」
教会のステンドグラスが振動でカタカタと鳴り、セドリック殿下が耳を塞いで椅子から転げ落ちました。
お父様は諦めたように笑い、アンナは「やっぱりこうなりましたか」と涙を拭っています。
私の物語は、ここで一旦の区切りを迎えます。
悪役令嬢として断罪され、婚約破棄され、辺境へ追放されたあの日。
私は絶望ではなく、自由と筋肉を求めて走り出しました。
そして今、私の隣には、世界で一番不器用で、世界で一番逞しい「推し」がいます。
「さあ、アレクセイ様! 披露宴の前に、まずは夫婦初めての共同作業……城の全窓磨き一周、いかがですか!?」
「……ふっ。いいだろう。……ただし、私に勝てたら、だ」
「望むところですわ!!」
新郎新婦がウェディングドレスと正装のまま、モップを持って城壁を駆け上がるという、前代未聞の結婚式。
北の地に響く私たちの笑い声は、冬の寒さを吹き飛ばし、これからも末永く、熱く太く、続いていくのでした。
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