魔法少女はそこにいる。

五月七日ヤマネコ

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第二章 魔法少年唯一無二(オンリーワン)

彼らの望んだ戦場

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 トリガーは歩いてバレッタの元へ行くと彼女をそっと抱きしめた。

「いいかい、ベッキー。 僕はこの体を失ってしまうが、これは死ではないんだ。 僕はお前の大好きな先輩とひとつになるんだよ。 だから泣かないでおくれ」

「で、でも……おにいちゃん……」

 バレッタは更に顔を涙でぐしゃぐしゃにして彼にしがみついて肩を震わせた。

「と、トリガー……」

 ルーも泣きながら手で口を押えて彼と向き合った。

「ルー、ありがとう。 僕は君が僕を好きでいてくれた事をずっと知っていたよ」

 ルーは大きく目を見開くと、その目にさらに涙をあふれさせた。

「……いじわる」

「ごめんよ」

 トリガーは彼女の水色の髪をそっと撫でて微笑んだ。

「ルー。 これを持っていってくれないか」

 彼は胸に手を入れると、リカルドにもらったスィグ・ザウエルP-226を取り出してそれを彼女に差し出した。

「リカルドさんにもらったものだよ。 このまま世界と一緒に朽ちさせるのは忍びないからね」

 ルーは泣きながらそれを受け取って頷いた。

「わかったわ……あなたの想いとリカルドさんの想い、私が両方受け取るわ」

「頼むよ、ルー」

 トリガーはそう言ってまた微笑んだ。

 すると泣きじゃくるバレッタを抱きしめたままの彼の背中にしがみついてきた者がもう一人いた。

「私……いやよ……絶対いや!!」

「ラム……」

 トリガーはふり向いて、泣きながら彼の背中にしがみつく彼女にも笑いかけた。

「今までずっと僕を支えてくれてありがとう。 サン・ジェルマンにもらった記憶が甦ってきて、こうなるのがわかった時から君になんて説明しようかと思っていたんだけど……言い出せないままその時が来てしまったよ。 ごめん、ラム」

「言わないで!」

 ラムは次から次へと溢れる涙をトリガーの背中に顔を押し付けて堪えようとした。

「私は……あなたにティアマトに連れられていった時から、ずっとあなたの側にいてあなたの力になろうって決めたのに……こんな別れがくるなんて……」

「本当にごめんよ、ラム」

 トリガーが目を伏せると、そこへキルカとスピカもやってきた。

「トリガー。 わかってはいた事だけど……やっぱりさみしいの」

 キルカは寂しそうに笑った。

「私もですわ……。 幼い頃から一緒に育ってきたあなたと、こんな形でお別れしなくてはいけないなんて……」

 スピカはうっすらと目に涙を溜めて、鼻を啜った。

 トリガーはバレッタとラムを体から離させると膝を突いて恭しく頭を下げた。

「姫様方には……本当によくしていただきました。 このトリガー、お二人から頂いた御恩は忘れた事などひと時もありません」

 キルカとスピカは彼の手を取った。

「でも、あなたは消えてなくなってしまうわけではないのよ。 ……また会えるの」

 キルカは彼の手を握って小さく頷いた。

「はい……また、お会いしましょう。 キルカ様、スピカ様」

 彼はそう言って二人の手を固く握った。

「そうですわね……。 共に新世界へ参りましょう」

 スピカは涙で目を真っ赤にしながら言った。

「それでは圓道イクロー。 あとは全て君に託す。 ……外の世界に出るタイミングについてだが、圓道イクローが死ぬ前のキルカ・ティアマトが十七歳の時代へ出て、彼の死を防ぐのだ。 そうすれば彼女はこの世界を作ろうとはしないだろう。 案ずる事はない。 この世界は元々外の世界とは時間の概念が切り離されているのだ。 どんな時間にでも出ていける」

 サン・ジェルマンはそう言って、イクローの所まで来ると握手を求めた。

「私が君に統合されれば全てを君は理解するとは思うが……。 周りの諸君のために言っておこう。 我が愛する学園の魔法少女諸君! 我々の目的は……『魔法少女』と戦う事だ」

 魔法少女たちはそれを覚悟はしていたが、思わず息を呑んだ。

「だが、勝ち負けは関係ない」

 彼の言葉にイクローはトリガーの所にいるキルカを見た、彼女はこくこく、と頷いた。

「なの。 この戦いの目的は彼女たちを殺す事、もしくはわたしたちが死ぬ事」

 キルカの言葉に生徒たちは騒然となった。

「どういう事なの? 相手か私たちが死ぬのが目的?」

 オスティナが動揺してメガネを触りながら聞いた。

「そうだ、オスティナ・コングラートラピス・ラハム。 ……どちらが死んでも我々の目的は成就される。 それは、この私やトリガーと同じだからだ」

「どういう事でぇ?」

 オスティナの隣でライアットが腕を組んで声を上げた。

「オリジナルか、我々か……どちらか一方が死ねばその人格、記憶、能力、その全てが生き残った方に統合されるのだよ。 つまり……最終的に一人に統合させる事が我々の主目的、という事だ。 つまり我々の主な目的は二つ。 オリジナルの圓道生朗を殺させない事、そして魔法少女か我々どちらかが死ぬ事だ。 統合されたら我々の意識は向こうへか、こちらに残っていく。 それによって我々は生き残り、このような実験世界を作る事をやめさせられる。 ……だから死んで も殺しても、どちらでも我々の勝利なのだよ」

「そういう事か……」

 イクローは拳を握りしめた。

「こんな悲しい世界を作らせないために……俺たちか魔法少女かが死ななくてはならない?」

「その通りだ。 君にはもう一つ試練がある。 これも皆のいる前で言っておこう。 ……君だけは一番最後に自らその命を絶たねばならない。 何故ならば……オリジナルの圓道生朗はまったく戦闘能力を持たない、魔力を持っているだけのただの人間だからだ。 もし彼を殺してしまうような事になったらキルカ・ティアマトが何をするかわからない。 それで彼が君に統合されたとしても、それを彼女が認めなかったら……そのリスクはできれば避けたい」

 イクローは唇を噛みしめながら頷いた。

「……つまり……俺は最後の一人になるまで生き残らなければならない」

「そうだ。 もしくは可能であれば、彼を攫って君たち同士で話をしてみるといいかも知れない。 基本的には人格は君とほぼ同じと言っていいくらい近いのだ。 話せばわかってくれる可能性は高い」

「周りの魔法少女がおとなしくそれを許せば……な?」

 イクローは苦笑して言った。
 サン・ジェルマンも頷く。

「一番の障害となるのは……まず、キルカ・ティアマトだろう、これは当然だな。 そして、スピカ・ティアマト。 そして一番恐ろしいのは、魔法少女バレッタ、ブルースティール、この二人だろう」

「……なんだか妙な気分ですわ」

 スピカが眉を顰めて首を傾げた。
 ルーとバレッタも涙目のままだが顔を見合わせた。

「……とりあえず、あたしがまずはそのオリジナルのあたしを排除するっす。 それがセンパイ……いいえ、おにいちゃんのためになるなら」

 バレッタは決意を秘めた表情でそう低く唸るように言った。

「そうね。 私もオリジナルの私を排除するべく動かなくてはいけないわね」

 ルーも言ってバレッタと頷きあった。

「そうだ。 君たちがそうであるように……圓道生朗の守備の要は君たち二人だからな。 もちろん他の者が倒しても構わないわけだが……君たち自身がそれでは納得できまい?」

 サン・ジェルマンの言葉にバレッタとルーは頷いた。

「ハッ! おもしれェ……文字通りのサドンデス・ルールってわけだ……!」

 ライアットはそう言って自らの右手の拳を左手で受け止めた。

「あたし、本気のあたしと戦ってみるの楽しみだな~!」

 メタルカは舌なめずりをしそうな妖しい笑顔を浮かべた。

 イクローはキルカの前へと歩いていくと彼女の手を取った。

「キルカ……。 お前はこれを知っていたんだな?」

 彼女はこくこく、と頷いてふんわりと微笑した。

「なのなの。 わたしもサン・ジェルマンの記憶をもらったから……。 いつかこの日が来るとわかっていたの。 だからイキロ、あなたに会えた時は嬉しくて舞い上がってしまったの」

 彼女の隣でスピカも笑顔を見せた。

「わたくしもこれで腑に落ちましたわ。 お姉さまのおかしな言動や行動……。 イクローに感じた妙な懐かしさ。 ……こういう事でしたのね」

 そして彼女はイクローとキルカの合わさった手の上に自分の手を重ねた。

「それでは……わたくしはティアマトの姫騎士として、誇りを持って恥ずかしくない働きをするだけですわ」

「頼りにしてるぜ、スピカ」

 イクローの声に彼女は頬を赤く染めて頷いた。

「……幸運をグッド・ラックだ、圓道イクロー」

 トリガーが彼に右手を差し出した。

「トリガー。 あんたも一緒に行くんだろ?」

 イクローは少し悲しそうな笑顔で彼の差し出した右手を叩いた。
 トリガーは一瞬驚いた顔になってから目を伏せて、小さく笑った。

「そうだな……」

 そして彼はキルカやバレッタやルーたちの顔を見回した。

「姫様たち、ラム、ルー、ベッキー、そして今はここにはいないけど、リズ……君たちのおかげで僕は幸せだった。 ありがとう」

「トリガー……」

 ラムとールーは顔をくしゃくしゃにして抱き合った。

「……お前の想いは全部俺が受け継ぐ。 安心しろ……ってこれから本人になるんだったな、なんとも妙な気分だぜ」

 イクローは言ってトリガーの肩を抱いた。

「あばよ……」

「さらばだ……また会おう」

 二人は抱き合ったまま、別れを告げ合った。

 次の瞬間、トリガーは真っ白な塩の塊になって砕け散った。

「あ、ああッ!! おにいちゃん!!」

 バレッタは叫んでまた座り込んで大声で泣きだした。

 イクローの手にはトリガーの胸があった辺りに小さく発現させた魔導杖があった。

「すまねえ……でも、この役目は……俺がやらなくちゃいけないんだ。 トリガーの全ての想い、そしてあいつを消した事への憎しみも全部背負って……」

 そこまで言って、イクローは突然白目を剥いて昏倒した。

「イキロ!」

 キルカが駆け寄った。
 それをサン・ジェルマンが見下ろして、まるですべてを悟って満足したかのような顔で笑った。

「……『欠片』やコピー、オリジナルと統合されるとショックで数日気を失うのだよ。 それでは私も行くとしよう……我が愛する魔法少女諸君、健闘を祈る。 ……いや、これは別れではなかったな。 また会おう!」

 彼は言って、右手をすっと伸ばすとそのまま自らの首を切り落とした。
 そして彼の体もまた真っ白な塩の塊になるとさらさらと崩れていった。

 キルカは意識を失くしたイクローを抱き上げながら、顔を上げた。

「……さぁ、みんな、この世界を出るの。 わたしたちはオリジナルたちにとっての敵、悪になるのよ」

 学園の魔法少女たちはみんな魔導鎧を身に着け、魔導杖を発動させるとそれを構えて、声を上げた。

「魔法少女によき死を! 我々によき死を!!」


<第二章 完>
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