魔法少女はそこにいる。

五月七日ヤマネコ

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最終章 魔法少女はそこにいる

蠢く悪意

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「なぁ? 俺……サン・ジェルマン、いやあっちの俺と二人きりで話をしてみたいと思うんだ」

 イクローが突然そんな事を言い出したので、皆驚いて彼の顔を見た。

「危険はないのかしら?」

 オスティナが考え込むように首を傾げた。

「それは大丈夫だ。 だってあいつらの目的の一つは俺を死なせない事なんだろ? なぁ、バレッタ?」

 イクローが訊ねるとバレッタはどんぐり眼をくりくりと動かしながら頷いた。

「そうっす。 そういう意味での危険はないっすよ。 おにいちゃんが死んだらその時点でフラスコの敗北っすから」

「だよな」

 イクローはバレッタに頷き返して、そのままオスティナを見た。

「俺はどうしても気になるんだ。 あっちの俺はまだ何かを知っているような気がしてさ」

 彼はそう続けて膝の上に肘を載せて組んだ手の甲に顎を載せる。

「そうねぇ~。 あの人はまだ何かを隠してる感じがするって、あたしもずっと思ってるよ」

 メタルカが顎に右手の人差し指を顎に当てて眉根を寄せた。

「そうだな。 そもそも元のサン・ジェルマンという人自体がつかみどころのない人物だったしな……」

 黒井も感慨深げにそう言ってタバコをふかした。

 キルカは心配そうにイクローの手をつかんで彼を見つめた。

「でも……イキロ一人は心配なの……」

 そこへ部屋のドアが開いて一人の魔法少女がお茶を運んできた。
 その魔法少女を見てバレッタが目を丸くする。

「あんたはチェリア! チェリアじゃないすか!」

 チェリアは顔を上げて、複雑そうな表情で愛想笑いをした。

「バレッタ……。 こういう時もひさしぶり、って言うのかしら?」

 彼女はそう少し皮肉っぽく言いながらお茶をテーブルへ置いていった。

「そうか……あたしがフラスコのあんたをブッ殺したから、オリジナルのあんたに統合されたんすね?」

 するとチェリアはお盆を持ったまま、手を広げた。

「そういう事になるわね。 なんとも言えない気分だけれど……こうして半分とはいえ自分を殺した相手に会うっていうのも」

「えぇと……その節はお世話になったっす」

 バレッタがそう言うとチェリアは吹き出した。

「ほんとおかしな気分ね。 ……あの時はフラスコの圓道イクローがこちらの圓道イクローに会いたいって言うから攫いに行っただけなのだけどね……」

 彼女のその言葉を聞いて、イクローが指を鳴らした。

「そうか! 統合されたお前らはフラスコのアジトを知ってるんだよな?」

 チェリア、バレッタとメタルカ、スピカとルー、それに黒井は顔を見合わせた。

「そして俺は切り札を持ってる」

 イクローがそう言うと皆興味深そうに彼の言葉を待った。

「俺はあっちのイクローの真名を知ってるんだ」

 統合された魔法少女たちは皆驚いた顔で目を瞠った。

「真名? なんなのそれは?」

 オスティナが眉間に皺を寄せて訊くと、バレッタが口を開いた。

「フラスコの魔法少女、それに向こうのおにいちゃんもっすが。 本当の名前、すなわち真名を知ると魔力を封じる事ができてしまうんすよ」

「なんですって!? それは……本当に切り札だわ!」

 オスティナの驚く声を聞いてイクローは力強く頷いてみせた。

「最悪こっちがその気になればあいつの魔力を封じる事ができるんだ。 それを盾に向こうのアジトへ乗り込む。 ……統合されたみんなは一緒に付いてきてくれないか?」

 イクローが言って皆の顔を見回す。

「……是非もない。 私は契約で君に従うようになっているわけだしな。 当然同行しよう」

 まずは黒井がそう言って同意しながらタバコの煙をぷは~、と言いながら吐き出した。

「あたしもだね~。 面白そうだしぃ!」

 メタルカも大きな目を見開いて嬉しそうに笑う。

「ならば、わたくしもご一緒させていただきますわ」

 スピカは優雅にティーカップを手に持ちながら言って鼻をつん、と持ち上げた。
 そしてバレッタは、にぱ、と笑ってイクローを見て嬉しそうに叫ぶ。

「あたしも当然一緒に行くっすよ! おにいちゃんを守るために帰ってきたんすから!」

 イクローは嬉しそうな顔でまた皆を見回して頷いた。

「ありがとう……。 みんな」

 ルーはまた苦悩するような顔をして目を伏せた。

「ごめんね……イクロー。 まだ私は……」

「いいさ。 強制じゃないんだ。 ルーはゆっくり考えればいいって」

 イクローはそう言ってルーの肩を軽く叩いて、彼女に笑顔を向けた。
 そして彼は彼女に耳打ちをした。

「え? イクロー?!」

 ルーが驚いた顔で彼を見ると、イクローはニッと笑う。

「一応、保険さ」

 そして手を上げて去っていく彼の姿をルーは見つめながら拳を握りしめた。

「なぁ、バレッタ」

 そしてイクローはバレッタを呼んだ。
 彼女はどんぐり眼を瞬かせてお茶を飲みながら彼を見る。

「なんすか? おにいちゃん」

「その真名で魔力を封じる魔法ってのを教えてくれ。 たぶん今の俺なら少し魔力があるからそれくらいは使えそうだ」

「あぁ、いいっすよ!」

 彼女は、にぱ、と笑って高速詠唱すると小さな緑色の魔法円を作ってそれを指先でイクローに向かって飛ばした。
 その魔法円は彼の額に飛んでいくとシャボン玉のように弾けて消える。

「これでおにいちゃんは魔力封じの禁呪が使えるはずっすよ」

「……おお。 ほんとだ。 呪文が思い浮かぶ! 便利だなぁ」

 イクローが驚くとバレッタは面白そうに笑ってそれを見ていた。

「イキロ……」

 そんな彼の横でキルカが不安そうに顔を上げると、イクローは彼女に優し気に笑いかけた。

「キルカ、心配するなって。 そもそも俺を殺す気はむこうはないんだしさ」

 キルカはそれでも心配そうにじっと彼を見つめて小さな声で言う。

「でも……でも……心配なの。 わ、わたしも行ってもいいかしら?」

「いや。 キルカ、お前はいわば切り札だ。 お前が強いのは知ってるけど……それでも今回はここに残っていてほしい」

 イクローは少し真面目な風にそう言ってキルカの手を握った。

「それじゃあ……せめて、これだけでも……」

 キルカはそう言いながら高速詠唱をして赤い魔法円を作ると、それでイクローの身体を包んだ。

「わたしの魔法防壁なの」

「ああ、ありがとうキルカ」

 イクローは笑顔で彼女をそっと抱きしめて彼女の手をさらに握りしめた。
 バレッタが側に来て二人握り合う手に自分の手を載せる。

「姐さん! あたしが何があってもおにいちゃんを守るっす! だから安心してくださいっす!」

「イキロ……、バレッタ……。 うん、わかったの。 でもほんとに気を付けてなの」

 そして三人の側にルーも来ると、三人の拳に彼女も手を載せた。

「キルカとは私が一緒にいるわ。 もしもの為にあなたたちに魔導マーカーを付けて追える限り追ってみるわ」

「ありがとうなの、ルー」

 キルカはふんわりと笑って彼女を見た。
 ルーは笑顔を返しながら高速詠唱して青い魔法円をふたつ発生させるとそれをイクローとバレッタに投げるようにして二人にマーカーを付けた。

「今の私にできるのはこれくらいだから……。 でも本当に気を付けて? イクロー、バレッタ」

 ルーの言葉に二人は頷いて見せる。

「大丈夫っすよ。 ルー、あんたにもわかるっしょ? 今のあたしたちは前の倍の二人分の魔力があるっす。 何かあってもそうそう簡単にはやられないすよ」

 バレッタが少し不敵な笑みを浮かべながら言うとルーは頷いた。

「でも、サン・ジェルマンはどこか底知れない所があるから……。 そういう意味では私もキルカと同じように心配だわ」

「重々承知っすよ」

 バレッタはそう言ってルーに拳を突き出した。

「そうね。 信じるわ、バレッタ」

 ルーは微笑して彼女の拳に自分の拳をぶつけ返した。

「さぁ、乗り込むぜ!」

 イクローが顔を上げて言うと、皆頷いた。





「やあ……圓道生朗えんどういくろう。 まさか君がこちらに出向いてくれるとは思っていなかったよ」

 終郎ついろうはアジトの広いロビーの椅子に腰かけたまま、まるで彼が現れるのを知っていたかのように余裕を持ってそう口にした。
 彼の左右にはキルカ・ハニーオランジェ・ティアマトとライアットの姿がある。

「サン・ジェルマン……、いや、圓道イクロー。 俺はお前ともう一度話がしたいと思ってここへ来た」

 イクローは彼を睨めつけるようにして、そう宣言した。

「まぁ、そう怖い顔をしないでくれ。 我々は君をどうこうするつもりはないよ」

 終郎はそう言って、両手を挙げて降参するようなポーズを取った。

「懐かしい顔も多いようだしね。 これはうっかりしていたよ。 統合された彼女たちは当然この場所を知っているわけだね」

 彼はにっこり笑ってイクローを取り囲む統合された魔法少女たちを見回した。

「ああ、久しぶりだな。 圓道イクロー、いや学長か?」

 黒井が加えタバコで不敵な笑みを浮かべながら訊く。

「どちらでも構わないですよ、黒井先生」

 終郎はにこやかにそう応えた。

「うっわ! ほんとにライアがいるじゃん!」

 メタルカがライアットを指さして叫ぶと、彼女は不機嫌そうにちらりと視線を移した。

「うるせえよ、ルカ! てめェこそなんでそっちにいるんでェ? まぁ、てめェのこったからどっちにもつかねえかと思ってたけどよ」

「まぁ、成り行きでねぇ~って、あたしこればっか言ってない?」

 メタルカはそう言って周りの魔法少女に縋るような目線を向けた。
 スピカは胸のあたりで手を握りしめて、唇を噛んだ。

「……お姉さま」

「スピカ……」

 キルカは彼女を見つめて、ふんわりと笑顔を浮かべる。

「あなたも無事統合できたのね……ご苦労様だったの」

「お姉さま……」

 スピカは目を伏せて哀しそうな表情を浮かべた。
 彼女ももう言葉を紡ぐ事はできなかった。

「まぁ、こうしていても仕方がない。 お互い今は戦う気はないという事なのだろう? とりあえず座ってくれたまえ」

 終郎はそう言うと魔法で来訪者たちの人数分の椅子を出した。
 イクローたちが椅子に座ると彼はまた一同を見回して、楽し気な笑みを浮かべた。

「……とはいえ、保険はかけさせてもらうよ」

「保険だと?」

 イクローが怪訝そうな顔で聞くと、終郎は高速詠唱を始めた。

「て、てめえ! 何をするつもりだ!」

 イクローが立ち上がると終郎は呟くようにこう言った。

「我、圓藤イクローの名に於いて、君たちに真名まなをもって命ずる! 汝、レベッカ・パルメ・ズィターノ!、アガット・ノワール!、ステラ・エ・マルガリータ・ティアマト! リコ・メターラ・エスティニア・キシャム・XV世! 我が許可あるまで……その全ての魔導権限の使用を禁止する!!」

 彼が禁呪を唱えたのを見て、イクローは目を見開いて口を押えた。

「な?! なに……! なぜ……私の真名を?」

 黒井が呻いて頭を押さえる。
 アガット・ノワール、それが彼女の真名であった。

「わ、わたくしの真名を……? まさか……お姉さま!?」

 スピカも苦しそうに呻くと、キルカが哀しそうな目で彼女を見て、ふるふる、と首を振った。

「あ、あたしの真名なんてどうやって知ったのぉ……?」

 メタルカも呻くような声で叫んだ。
 バレッタは頭を押さえながらも、気丈に終郎を睨むようにして立ち上がった。

「……あたしの真名は元々お兄ちゃんは知ってるっすからね。 覚悟はしてたっすよ。 ただし、禁呪で封じる事ができるのは……あたしたちの半分の魔力だけっす!」

 彼女が叫ぶように言うと、終郎はやれやれというように手を広げて見せた。

「もちろん、わかっているさ。 だから言ったろう? これは保険だって。 今の倍の魔力の君たちに暴れられたら堪らないからね……。 君たちの真名はサン・ジェルマンが知っていたんだ。 話が済んだら禁呪は解除してあげるよ、安心したまえ」

 スピカはしばらく俯いていたが、キッとして顔を上げた。

「ごめんなさい! お姉さま!! ……我、スピカ・ブラウコメイティス・ティアマトの名に於いて、真名まなをもって命ずる! 汝、キリエ・ラ・アンジェリカ・ティアマト! 我が許可あるまで……その全ての魔導権限の使用を禁止する!!」

 彼女が禁呪を唱えると、キルカはふらりとして壁によりかかって、スピカを見て微笑して頷いて見せた。

「本当に……ごめんなさい……ごめんなさい……お姉さま!!」

 スピカは目から涙をぽろぽろと零しながら崩れ落ちるように床に膝を突いた。

 そしてずっと口に手を当てていた、イクローは終郎を睨み付けた。
 そして口を開いた。

「……我、圓道生朗えんどういくろうの名に於いて、真名まなをもって命ずる! 汝、円藤終郎えんどうついろう! 我が許可あるまで……その全ての魔導権限の使用を禁止する!!」

 終郎は驚いた顔で目を剥いた。

「な、なに? ……まさか……お前が禁呪を使えるだと?」

 そして彼はガクリと膝を床に付くと頭を押さえて苦しみだした。

「……口元を隠してたのは詠唱してるのがバレないようにさ。 俺には高速詠唱ができないから時間がかかるんでな!」

 イクローは終郎を見下ろしながらそう言った。

「終郎! これでお互い隠し事はなしだぜ?」

 終郎は頭を押さえて、床でのたうち回るかのように苦しみながら、今までの余裕のある口調ではなく明らかに悪意の籠った呪詛の声を上げた。

「おのれ……おのれ!! 圓道生朗!! ……ぐあぁ……キサマ! そんなに殺されて私に統合されたいのか!!」

 イクローは眉を顰めた。

「……なるほど、それがお前の本音か? 終郎……いや、サン・ジェルマン?」

「なん……だと?」

 終郎が苦しみながら彼を驚いたような顔で見つめた。
 イクローは彼を睨み付けながら、口を歪めて不敵な笑みを浮かべた。

「……ああ、統合した魔法少女たちを見ていて気付いたよ。 お前はあまりにも俺とかけ離れすぎてる。 ……つまり、てめえは俺じゃない、ってな」

「おのれぇぇ!!」

 終郎は床に伏せたまま、痙攣するような動きをしたかと思うと、そのまま動かなくなった。
 少しすると彼は虚ろな目で顔を上げた。
 そして彼はこう叫んだ。

「我、圓藤イクローの名に於いて、君たちに真名まなをもって命ずる! 汝、レベッカ・パルメ・ズィターノ!、アガット・ノワール!、ステラ・エ・マルガリータ・ティアマト! リコ・メターラ・エスティニア・キシャム・XV世! 我が許可によりその全ての魔導権限の使用を開放する!! そしてこの禁呪は我により二度と発動される事はないっ!!」

 彼はそのまま、倒れ込むように床に寝転んで咳込んだ。
 寝転んだまま彼を見下ろすイクローを見つめて、少し笑顔を浮かべる。

「……ありがとうよ。 おかげで一時的とはいえ、俺に戻れたぜ」

「イキロ!!」

 キルカが叫んで駆け寄ると彼に抱きつく。
 イクローはそのまま手を伸ばして彼を助け起こした。

「あぁ……あんたは間違いなく俺みたいだな?」

 起き上がると終郎はイクローを真面目な顔で見つめて言った。

「時間がない。 手短に話そう」

「時間がない? とりあえず魔力とともにサン・ジェルマンは封じられたんだろう?」

 イクローが聞くと終郎は首を振った。

「ヤツの魔力は強大だからな。 恐らくそう長い間はもたない、すぐに禁呪を破って出てくるだろう。 そこで頼みがある……」

 終郎は決意を秘めた瞳で彼を見て言った。

「……今のうちに俺を殺してくれ!!」

「なんだって?!」

 イクローが驚くと、終郎ついろうは少し笑って頷く。

「今、俺を殺せば……俺はお前に統合されてサン・ジェルマンは消え去る。 だから……今のうちに俺を殺すんだ!」

「つ……終郎……」

 終郎はイクローの手を握った。

「やるんだ……イクロー。 このチャンスを逃したらあいつを葬る事ができなくなる……」

「ダメだ!! そんなのはダメだぁぁッ!!」

 ライアットが叫んで、二人の間に割って入った。

「ライア! ……頼む!」

 終郎が彼女を見て言う。

「いやだ! あたいはそんなのはいやだよ!! イクローサマッ!!」

 ライアットは首を大きく振った。
 彼女らしくなく、その動きに涙が飛び散った。

「お前にもわかってるはずだろ? これは死じゃない、俺は元のイクローに統合されるだけだ」

「でも……でもよゥ……。 あたいはこんな最後は見たくねェ……」

 ライアットは俯いて唇を噛んだ。
 するとキルカがそっと彼女の腕を握った。

「ライア……いいのよ。 これでいいの。 そうしないと……イキロはイキロじゃなくなったままなの」

「キルカ……てめェ……わかっててイクローサマの側にいたのか?」

 ライアットに問われて、キルカはゆっくりと頷いた。

「イキロがもしもとに戻る事があったら……わたしの手で……殺そうと……思ってた……の」

 キルカは言いながら泣き顔になって声を詰まらせた。

「……てめェ……。 あぁ……ちくしょう! やっぱ……キルカ、てめェには敵わねえな……」

 ライアットはその場に膝を突いて泣き崩れた。

「……我、スピカ・ブラウコメイティス・ティアマトの名に於いて、真名まなをもって命ずる! 汝、キリエ・ラ・アンジェリカ・ティアマト! 我が許可により……その全ての魔導権限の使用を開放する!!」

 スピカが涙目でそう叫んだ。
 キルカは泣き笑いの顔で彼女を見つめた。

「ありがとうなの……スピカ」

 そして彼女の背後の空間にひび割れができていった。
 剣の柄がその割れ目からゆっくりとせり出てくる。
 キルカはそれを掴むと一気に引き抜いた。

「イキロ……」

 彼女はその大きな剣を構えて終郎を見つめてぽろぽろと涙を零した。
 終郎は優し気に微笑んで彼女に頷いて見せる。

「頼むよ……キルカ。」

「うわあぁぁぁぁぁ!!」

 キルカが叫び、次の瞬間終郎の胸に彼女の剣が深々と刺さっていった。
 終郎は口から血を吐き出しながら、そっとキルカを抱きしめる。
 その勢いでその剣はより一層彼の身体へ深々と食い込んでいった。

「ありがとう、キルカ。 ……また会おうな」

 終郎は優しい顔のままそう言うと次の瞬間、塩の塊と化して砕け散った。

「ああぁぁぁ!! うわあぁぁぁぁ!!」

 キルカはその塩の塊の上に倒れ込んで子供のように泣き喚いた。
 彼女の手から落ちた剣の形の魔導杖は光の粒子になって消えていく。

 そしてその様子を呆然としながら見ていたイクローもまた、そのままふらついてばったりと倒れ込んだ。

「おにいちゃん!!」

 バレッタが駆け寄って彼の身体を抱き起こした。
 イクローは完全に意識を失っていた。

 スピカは塩の塊を掻き抱くようにして泣き続けるキルカの側に座って、そっと彼女の背中に手を当てた。

 メタルカは不機嫌そうな顔でライアットの側に歩いていくと、彼女の肩を抱くようにして言った。

「ライア、あんたもあたしたちの所へ来なよ」

「うるせぇッ!! あたいのこたぁほっといてくれ……」

 肩を震わせるライアットをそのままメタルカは後ろから抱きしめた。

「ほっとけるわけないじゃん……」

「……なんでだよッ!」

「知らないよ!!」

 二人はそのまま、声を上げて泣き出した。

「さて……フラスコの魔法少女諸君!! 生き残った者は私たちと共に来るがいい! ……統合されている者もいるはずだな!」

 黒井は声を上げて周囲にいる魔法少女たちに呼びかけた。
 彼女の前に一人の魔法少女がおずおずと歩いてきてフードに隠された顔を上げた。

「黒井先生……私たちはどうなるんですか?」

「お前は……たしか、第三生徒会の?」

 黒井が彼女を見て声を上げると、少女は頷いた。

「エミシオン・ヴィシラーニです……」

「あぁ、ルードゥスの放送をやってた奴か」

「はい」

 黒井はやれやれというように手を広げて見せた。

「……これからどうなるかなど、私は知らん!」

「せ、先生!?」

「そもそも、もう私はお前たちの教師でもなんでもないからな。 どうするかは自分で決めろ。 だが、とりあえずここにいても仕方がないだろう?」

 エミシオンは目を見開いていたが、唾を飲み込むと少し難しい顔になって頷いた。

「先生。 あまりうちの子をいじめないでください」

 そう声をかけられて黒井がそちらに視線を移すとそこにいたのは、オスティナとアマイアだった。

「そうか……そういえばお前はまだ統合されていないのだったな」

「ええ……」

「で、お前はどうする? オスティナ・コングラートラピス・ラハム?」

 黒井はじろり、と彼女を見据えてそう問うた。
 オスティナは眉間に皺を寄せて、首を横に振った。

「そんなの……私にもわかりませんよ」

「まぁ、そうだろうな。 ……とりあえず自分のオリジナルに会ってみるか?」

 困惑した表情のまま、オスティナは頷いた。

「そうですね……。 どちらにしろ私たちにはもうあまり時間がない……」

「そうだな」

 黒井はそう言って横を向くと口にタバコを咥えた。


 そのまま混乱するフラスコの魔法少女たちの奥から、一人の少女が歩み出てきて愕然とした顔になった。

「そんな……イクローさん? そんな簡単に……?」

 彼女はアオイだった。

「アオイちゃん……」

 バレッタがイクローを抱き起したまま、彼女の名を呟いた。

「ねぇ、バレッタちゃん? こんな……こんな結末なの? わたしは、わたしはまだ何もしていないのに?」

 彼女は床にぺたん、と座り込むと呆然としたまま、親友を見つめた。

「アオイちゃん……とりあえず、あたしたちと来るっす。 ね?」

 バレッタは優しく彼女にそう語りかけた。
 アオイは茫然としたまま、こくん、と小さく頷いた。

「本当にこれで終わりなのだろうか?」

 黒井はタバコをふかしながら、そう呟いた。

「え?」

 アオイは驚いた顔で顔を上げる。

「あまりにも……呆気なさすぎる。 サン・ジェルマンはこうなってみるとあまりにも狡猾な男だった。 ……こんな簡単に事が済むとは思えん」

 黒井の言葉に、皆息を飲んだ。
 アオイは何か考え込むように難しい顔をして黙り込んだ。

(たしかにそうだ……。 もし本当に全て終わったのなら、いつもならわたしは消えていくはず。 なのにまだここにいる……)

「アオイちゃん? 大丈夫っすか?」

 心配そうに聞くバレッタにハッとしてアオイは慌てて首を振った。

「う、うん……まだちょっと混乱してるだけ……」

「そうっすか……。 ならいいんすけど……」

 バレッタが尚も心配そうに彼女の顔を見つめるのに、アオイは僅かに笑顔を返した。
 そして気を失って倒れているオリジナルのイクローに視線を移した。

(人格や記憶、意識はこちらのイクローさんに統合されているはず……。 気が付いたら彼と話してみよう。 何かわかるかもしれない)

 アオイはそう考えて、頭を軽く振るといつもの表情に戻っていった。

「とりあえず、オリジナルの拠点へ撤収しよう。 残っていたい者はここにいても構わんが……。 ここにいても何も変わらんぞ? あと二か月もすればお前たちはリセットされて消えていくだけだ」

 黒井は冷たくそう言い放って、周りの魔法少女たちを見回した。
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