魔法少女はそこにいる。

五月七日ヤマネコ

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最終章 魔法少女はそこにいる

それぞれの想い 1

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 深い、とても深い……昏い闇の中にキルカはいた。
 以前にも経験がある。
 これは自分の深層心理の奥底の世界。
 何もない、ただただ深い真っ黒い闇だけが広がっている世界。

「……いるのね? もうひとりの心の中のわたし」

 キルカは以前とは違い、毅然とした態度でその場に立って深い闇を見つめてそう誰もいない闇に訊ねた。
 すると闇の中に渦のようなものができて、それはやがてキルカの姿になった。
 彼女は言う。

「もう、わたしが何か……わかったのね」

 もう一人のキルカは静かに言って微かに笑った。
 キルカはこくこく、と頷く。

「ええ、もうわかったの。 あなたは……わたしの魔力そのもの。 闇に囚われてわたしが封印してきた魔力なのね」

 もう一人のキルカもそれを聞いて、こくこく、と頷いた。

「その通りなの。 でも少し違うの」

 魔力のキルカの言葉にキルカは訝し気な顔をして首を傾げた。

「わたしはあなたの魔力そのものであると同時に……長い間受け継がれてきた、ティアマトの魔力。 あなたたちが『呪い』と呼んでいたもの」

 彼女がそう言った瞬間、彼女のキルカそっくりの魔導鎧を象った衣装は真っ赤な血飛沫の模様に塗れた。

「ティアマトの呪い……?」

 キルカは目を見開いて驚きとともに彼女の姿を見つめた。

「その……『呪い』の力が開放されるの?」

 そしてそう訊ねる。
 魔力のキルカはこくこく、とまた頷いた。

「なの。 この力を得れば……恐らくあなたはもう何者にも負けない力を得るの。 ……でも……まだ少し足りないの」

 魔力のキルカは顔を上げて、少し遠い目をした。

「あとは……エメランディアの分……彼女の分の呪いがあれば、この力は開放されるの」

「お母さまの?」

 キルカは愕然とした。

「でも……お母さまは魔法界にいらっしゃるの……。 二か月後にゲートが開くまではお会いできないのよ……」

 キルカは寂しそうに俯いて、愛する母の姿を思い出しながら言った。
 魔力のキルカはほんの少し笑顔を浮かべて首を横にふるふる、と振った。

「もうすぐ届くの。 ……場所を教えるの」

 彼女はそう言って指を立てて赤い魔法円をこさえると、それをそっとキルカの側へ飛ばした。
 キルカはそれを受け取って、自らの額に当てるとそれはパチン、とシャボン玉のように消えた。

「ティアマトの呪い……これはあまりにも強すぎる魔力を太古のティアマトの女王がその命を犠牲にして封じ込めたものなの」

 魔力のキルカは静かな声でそう言って、また遠い目をした。

「あまりにも強すぎる魔力……代々ティアマト王家にはそれが受け継がれているのよ。 古代のティアマト王家の者達はそれを恐れたの。 この強すぎる力を振るえばあっという間に魔法界は統一されてしまうの」

 キルカは不思議そうな顔をする。

「統一されてはいけないの? そうすれば戦いのない魔法界が創れるのではないの?」

 魔力のキルカは少し厳しい顔をすると首を横に振った。

「……そんなに簡単ではないのよ。 魔法少女は元来、本能的に戦いを求めるものなの。 あなたも知っているでしょう? ……戦う相手のいなくなった魔法少女が次に何をするか……それは自明の理なの」

 キルカはハッとした顔になって目を見開いた。

「……人間界……人間界に勢力を拡大しようとするのね? それを……それをさせない為に、ご先祖様たちはティアマトの魔力を封印したのね?!」

 魔力のキルカはこくこく、と頷いた。

「なのなの。 でも……今は状況が変わったの」

「どう、変わったの?」

 魔力のキルカは、キルカをじっと見据えた。

「一人の、大きな魔力持つ……ティアマトの魔力を制御できる可能性を秘めた魔法少女が生まれたの」

 その言葉に、キルカは愕然とした顔で、掠れた声で呟いた。

「それが……それが、わたし?」

「なの。 ……でも予想外の事が起こったの。 ……あなたはある事件をきっかけに、自らの魔力を自分で封じてしまったの」

 キルカは頷いた。

「今ならわかるの。 そうね……あれがなければ、わたしはきっともっと早くにこの力の開放ができてたのね」

「わたしは何度もあなたとこうして話そうとしたの。 でもわたし自身が封じられていたせいでうまくいかなかったの。 やっとあなたと話せたのは、あなたが魔女の資格を得たあの時なの」

 それを聞いて、キルカは微かに頬を赤らめた。

「それであの時、あなたに会ったのね……」

「なの。 そしてあなたはこうして魔力の封印を解いて……呪いの力も統合して、今こうしてわたしと話しているの」

 魔力のキルカは嬉しそうににっこりと笑った。

「……改めて、ずっと会いたかったの。 キルカ」

 二人はそっと抱き合った。

「ごめんなさいなの……。 わたしが不甲斐ないせいで……あなたにつらい想いをさせたのね……」

 キルカは哀しそうな声でそう言って魔力のキルカをさらに力を込めて抱きしめた。

「いいのよ。 もう大丈夫なの。 ……でもキルカ。 わたしとはこれでもう会えないのよ」

 キルカは驚いて彼女から体を離すと叫んだ。

「なぜなの? やっとこうしてわかりあえたのに!」

 魔力のキルカはふんわりと笑顔を浮かべて、キルカの手を取った。

「こういう風には会えなくなるの。 それはわたしがあなたと完全にひとつになるからなの……。 だからこれからもいつも一緒なのよ」

 キルカはぽろぽろと涙を零しながら、何度も頷いた。

「それに……、他にも状況の変化があるの。 これならきっと魔法少女たちの未来は明るいの」

 魔力のキルカはうれしそうにまた笑った。

「それはなに?」

 キルカが問うと魔力のキルカは笑顔のまま続けた。

「今はみんなが国の垣根を越えて手を取り合っているの。 そして長い魔法少女の歴史の中で初めて本当の仲間意識が芽生えたのよ。 今はこの人間界にいる魔法少女たちは皆、もう戦いはこりごりだってそう思っているの。 ……特にトップに立つ王女たちが手を取り合っている今の状況ならば、いずれそれは下々の魔法少女たちに波及して戦いのない世界になっていくの。 ……わたしはそれを見るのがとても楽しみなの!」

「そうね。 わたしもとても楽しみなの。 ……みんなで仲良く生きていける世界!」

 二人は笑い合いながら、また抱き合った。
 魔力のキルカはキルカを抱きしめながら、そっと囁いた。

「……そして、あなたの幸せのために。 イキロを絶対に助けるの」

 キルカは力強く頷いた。

「なの! わたしは絶対にイキロを助けるの! ……そしてふたりで平和な世界を創って生きていくの!!」

 彼女はそう力強く言うと、大輪の花のような笑顔を咲かせた。
 その瞬間、真っ暗な闇だった彼女の世界が、光り輝くような真っ白な世界へと変わっていった。

「がんばるのよ……」

 魔力のキルカはそう笑顔で言うと、キルカの腕の中から、すう、と薄くなって消えていった。

「……ありがとうなの。 もう一人のわたし。 ……これからもよろしくなの」

 キルカは呟いて、そして力強い意思を持った瞳で真っ白な光り輝く世界を見上げた。



 次の瞬間、キルカは目を開けた。
 そこは魔法少女たちの拠点の、キルカが修行をしていたあのサロンのようなだだっ広い部屋だった。
 彼女はベッドから起き上がると周りを見回した。
 見知った魔法少女たちが皆驚いたような顔で彼女を見つめている。

「みんな! ……だいすきなの!!」

 突然キルカが叫ぶと、魔法少女たちは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

「おいおい、目が覚ましたと思ったら、突然なんでェ!!」

 ライアットが呆れたような声を上げて、そしておかしそうに笑いだした。

「あたしも姐さん大好きっすよ!」

 バレッタが叫んで彼女に抱きついてくる。

「もちろん、私も」

 ルーも言って彼女に抱きついた。

 キルカは嬉しそうに大輪の花のような笑顔で一人ひとりの魔法少女たちを見つめた。
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