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3月29日は桜曜日♪
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桜が開花宣言をするこの時期、とある地域に日帰り旅行に行った。
愛媛県宇和島市(えひめけんうわじまし)である。
お目当ては、伊達博物館(だてはくぶつかん)。
特に宇和島伊達藩(うわじまだてはん)の秘蔵のお宝である、初代藩主、伊達政宗公(だてまさむねこう)の庶子(しょし)であり長男だった秀宗公(ひでむねこう)に贈った手紙の数々ではなく、雛人形である。
桃の節句とも呼ばれる3月3日が終わったのにどうして雛人形?
と、不思議に思われるかたもいらっしゃるだろうが、宇和島だけでなく、愛媛県は旧暦……と言いつつ一月遅れの4月3日まで雛人形を飾る。
一月余り飾り、お祝いをしてからしまうのである。
桃の節句と言いつつ、桜の木の下でお弁当を広げお祝いするのである。
ついでに、雛人形を仕舞うと、入れ違いに五月人形を飾る。
合理的かもしれない……。
で、歴史マニアの私には、
『29日は400年祭の初日の大名行列が!!秀宗公と57騎の忠臣たちと入城したってあるから見たいなぁ!!種子島(たねがしま)の試射があるんやって!!見てみたいんや~!!』
と言っていた戦艦マニアだけかと思っていたレアファンの弟と、
『行きたい!!当然!!博物館!!でも、もう何度か行ったしなぁ……』
と言う妹がいるのだが、私は昔は車酔いがひどく遠出が出来なくて、ようやく行けるようになった宇和島に、ワクワクしていた。
ちなみに、ご存じだとは思うが、種子島は、古式の長い鉄砲(てつはう)で、鹿児島県の種子島で、購入して、それを、様々な地域の刀鍛冶が、研究し、性能を高めていったものであり、戦国時代、織田信長(おだのぶなが)と武田勝頼(たけだかつより)との長篠(ながしの)の戦いの際に用いられたことで有名である。
かなり、弟は楽しみにしていたのだが、当日、弟は腰痛と左足の治療の為に整体の予約があり、嘆いていた。
「あぁぁ!!何で!?俺、見たかったぁぁ!!種子島実際に撃ってるの見たかったぁぁ!!」
「まぁそれは一応わかるけど、今のはそんなに昔以上の性能があるからさぁ……音とか、射撃の腕がない人でもある程度練習すれば出来る筈だよ。そんなに、種子島本物を持つこともないしさぁ、どっかから借りてるんだよ。そこにいけばいいじゃん」
「姉ちゃんには解らんのや~!!俺の、俺の……って、姉ちゃん、昔、日本刀欲しいとか本気で親父に頼んだってホントか?」
コックリ。真顔で頷く。
「あの美しいものが武器だよ!?あれだよ!!あの、艶に反りに、片刃の美しさ。……はぁぁ……欲しいなぁ。買ってって頼んだんだけど、駄目って。諦めたんだよ。その代わり、テディガールって言ったらもっと駄目だって。ひどいよね!!」
「テディガール……って何?」
弟の問いに、うっとりと答える。
「テディガールは、もう、神がこの世界に与え給(たも)うたテディベアの中のテディベア!!伊豆のテディベアミュージアムにおられる、世界最高額のテディベア様!!頂戴!!1200万円也。以上」
「アホか~!!それやったら、俺は、種子島……」
「それこそアホやん。あんたは物の扱いが荒いし、すぐ物を壊すんやけん、種子島なんか持てるか。それこそアホや。あんたが大ケガするのもイヤやけど、周囲に迷惑かけとうみや?どないするん!?まぁ、その時は、姉ちゃんお金ないから、逃げるけどな」
中肉中背のおっさんがいじいじといじける。
「姉ちゃん……鬼や」
「フッ!当たり前やーん。でも、う~ん怪我は痛いよねぇ……だから、やめようね?」
「姉ちゃん……!!」
弟の機嫌を取ることなど、あっさりぽいである。
しかし、いつもはそのまま終わる弟が、
「そう言えば、姉ちゃんの方こそ、1200万円あったら、テディベアを買い漁るんじゃないんか!?今でも……」
「買い漁っとるぅぅ!?冗談言うな!!私は、私の可愛い子供たちを養子に迎えているんだもん!!人を買い物マニアみたいなこと言うな!!ギャンブルよりかましやろうがね!!コツコツ一円十円を貯めて、養子にください!!ってお願いするんだから没問題(メイウェンティ)!!文句があるなら、ギャンブルやめてからにしろ!!ついでに、ミニユエちゃんに謝れ!!」
バッグの中から取り出したレモン色のチーキーを見つめ、弟が呟く。
「あのでかい袋持ってないと思ったら、ちっこいのが……姉ちゃん……何でどこから出すんや……いくつ持っとんで……」
ガックリされたが、仕方がない。
私はテディベアをだっこしていないと、外に出られないのである。
しかし、変な姉の弟は、やはり、変なレアコアマニアである。
それに、楽しみだった……本当に。
何故かと言うと、宇和島の伊達博物館にはこの時期限定の特別展があるのだ。
宇和島伊達藩は、独眼竜と言う別称を持つ伊達政宗公の長男の秀宗公が1615年から治めている。
最初私は、秀宗公が長男でも側室腹の為に来たのだろうと思っていたものの、そうではなく、元々、豊臣秀頼(とよとみひでより)の近習(きんじゅう)として出仕(しゅっし)させられ、半分人質となっており、後にそれが問題になってはと思い、次男を当主にとなったらしい。
しかし父政宗は、度々武威に長けた息子に、和歌を勉強するようにと添削のやり取りをしていたらしい。
微笑ましいなぁ……と思っていると、
「うわぁ、スッゲー」
と声が響く。
「この鎧スゲー!!」
鎧が展示されているところである。
うるさいとは思わなかった。
逆に、ホッとした。
昔、地元の美術館で古書が展示されていたので、友人と二人で、
「うわぁ、こんなこと書かれているよ~?」
「へぇ……あぁ、私はここからなら読めるね」
一応周囲に注意していたのだが、よく響く声持ちだったので、ある男の人に、
「うるさい!!ここは美術館で静かにするもんや!!黙れ!!」
と怒鳴られ、
「も、申し訳ありません!!すみませんでした!!静かにしますので、すみませんでした」
と、頭を下げ、目に涙を浮かべた友人と共に一旦展示場を出た。
その事を思い出したのだ。
でも、あの時は本当に反省する。
悪いことをしたなぁ。
うるさかっただろうなぁ。
……でも、面白い珍しい書簡を読めるのは楽しかったのだ。
その日以来、静かにしているが、でも、感動したり、感心したり、驚いたり……それもダメなのかな……と思っている。
「スゲー!!」
「おい、もう少し静かにしろよ」
友人らしい声が響く。
「でもさぁ……」
「響くんだぞ?他の人もいるんだから」
それからは小さくなった声に、ちょっとふふっと笑ってしまった私である。
で、素晴らしいものを見た。
二つの雛飾りと、お道具の各種である。
一つは江戸雛と言うのだろうか、首の長い、面長のお雛様とお内裏様と、今のお雛様に近い、顔立ちのお二人……。
どちらも、花嫁道具として、正室の方がお輿入した際に持ってこられたもので、それぞれ衣も、お顔立ちも美しい……。
まじまじと魅入(みい)っていると、
「おぉ!?」
と声がした。
父である。
「おい、お前が好きそうなのがあるぞ?」
手招きされ近寄ると声を失う。
雛飾り一式である。
籠(かご)や楽器のミニチュア……琴が小さくなっている。
それ以上に感動して食い入るように魅入ってしまったのは、囲碁、将棋、昔のすごろく……野村萬斎(のむらまんさい)さんが出演した『陰陽師』等に出てくる、不思議な碁盤にも見える、すごろくのミニチュアが、本当に可愛らしい。
それに、将棋の駒も『歩兵』も小指の爪よりも小さいくらいだろうか……私は男爪と言われるほど爪が大きいので、他の方には分かりにくいかもしれない。
しかし、本当に精巧に作られた技術を駆使したもの……。
「……はぁ……すごい……。綺麗……可愛い……素晴らしい……言葉を探せんわぁ……」
「そうやなぁ」
しばらく見て、父は次を見に行っていたのだが、私はあまりの芸術品に、目を見開いて食い入るように見つめるしかできない。
あぁ、こんな素晴らしい、ミニチュアの櫛の一式…精巧で緻密な小箱、囲碁の石も一つ一つ……。
私は夢を見る。
このお道具で、お人形さん遊びをする自分……。
幸せだろうなぁ……。
触れないかも、でも……。
「おーい、姉ちゃん」
「……何?」
現実に戻ってしまったことを残念に思った私は、家族の後を追う。
そして見たのは、
「なーんだ。大判小判じゃん。佐渡金に……」
「よくわからないんだけど……」
母に言われ、答える。
「最近は、貨幣制度で一定のお金だけど、昔は両替商って言って、金銀の価値、重さ、値段を計算しよったんよ。こんな大きなもの持ち歩けないでしょ?両替してこんなものとかにして持ち歩きよったんよ。で、金座、銀座って言って、今の銀座は、元々銀銭作るところ……造幣局みたいなところがあったの」
「よぉ知っとるねぇ……」
「ん?家にあるやんか、こんなんとか、これもあるなぁ…」
指で示し、弟が唖然とする。
「そんなんあったんか!?」
「一時期はまって、買ったよ。偽物でもいいし~。中国切手とか、外国のコインもあるなぁ……」
「姉ちゃん……俺思うんやけど……」
「何?ユエちゃんに……」
「俺、姉ちゃんが世界最強やと思うわ……」
と、言われた。
寛永通宝(かんえいつうほう)とか、他にいくつか持っているだけである。
昔はコインも切手も集めていたし、あるが、それで感心されても……と思う。
「持ってるだろう!?普通!!土器の破片とか!!日本の寺院、仏像、八十八ヶ所の辞典とか、聖書はあるけど、般若心経を梵字で書くとか、元の言葉で読むとかって言うCDとか~♪」
「持つか!?普通!!おかしかろが!?」
「そう?」
帰り道に、道の駅に行き、錦鯉の稚魚が5匹で500円だったので、
「買って!!」
とねだると、父に一言、
「空気のがいる」
「じゃぁ、ナマズ!!」
「駄目!!」
「ドジョウ!!」
父が頭を抱える。
「普通、可愛く、メダカとかにせんのか?」
「じゃぁ、オオサンショウウオ!!」
「飼えるか!!天然記念物やぞ!?虫とか……」
「オオサンショウウオ……飼いたかった!!それより、カブトムシ、クワガタムシは無理!!蛍はいいけど。セミはあの世に行く……」
遠い目をする私に、
「金魚がおるぞ……」
「錦鯉と似とるけど……どこが違うん?」
「コイ科とフナ科の違いじゃ」
「ふーん……」
朱色だけかと思ったのだが、8匹いた金魚はせびれと尾びれ等に黒や白い色があって可愛かった。
金魚は、足元に置いた。
今日は楽しかった。
明日はいい日になって欲しいなぁと外を見ると、山桜の花が山の方で一斉に満開になっていた。
うん、今日もいい日。
今日は桜曜日と呼ぼう。
日曜日よりも可愛い素敵だ。
帰宅後、金魚鉢ではなく、大きな火鉢に水を張っていて、メダカがいるところに放すと言うので、慌てて金魚すくいならぬメダカすくいをした。
メダカは2匹。
悪戦苦闘しつつすくい、金魚を放ち、メダカは、家の小さい水槽に放す。
明日は金魚曜日になればいいな……と、妹に監視されつつ薬を飲み、目を閉じた。
が、今日は、頭痛曜日だった……吐きそうなほどの痛みに、あの時30錠飲むんじゃなかった!!と後悔したのだった。
愛媛県宇和島市(えひめけんうわじまし)である。
お目当ては、伊達博物館(だてはくぶつかん)。
特に宇和島伊達藩(うわじまだてはん)の秘蔵のお宝である、初代藩主、伊達政宗公(だてまさむねこう)の庶子(しょし)であり長男だった秀宗公(ひでむねこう)に贈った手紙の数々ではなく、雛人形である。
桃の節句とも呼ばれる3月3日が終わったのにどうして雛人形?
と、不思議に思われるかたもいらっしゃるだろうが、宇和島だけでなく、愛媛県は旧暦……と言いつつ一月遅れの4月3日まで雛人形を飾る。
一月余り飾り、お祝いをしてからしまうのである。
桃の節句と言いつつ、桜の木の下でお弁当を広げお祝いするのである。
ついでに、雛人形を仕舞うと、入れ違いに五月人形を飾る。
合理的かもしれない……。
で、歴史マニアの私には、
『29日は400年祭の初日の大名行列が!!秀宗公と57騎の忠臣たちと入城したってあるから見たいなぁ!!種子島(たねがしま)の試射があるんやって!!見てみたいんや~!!』
と言っていた戦艦マニアだけかと思っていたレアファンの弟と、
『行きたい!!当然!!博物館!!でも、もう何度か行ったしなぁ……』
と言う妹がいるのだが、私は昔は車酔いがひどく遠出が出来なくて、ようやく行けるようになった宇和島に、ワクワクしていた。
ちなみに、ご存じだとは思うが、種子島は、古式の長い鉄砲(てつはう)で、鹿児島県の種子島で、購入して、それを、様々な地域の刀鍛冶が、研究し、性能を高めていったものであり、戦国時代、織田信長(おだのぶなが)と武田勝頼(たけだかつより)との長篠(ながしの)の戦いの際に用いられたことで有名である。
かなり、弟は楽しみにしていたのだが、当日、弟は腰痛と左足の治療の為に整体の予約があり、嘆いていた。
「あぁぁ!!何で!?俺、見たかったぁぁ!!種子島実際に撃ってるの見たかったぁぁ!!」
「まぁそれは一応わかるけど、今のはそんなに昔以上の性能があるからさぁ……音とか、射撃の腕がない人でもある程度練習すれば出来る筈だよ。そんなに、種子島本物を持つこともないしさぁ、どっかから借りてるんだよ。そこにいけばいいじゃん」
「姉ちゃんには解らんのや~!!俺の、俺の……って、姉ちゃん、昔、日本刀欲しいとか本気で親父に頼んだってホントか?」
コックリ。真顔で頷く。
「あの美しいものが武器だよ!?あれだよ!!あの、艶に反りに、片刃の美しさ。……はぁぁ……欲しいなぁ。買ってって頼んだんだけど、駄目って。諦めたんだよ。その代わり、テディガールって言ったらもっと駄目だって。ひどいよね!!」
「テディガール……って何?」
弟の問いに、うっとりと答える。
「テディガールは、もう、神がこの世界に与え給(たも)うたテディベアの中のテディベア!!伊豆のテディベアミュージアムにおられる、世界最高額のテディベア様!!頂戴!!1200万円也。以上」
「アホか~!!それやったら、俺は、種子島……」
「それこそアホやん。あんたは物の扱いが荒いし、すぐ物を壊すんやけん、種子島なんか持てるか。それこそアホや。あんたが大ケガするのもイヤやけど、周囲に迷惑かけとうみや?どないするん!?まぁ、その時は、姉ちゃんお金ないから、逃げるけどな」
中肉中背のおっさんがいじいじといじける。
「姉ちゃん……鬼や」
「フッ!当たり前やーん。でも、う~ん怪我は痛いよねぇ……だから、やめようね?」
「姉ちゃん……!!」
弟の機嫌を取ることなど、あっさりぽいである。
しかし、いつもはそのまま終わる弟が、
「そう言えば、姉ちゃんの方こそ、1200万円あったら、テディベアを買い漁るんじゃないんか!?今でも……」
「買い漁っとるぅぅ!?冗談言うな!!私は、私の可愛い子供たちを養子に迎えているんだもん!!人を買い物マニアみたいなこと言うな!!ギャンブルよりかましやろうがね!!コツコツ一円十円を貯めて、養子にください!!ってお願いするんだから没問題(メイウェンティ)!!文句があるなら、ギャンブルやめてからにしろ!!ついでに、ミニユエちゃんに謝れ!!」
バッグの中から取り出したレモン色のチーキーを見つめ、弟が呟く。
「あのでかい袋持ってないと思ったら、ちっこいのが……姉ちゃん……何でどこから出すんや……いくつ持っとんで……」
ガックリされたが、仕方がない。
私はテディベアをだっこしていないと、外に出られないのである。
しかし、変な姉の弟は、やはり、変なレアコアマニアである。
それに、楽しみだった……本当に。
何故かと言うと、宇和島の伊達博物館にはこの時期限定の特別展があるのだ。
宇和島伊達藩は、独眼竜と言う別称を持つ伊達政宗公の長男の秀宗公が1615年から治めている。
最初私は、秀宗公が長男でも側室腹の為に来たのだろうと思っていたものの、そうではなく、元々、豊臣秀頼(とよとみひでより)の近習(きんじゅう)として出仕(しゅっし)させられ、半分人質となっており、後にそれが問題になってはと思い、次男を当主にとなったらしい。
しかし父政宗は、度々武威に長けた息子に、和歌を勉強するようにと添削のやり取りをしていたらしい。
微笑ましいなぁ……と思っていると、
「うわぁ、スッゲー」
と声が響く。
「この鎧スゲー!!」
鎧が展示されているところである。
うるさいとは思わなかった。
逆に、ホッとした。
昔、地元の美術館で古書が展示されていたので、友人と二人で、
「うわぁ、こんなこと書かれているよ~?」
「へぇ……あぁ、私はここからなら読めるね」
一応周囲に注意していたのだが、よく響く声持ちだったので、ある男の人に、
「うるさい!!ここは美術館で静かにするもんや!!黙れ!!」
と怒鳴られ、
「も、申し訳ありません!!すみませんでした!!静かにしますので、すみませんでした」
と、頭を下げ、目に涙を浮かべた友人と共に一旦展示場を出た。
その事を思い出したのだ。
でも、あの時は本当に反省する。
悪いことをしたなぁ。
うるさかっただろうなぁ。
……でも、面白い珍しい書簡を読めるのは楽しかったのだ。
その日以来、静かにしているが、でも、感動したり、感心したり、驚いたり……それもダメなのかな……と思っている。
「スゲー!!」
「おい、もう少し静かにしろよ」
友人らしい声が響く。
「でもさぁ……」
「響くんだぞ?他の人もいるんだから」
それからは小さくなった声に、ちょっとふふっと笑ってしまった私である。
で、素晴らしいものを見た。
二つの雛飾りと、お道具の各種である。
一つは江戸雛と言うのだろうか、首の長い、面長のお雛様とお内裏様と、今のお雛様に近い、顔立ちのお二人……。
どちらも、花嫁道具として、正室の方がお輿入した際に持ってこられたもので、それぞれ衣も、お顔立ちも美しい……。
まじまじと魅入(みい)っていると、
「おぉ!?」
と声がした。
父である。
「おい、お前が好きそうなのがあるぞ?」
手招きされ近寄ると声を失う。
雛飾り一式である。
籠(かご)や楽器のミニチュア……琴が小さくなっている。
それ以上に感動して食い入るように魅入ってしまったのは、囲碁、将棋、昔のすごろく……野村萬斎(のむらまんさい)さんが出演した『陰陽師』等に出てくる、不思議な碁盤にも見える、すごろくのミニチュアが、本当に可愛らしい。
それに、将棋の駒も『歩兵』も小指の爪よりも小さいくらいだろうか……私は男爪と言われるほど爪が大きいので、他の方には分かりにくいかもしれない。
しかし、本当に精巧に作られた技術を駆使したもの……。
「……はぁ……すごい……。綺麗……可愛い……素晴らしい……言葉を探せんわぁ……」
「そうやなぁ」
しばらく見て、父は次を見に行っていたのだが、私はあまりの芸術品に、目を見開いて食い入るように見つめるしかできない。
あぁ、こんな素晴らしい、ミニチュアの櫛の一式…精巧で緻密な小箱、囲碁の石も一つ一つ……。
私は夢を見る。
このお道具で、お人形さん遊びをする自分……。
幸せだろうなぁ……。
触れないかも、でも……。
「おーい、姉ちゃん」
「……何?」
現実に戻ってしまったことを残念に思った私は、家族の後を追う。
そして見たのは、
「なーんだ。大判小判じゃん。佐渡金に……」
「よくわからないんだけど……」
母に言われ、答える。
「最近は、貨幣制度で一定のお金だけど、昔は両替商って言って、金銀の価値、重さ、値段を計算しよったんよ。こんな大きなもの持ち歩けないでしょ?両替してこんなものとかにして持ち歩きよったんよ。で、金座、銀座って言って、今の銀座は、元々銀銭作るところ……造幣局みたいなところがあったの」
「よぉ知っとるねぇ……」
「ん?家にあるやんか、こんなんとか、これもあるなぁ…」
指で示し、弟が唖然とする。
「そんなんあったんか!?」
「一時期はまって、買ったよ。偽物でもいいし~。中国切手とか、外国のコインもあるなぁ……」
「姉ちゃん……俺思うんやけど……」
「何?ユエちゃんに……」
「俺、姉ちゃんが世界最強やと思うわ……」
と、言われた。
寛永通宝(かんえいつうほう)とか、他にいくつか持っているだけである。
昔はコインも切手も集めていたし、あるが、それで感心されても……と思う。
「持ってるだろう!?普通!!土器の破片とか!!日本の寺院、仏像、八十八ヶ所の辞典とか、聖書はあるけど、般若心経を梵字で書くとか、元の言葉で読むとかって言うCDとか~♪」
「持つか!?普通!!おかしかろが!?」
「そう?」
帰り道に、道の駅に行き、錦鯉の稚魚が5匹で500円だったので、
「買って!!」
とねだると、父に一言、
「空気のがいる」
「じゃぁ、ナマズ!!」
「駄目!!」
「ドジョウ!!」
父が頭を抱える。
「普通、可愛く、メダカとかにせんのか?」
「じゃぁ、オオサンショウウオ!!」
「飼えるか!!天然記念物やぞ!?虫とか……」
「オオサンショウウオ……飼いたかった!!それより、カブトムシ、クワガタムシは無理!!蛍はいいけど。セミはあの世に行く……」
遠い目をする私に、
「金魚がおるぞ……」
「錦鯉と似とるけど……どこが違うん?」
「コイ科とフナ科の違いじゃ」
「ふーん……」
朱色だけかと思ったのだが、8匹いた金魚はせびれと尾びれ等に黒や白い色があって可愛かった。
金魚は、足元に置いた。
今日は楽しかった。
明日はいい日になって欲しいなぁと外を見ると、山桜の花が山の方で一斉に満開になっていた。
うん、今日もいい日。
今日は桜曜日と呼ぼう。
日曜日よりも可愛い素敵だ。
帰宅後、金魚鉢ではなく、大きな火鉢に水を張っていて、メダカがいるところに放すと言うので、慌てて金魚すくいならぬメダカすくいをした。
メダカは2匹。
悪戦苦闘しつつすくい、金魚を放ち、メダカは、家の小さい水槽に放す。
明日は金魚曜日になればいいな……と、妹に監視されつつ薬を飲み、目を閉じた。
が、今日は、頭痛曜日だった……吐きそうなほどの痛みに、あの時30錠飲むんじゃなかった!!と後悔したのだった。
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