懐かしい初期作品

刹那玻璃

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息を吐いても胸に残るなごり雪

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 今日も歌を口ずさむ。

 イルカさんの『なごり雪』である。
『汽車を待つ……』
 から始まる歌詞に、情景が浮かんで、フォークソングも大好きな私のベストソングである。

 私の曲のレパートリーは広い。

 そして、

「うおぉぉぉ!?日向夏(ひゅうか)ぁぁ!!」

 奇声を発する私に、あっさりと、

「何?姉ちゃん」
「これこれ!!見てみて!!」

 差し出したものに、日向夏は珍しく目を見開く。

「うわぁ!!古い!!中学校時代の楽譜じゃない!!うわぁ……学校音楽コンクールの当時の課題曲とか、あれ?『あの素晴らしい愛をもう一度』に、『もしもピアノが弾けたなら』『さよなら』って……うち知らんよ?」
「私が一年の時の、コーラス部の先生が色々と楽譜をくれてたからねぇ……『冬が来る前に』『時代』すごいよねぇ……その合間に、『流浪の民』と『ヒマラヤ桜』……あ、あった」
「……あれは衝撃だったよね……」

 頷く。
 コンクールの二週間前まで、3曲の中から選ぶといっていたのに、時間が長いと言う理由で3曲はすべて取り止め、選ばれた曲。

「地獄を見たよ……うん。ソプラノ担当リーダーだったのに、男性のパートもびしびし指導!!」
「姉ちゃん……先輩方に鬼の指導教官って呼ばれてたもんね」
「おちゃらけるのが悪い。どうして、あの部分で裏声使うんだ~!!『本気で、アルトパートに行ってこい!!』って引っ張っていこうとしたからね!!当時はあまり知られていなかったけど、カウンターテナーって言うのがあったからね!!」

 妹の目が生暖かい。

「姉ちゃん。その先輩にだけは、苛めっ子だったよね。さすがはツンデレ」
「な、何言うの!?私は平等に!!」
「先輩に対してだけは、厳しくて、先輩嘆いてたよ。『刹那(せつな)さん(本名)。お姉さんってさぁ……俺のこと嫌いなのかな?』って。そうしたら周囲の先輩は『刹那姉、メチャクチャパニックだっただろ?お前、知らんのか?』『俺悪いことしたっけ?』『……』だったよ」

 一気に頬を赤くして、叫ぶ。

「ぎゃぁぁぁ!!えぇぇぇ!!ひ、酷いことしたかな!?嫌われてるかな!?」
「言うか、分かりやすいのに、先輩もボケ体質で姉ちゃんもツンデレで、皆『いつ、アイツが気づくんだ』それよりもツンデレ刹那姉。アイツが、告白するのは絶対無理!!』『そうそう絶対無理だから、生暖かく見守ってやろうぜ!!それともカケするか?』『どっちが告白するか』『そりゃ無理だろ』って他の先輩言ってたし」
「ぎゃぁぁぁ!!見せれない!!恥!!ごめんなさい!!苛めるつもりじゃなくて、びしびし教育を!!」
「姉ちゃんメチャクチャ分かりやすいのに、先輩鈍かったもんね」

 妹の一言に、妹の布団で転がり回る。
 忘れようとしていたのに、この羞恥プレイは何なのだ!?

「そ、それよりも、この二週間で仕上げた曲はかなり難問だったわぁ……。『おら読め!!どっか分からんことがあったら、言え!!時間が惜しいんじゃ!!理解するのは30分!!って、やってたしなぁ……』」
「だから鬼教官なんだよ。姉ちゃんは。しかも、結構向こうのプライド刺激すること言ってたしね」
「仕方ないじゃん。向こうは、運動部だからって、コーラス部のことを舐めてたからね。初っぱなから『この程度で、コーラスやれるかぁ!!』って言って、怒鳴り倒したもん」

 そうである。
 表向きは文化部のコーラス部のことをナメる人間は多い。
 特にサッカー、野球と言った花形は。
 しかし…。

「『あんたら、その程度で運動部名乗んな!!運動場外周7周ごときでへばるな!!階段の登り降り50往復も、数を騙すな!!ついでに腹筋背筋スクワット100回、腹式呼吸を30分以内で出来ないんだったらやめろ!!』だったもんね……姉ちゃん。ちょっと不憫だったよ。余りの厳しい一言しか言えない不器用な姉ちゃんが哀れで。真面目すぎも損だね……」
「……うぅぅ……」
「姉ちゃんは好きな子ほどうりうり苛めるから……でも、嫌われない苛めと言うか、お子さま苛めだったから、それにその後ちゃんと自分の仕事をしつつ、行ったり来たりして二つとも指導してたから嫌われないけど、それできっついままだったら嫌われてたね」

 そうなのだ……完璧主義者なので、自分は完璧に近いように努力する。
 そして相手には、最低限のマナーや体力、呼吸法、発声など、歌についてなどまで教え込む。
 でなければ、歌えないのだ。

「でも、この曲を出されたときには意識ぶっとんだわ……」
「私も……何で『葬式』なんだろうね……中学生に歌わせてどうするんだろう」

 楽譜は、学校音楽コンクールの自由曲があった。
 課題曲は2曲あり、どちらかを選べるようになっている。
 そして……。

「まぁ、曲は解釈が難しいから何とも言えないけど、二週間でようやったわ」
「そうやねぇ……特に姉ちゃんは、二つのパートの練習をして、その上、先生が出場人数を間違えてたからって、ソプラノパートを一人減せって強引に言われたもんね」
「……そうなんよねぇ……」

 遠い目になる。
 ソプラノパートは、声の特別に高い私が緊張すると声が小さくなる後輩を引っ張る牽引の役割を与えられたため、私を除く全てのソプラノパートから一人減せと言われた。
 本当は一人だけ、気に触る後輩がいたのだが、その後輩を下げると、日向夏や日向夏の幼馴染みの子が孤立する。
 しかし、歌のうまさ、声の高さ、安定度は、妹たちが上。
 でも、鬱陶しいのは派閥を作って、嫌がらせをする、声はメゾソプラノになるかどうかだと言うのにごり押ししてソプラノに入ってきたその子……。
 もう面倒なので、自分が出ませんのでと言うと、妹たちが、

「私たちが一曲ずつ歌うので、先生お願いします」

 と言ったと聞き、悔しくなった。
 日向夏は、その幼馴染みの子は、優しい、綺麗な高音の持ち主だ。
 特に、高音を綺麗に出せる部員は少ない。
 音を外すか、半音下がるか、ぶれるのだ。
 それなのに……。

「あの時は、悔しかったなぁ……銀賞」
「仕方ないよ」
「私が出なかったら……」

 ぴょこんと首をすくめる。

「それは無理だよ。先生言っていたけど、姉ちゃんのあの高音のお陰で市民会館の大ホール中に声が響いて……」
「それもやめて~!!高音で、緊張すると声が大きくなって高くなるのに!!凶器だよ!!」
「いやぁ、言ってたよ。キンキン響く声じゃなくて、ソプラノパートの声は、高いところに広がって、降り注ぐ感じの祈りの歌に聞こえたって、あの高音は誰だって言ってたらしいよ?」

 嘘だ!!
 鼓膜破壊兵器なのだ。

「頑なだねぇ、お姉ちゃんは」
「仕方ないよ。だって、下手だもん」
「低い声が出せないだけでしょ。落ち込まなくても、姉ちゃんの声は優しいよ。世界に祈りを捧げているようで、歌で幸せを贈っているようで、好きだなぁ、私は」

 日向夏の言葉に、

「歌の力で、本当にそうなればどんなに良いだろうね……高校に入って辞めちゃったから……勉強しておけばよかった」
「普通で良いんだよ。今度カラオケ行こうよ」
「そうだねぇ。行こうか」



 ボロボロの楽譜は、今度、コピーをとって、残しておこう。
 又宝物が増えた。



 ……しかし、恥ずかしい過去も暴露されたのだった。
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